コロナ禍によって大きなダメージを受けた2020年代初頭のライブハウスシーン。しかし、そこから息を吹き返した2025年現在では、エモ、ポストロック、シューゲイザーなどの影響を感じさせるオルタナティブなロックバンドが多数頭角を現し、新たなシーンが形成されている。彼らはどんなバンドに影響を受け、どんな精神性で活動を続け、どんな未来が待っているのだろうか?
そんな現在のシーンを俯瞰するべく、現役のバンドマンであり、レーベルオーナーでもある2人、辻友貴と中川航による対談を実施。cinema staffのギタリストとしてメジャーシーンでも活動しながら、2010年代半ばにインディレーベル「LIKE A FOOL RECORDS」を設立し、2015年にオープンしたレコードショップ(兼飲み屋)が2025年で10年目を迎えた辻。数多くのバンドにドラマーとして関わりながら、インディレーベル「ungulates」のオーナーとして、くだらない1日、ANORAK!、downtを輩出するなど、2020年代のシーンに直接関与してきた中川。ともに現場に根差した活動を続ける30代の2人だからこそ語ることのできる、リアルな現状をお届けする。
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「うちらより下の世代がSNSを使ってオルタナを盛り上げてくれてる」(辻)
ー現在のオルタナティブなバンドの盛り上がりをどう感じていますか?
辻:あんまり感じてないです(笑)。このシーンって、ずっとあると思うんですよ。かっこいいバンドもずっといるし、それなりにお客さんが入るバンドもずっといるし。だから今世間的に思われてる感じはなんなんだろうなと思うんですけど……まあめっちゃ若い子たちが盛り上がってる感じはちょっと前だとあんまりなかったかもしれないですね。雪国はこの前初めてライブを観たんですけど、新代田FEVERがソールドしてて。
中川:京くん(雪国のVo / Gt)なんて20歳くらい(2003年生まれ)ですよね。
辻:そうそう。それはすごいなと思うんだけど、でもNITRODAYとかリーガルリリーが出てきたときも20歳くらいでしたよね(※)。ただ当時よりも若い子が盛り上がってる感じがするのは、SNSがあるからそうなってるんだと思う。
※NITRODAYはメンバーが高校在学中の2017年にデビュー。リーガルリリーは2015年に10代限定フェス『未確認フェスティバル』で準グランプリを獲得して、2016年にデビュー。

1987年生まれ。岐阜県出身。cinema staffのほか、peelingwards、mynameisでもギターを務める。2010年代半ばにインディレーベル「LIKE A FOOL RECORDS」を設立し、2015年に新代田にオープンしたレコードショップ兼立ち飲み屋「LFR(LIKE A FOOL RECORDS / えるえふる)」は2025年で10年目を迎えた。
中川:それは大きいですよね。みんながパソコンやスマホを使ってて、宅録のハードルもすごい下がったから、いろんな音楽をミックスするバンドも増えて、そういうシーンが今まさに盛り上がってる感じなのかな。
辻:やっぱりSNSは若い人が中心だから、そこで盛り上がってる感じが今までと違うんじゃないかな。これまでオルタナを盛り上げてたのはうちら世代とか、うちらより上の世代だったけど、今はもっと下の世代がSNSを使って、「こういう音楽が面白い」って、オルタナを盛り上げてくれてる感じはあるかもしれない。それこそ、航くんも同世代だけど僕より少し下だから、その感じをやってくれてると思う。

1992年生まれ。HOLLOW SUNS、sans visage、as a sketch pad、soccer.など、様々なバンドでドラマーとして活動中。インディレーベル「ungulates」を主宰し、くだらない1日やdownt、ANORAK!の初期作品をリリース。また、ツアーブッキングエージェントとしてyour arms are my cocoonやOstraca、Rest Ashoreといった海外アーティストのジャパンツアーも手掛けている。ジャンルや国籍にとらわれず、国内外のインディペンデントなアーティストと共にシーンの活性化を推進している。
ーひとひらなどをリリースしているレーベルのOaikoはnoteを使って積極的に情報を発信していますよね。
中川:SNSの使い方がすごく上手なのはHOLIDAY! RECORDS(※)だと思います。バンドの名前を出さないで、「何だろう?」と思わせる文章を書くのが上手。僕もそういう風にやってみたら、そんなにとっつきやすい音楽じゃなくても、ちゃんと反応が良かったりして。今はむしろヘンテコな音楽の方が面白いと思ってもらえるのかもしれない。
※2014年にスタートした個人経営のセレクトショップ。実店舗はなく、通販サイトとライブハウスでの出張販売のみ。X、Instagram、noteなどでおすすめの音楽を紹介し、インディーズ好きから大きな支持を獲得している。
辻:最初HOLIDAY! RECORDSはSNS上手くてむかつくなって思ったけど(笑)、本人に会ったら本当に音楽が好きなんですよね。
ーこの2〜3年でLIKE A FOOL RECORDSに来るお客さんの層が変わったりもしてますか?



辻:そこはあんまりなんですよね。たまにめっちゃ若い人が来て、「1990年代のあのアルバムの何曲目が」みたいに、すごく詳しいんですけど、でもそういう子は基本的にずっとネットで追ってるんです。そこからこういう店があるのをたまたま知って来てくれたりもするんだけど、ライブを観に行くタイプでもなかったりするんですよ。
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2010年代のエモリバイバルが現代のシーンに与える影響
ーもちろんSNS自体は前からあったけど、10代~20代がオルタナな音楽の情報を積極的に発信したり、それに反応するようになったのはわりと最近のことですよね。そういう現行のシーンの背景を探ると、まずは2010年代に海外で起こったエモリバイバルが大きいのかなと。
辻:うちらは1990年代のシーンをリアルタイムでは追えなくて、掘って聴く世代だったから、リアルタイムで起こったエモのリバイバルを追えたのは大きくて。バンドでいうとAlgernon Cadwalladerとか、レーベルでいうとCount Your Lucky Starsとか。世代的に僕らよりちょっと上だと思うんですけど、ああいうバンドがいっぱい出てきたのは夢中になりました。

中川:個人的に思い入れがあるのはEmpire! Empire!(I Was a Lonely Estate)で、僕はもともと1990年代というより2000年代のエモが好きだったんですよ。入りでいうと、Fall Out BoyとかMy Chemical Romanceがもともと好きで、そこからエモ、スクリーモ、メタルコアとかを聴いて。で、そこからTopshelfとかCount Your Lucky StarsのようなレーベルをBandcampでめっちゃチェックするようになって、気に入ったら買ってました。
辻:僕よりちょっと下の世代はそういう音楽に直で影響を受けたバンドが多いんですよ。PENs+とか、1inamillionとか。シネマ(cinema staff)はもともとポップな音楽が好きだったんだけど、バンドをやってる中で1990年代のエモが途中で入ってきた感じなんですよね。でも僕のちょっと下はエモリバイバルの流れともっと直結してる印象で。
中川:SUMMERMANとかSLEEPLESSとか、吉祥寺WARPとかでよく活動していたバンドはそうですよね。好きだからそのまま落とし込んでやってる、みたいな。僕のプラマイ2、3歳くらいの友達はそういう感じですね。
ー海外でのエモリバイバルは若い世代だけではなくて、アメフト(American Football)をはじめとした再結成ブームも大きかったですよね。
中川:そうですよね。Mineralとか。
辻:Braidとか。
ー今の20代はアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)とかシネマのような日本のバンドが入口で、そこからエモリバイバルを知り、アメフトやMineralはみんな当然知ってるような状況で、それが面白いなと。
辻:アメフトが復活したときは超歓喜だったし(2014年に再結成をして、2015年に来日)、BraidもMineralも復活して、あのときはすごかったけど、でもそこから一旦落ち着いたと思うんですよ。お客さんちょっと減った感じだったけど、今またすごいですよね。
中川:アメフトの今年の来日すぐソールドでしたよね。
ーZepp DiverCityがソールドアウト。
中川:前に来たとき(2017年)は赤坂BLITZでやってたと思うけど、ソールドしたかなあ?
辻:いや、してない。
中川:ですよね。今はあのときの盛り上がりよりでかいんだと思って、びっくりして。

辻:The Get Up Kidsも今年はリキッドルームが即完したんですよね。まあ、リキッドなら売り切れるとは思うけど、僕はシネマで2013年に共演したことがあって、今回そのときと同じアルバム(『Something to Write Home About』)の再現ライブなんですよ。正直2013年のときはそこまで盛り上がった感じじゃなかったけど、今はもっと若い子たちが食いついてる感じがあって、それは変わったなと思いますね。
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the cabs再結成の衝撃、残響レコードの再評価
ー2010年代の日本のバンドで、現在のシーンに対する影響が大きいバンドは誰だと思いますか?
辻:それこそthe cabsじゃないですか。「聴いてください」とか「取り扱ってください」って持ってきてくれる若い人の音源を聴いたときに、the cabsの影響受けてるなってバンドすごく多くて。
ー彼らは2013年に解散をしたわけですけど、今年1月の再結成発表に対するリアクションは非常に大きかったですよね。
中川:やってないうちに、幻想が高まっていくんじゃないですかね。アメフトもそうじゃないですか。やってないうちに、語り継がれて、大きくなる。NUMBER GIRLもそうで、僕も高校生のときに聴いてたけど、今は「下北のバンドマン全員NUMBER GIRL好き」みたいな感じになってるのが不思議で、「そんなみんながみんな好きなバンドじゃなくなかった?」みたいな。やってない期間があって、観たくても観れなかったバンドが再結成すると、神格化される流れはあるかなって。
辻:それこそ今はSNSがあるから、よりそういうのが広まるんだろうね。the bercedes menzとかもさ、SNSですごい盛り上がって、あれはバンド側にはコントロールできないじゃないですか。the cabsも本人たちが一番びっくりしてるんじゃないかな。

辻:あと仲間内でよく話してたのが、the cabsが活動を続けてた世界線があったとしたら、『ROCK IN JAPAN』みたいなフェス文化はなかったんじゃないかって。the cabsがいなくなったタイミングから4つ打ち文化になって、フェスで暴れる文化になったじゃないですか。でもそのままthe cabsが人気になってたら、あのフェス文化は生まれたのかなって。
ーthe cabsが続いてたらKEYTALKがどうなったかはわからないし、indigo la Endよりもゲスの極み乙女。が盛り上がったかどうかもわからない(※)。
※the cabsの首藤義勝は2007年にKEYTALKに加入して、両方のバンドで活動していたが、2013年のthe cabs解散以降はKEYTALKに専念。川谷絵音を中心としたindigo la Endはオルタナやポストロックから影響を受け、the cabsとも近いシーンにいたが、先にブレイクしたのは後で結成したゲスの極み乙女。だった。
辻:そういうことです。
ーでも面白いですよね。そこの世界線が失われたと思ったら、実はつながっていた。それこそ今はthe cabsだけじゃなくて、残響レコード(※)自体が再評価されてる感じもするし。
※2004年設立のインディーズレーベル。9mm Parabellum Bullet、People In The Box、cinema staff、the cabsなどを輩出。またte’をはじめとしたインストバンドが多数所属して、日本のポストロックブームにも大きく関与した。
辻:あんまり残響のことは言いたくないけど(笑)。
中川:僕も高校生のときは残響レコードめっちゃ好きでした。あとはもちろんtoeとかも好きだったし、そういうバンドが今も続けてくれてるのは大きいですよね。僕は海外のバンドを呼んだり、自分のバンドでも海外によく行くんですけど、「日本のバンド誰が好き?」って聞くと、toeとenvyの名前は必ず出てきて、そういうバンドが音源を出し続けてるから、今につながってるんだろうなって。
辻:toeとenvyは相当でかいよね。僕が日本に来た海外のバンドと話をしても、やっぱりその2バンドは絶対出てくる。航くんは最近も海外のバンド呼んでたよね?
中川:Ostracaというバンドを東名阪3本やって、昨日空港に送ってきました。
辻:日本のバンドが好きなの?
中川:そのメンバーはHeaven In Her ArmsやCorruptedが好きで、Sans Visageも知ってました。あと中国にすごいNUMBER GIRLが好きなバンドがいて、“YES,We Love Number Girl”って曲があるんですよ(笑)。
ー海外のことはまた後で聞きたいと思うんですけど、2010年代の日本でいうと、THE NINTH APOLLOやKiliKiliVilla(※)のようなインディレーベルの影響はどう思いますか?
※THE NINTH APOLLOは2004年に設立され、My Hair is Bad、さよならポエジー、KOTORIなどをリリース。KiliKiliVillaは2014年に設立され、NOT WONK、SEVENTEEN AGAiN、SUMMERMANなどをリリース。
辻:KOTORIはアメフトっぽいフレーズとか、このバンドに憧れてるっていうのがわかりやすくて、僕はそれがすごくいいなと思いました。僕らはそれをやるのを恐れてた世代というか、「結局そのバンドが好きなんでしょ?」と言われないように、どうにかこねくり回してる感じだったけど、1個下の世代は周りが言うことを気にしないで、純粋に好きな音楽を鳴らしてる気がして、それはすごくいいなって。
中川:SEVENTEEN AGAiNが主催する『リプレイスメンツ』(※)はめっちゃすごいなと思います。クラブチッタが満員になって、そこにちゃんと若い子たちが集まってて、リスペクトされてるのはすごいなって。
※SEVENTEEN AGAiN主催のイベント。2021年からはクラブチッタ川崎で開催され、「Name Your Price」=投げ銭方式も話題に。

辻:バンド主催のイベントが大きくなるのはいいですよね。それこそKOTORIもそうだし、TENDOUJIもですけど、バンドマンがみんなで盛り上がってる感じは理想だなって。コロナ以降は対バンイベントにお客さんが入りづらくなってる感覚があるんですよ。対バンでお客さんを入れるのはすごく難しいけど、それが一番やりがいがある。
中川:ワンマンの方が入りやすい?
辻:そうそう。
ーワンマンかフェスか。その中間がなかなか難しい。
辻:スリーマンが一番難しい。本当に合う3バンドじゃないとお客さんがなかなか入らなかったりするから。今年の5月にあった、ひとひら、ルサンチマン、シネマのスリーマンはバンド主催ではなかったんですけど、世代を超えた組み合わせで渋谷WWWが即完したのは嬉しかったですね。
中川:僕はワンマンも嬉しいけど、そもそも対バンが好きで。バンドとバンドがつながったり、お互い新しい発見があったり、そういうのがいいなって思うんですよね。
ーアーティスト主催フェスでいうと、シネマが岐阜で開催している『OOPARTS』も毎年オルタナなラインナップですよね。

辻:うちらはずっと年上のバンドとやることが多くて、でも続けていく中でだんだん下のバンドともやるようになって、それこそKOTORIとかAge Factoryとかと、コロナ前まではよく一緒にやっていて。最近はそこにさらに下の世代を上手く混ぜて、どうやって流れを作れるか考えることが増えた気がしますね。
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くだらない1日、ANORAK!、downt。コロナ禍がもたらしたレーベルとしてのungulatesの功績
ーungulatesはコロナ禍以降にくだらない1日とANORAK!のスプリット、downtのアルバムを出して、2020年代の流れを作ったなと。
辻:めちゃでかいと思う。
中川:僕はもともと「レーベルをやるぞ!」っていうつもりは全くなかったんです。まずは自分のバンドでツアーをやりたくて、でもSans Visageはみんなフルタイムで働いてるからなかなかできなくて、そういう中で海外から「日本に行きたい」って言ってくれるバンドがいたから、「それだったら僕も旅できるし楽しいな」みたいな感じもあったし、激情系(※)のバンドはプロモーターもほぼいない感じなので、それで自分でブッキングをやり始めて。そしたらコロナになって。ライブは禁止だけど、レコーディングは怒られないから、友達と一緒に作品を作って、ungulatesから出すことにしたんです。
※ハードコアパンクやエモのバンドの中でも特に攻撃的でカオティックな方向性のバンドを指す。「激情ハードコア」とも呼ばれる。
ーライブハウスにはあったエモリバイバルの流れが、それこそSNSとかを通じて、より広がりを見せた感じがありましたよね。
辻:さっき言ったような、勝手にバンドが大きくなっていくのを一番感じてそうな気がする。
中川:確かにそうですね。リリースしたバンドは僕より年下が多いんですけど、でもエモリバイバルが好きなのは一緒だし、ANORAK!はHot Mulligan、Free Throw、Origami Angelとか、もっとモダンな、いわゆる5th wave、エモリバイバルのリバイバルみたいな音楽も取り入れてて。好きなものを共有してる人と一緒に物作りをして、出してみたら結構リアクションがあって、それは嬉しかったです。
辻:それを自然にやってる感じがいいなと思った。SUB POP(※)みたいな感じというか、メジャーな方に行くことを否定せず、そのまま送り出してる感じがした。
※1986年に設立されたアメリカ・シアトルのインディレーベル。NirvanaやSoundgardenらが最初に契約したレーベルとして知られ、1990年代前半のグランジブームの立役者となり、それ以降も良質なバンドを多数輩出して、ビルボードチャートで結果を残したバンドも多い。
中川:僕のスタンスとしては、「他にやる人がいないんだったらやるけど、もっといい条件の話があるならそっちの方がいいじゃん」みたいな感じなんですよね。Oaikoの町田くんとかは、僕がくだらない1日とかdowntとかANORAK!とかをリリースしているのを見て、自分でも何かやりたいと思ってくれたみたいで、そういうのは嬉しかったですね。
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Oaikoやtomoran、若い世代を中心に支持を広げる新興レーベル
ーOaikoやtomoranのようなレーベルがコロナ禍の前後にできて、若い世代を中心に支持を集めています。あのあたりのバンドはシネマのファンも多い印象ですけど、辻くんはどう見てますか?
辻:ありがたいことに僕たちのことをすごく知ってくれてたり、リスペクトしてくれていて、関係性を作りやすいのはありますね。Oaikoの町田くんも今度ここを使ってイベントをやってくれたり(7月12日にトークイベントを開催)、あとはStudio REIMEI(※)のチームもそう。僕らがやってるような音楽を盛り上げたいと思ってる人たちとつながれてるのはすごくありがたいし、そこからいろいろ情報がもらえるのも面白いです。
※SAGOSAIDのSAGOとVINCE;NTのギタリストでエンジニアでもあるシンマが運営する西調布の音楽スタジオ。多くのアーティストがスタジオライブを行い、「REIMEI SESSION」としてYouTubeで配信もしている。
中川:kurayamisakaはネットでは基本顔出しをしなかったり、アートワークが全部イラストだったり、ちゃんとトータルコーディネイトをしてる感じはすごいなって。
中川:あとは最近だとmoreruもすごく面白いですね。夜中のclubasiaをパンパンにしてたり。
辻:GEZANとかもそうですけど、ジャンルの中にいようとしない人が生まれてくるのが面白いですよね。シーンで一括りにされたくはないから、みんなどうやって抜け出すかを考えて、それこそSNSもうまく使ったりしてると思う。でもその一方ではそんなこと言ってること自体しゃらくせえと思ったり、みんなそれぞれ悩んでるのかなって。

ー一昔前のエモでもポストロックでも、やっぱり本人たちからすると括られるのは本意じゃないし、でもそれをきっかけに知ってもらえる可能性もある。その辺りのブランディングというか、それぞれの態度もSNSを通じて見えてくる印象です。
中川:僕はそういうの不思議だなって思ってたんですよ。「俺はエモじゃねえ」とか「僕らはシューゲイズじゃない」とか、そういうこと言うバンドがいっぱいいるけど、「いや、絶対影響受けてるでしょ?」って思う。「そうですよ、好きですよ」でよくない? とは思うかな。
辻:みんなそこはすごく測ってる感じがする。うちらの上の世代は好きな音楽を明かさないとか、日常を見せないとか、それでヒーローになってたと思うから、そういうのも好きだったけど、自分たちはそこをもっと見せるようにした世代というか。そこからSNSが広まって、今の世代は日常とバンドをやってる時間をどうやって区別して、ある意味マーケティングしていくのか、みんな考えてるんだろうなって。
中川:じゃないことを語るんじゃなくて、好きなことを語ったらいいんじゃないかなって、僕はそう思っちゃうんですけどね。
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コロナ禍を経て近づいた世界との距離。「海外のバンドを日本に呼ぶのも、大阪のバンドを東京に呼ぶのも同じ」
ー現代のシーンの特徴として、海外とのつながりも大きいと思います。ungulatesは近年海外のバンドをかなり招聘していますよね。
辻:コロナ以降、海外とはどうやりとりしてるの?
中川:Instagramですね。だいたいバンドがDMで、「日本ツアーしたいんだけど」って連絡をくれて、普通に友達になるみたいな感じ。
辻:Hollow Sunsは去年アメリカツアーをしてたよね。
中川:Hollow Sunsはずっとアメリカでやりたかったんですけど、ライブ1本のためには行けないから、ツアーができるきっかけをずっと探してたんです。そういう中でテキサスのSunday Drive Recordsから音源を出すことになって、そこのレーベルメイトのLeaving Timeのツアーで一緒に回らせてもらった感じですね。
ー海外との距離感に変化を感じますか?
中川:めっちゃ近づきましたね。そもそもコロナで都内に住んでいる人とも会わない時期があったりしたから、1万キロ離れてようが隣の家の友達と同じ感覚で、Instagramを見て、メッセージをしてっていう感じなので、距離は関係なくなった気がします。
あとは自分がバンドマンでもあるので、僕がバンドを呼ぶこともあれば、自分でツアーをすることもあって、そのときはわりと対等というか、自分たちがそんなに大きいサイズ感じゃないのもお互いわかっていて。だから海外のバンドを日本に呼ぶときも、大阪のバンドを東京に呼ぶのと同じような感じで、「ホテルと移動は手配するけど、あとは物販で頑張ろうね」みたいな感じ。「外国のバンドだからこうしてあげなくちゃ」は逆になくなったというか、それは自分が海外に行くときもそう。もちろん、おもてなしは大事なんですけどね(笑)。

辻:『OOPARTS』では毎年海外のバンドを一個は絶対呼ぶっていうのを決めてて、今年はChinese Football、去年はStarmarketとElephant Gymを呼びました。シネマのお客さんはそういう海外のバンドをちゃんと見てくれるし、盛り上がってくれるので、そういうのを見てると、やっぱりこれであってるんだなって思います。
中川:素晴らしい。
辻:「海外のバンドだけを聴く」とか「日本のバンドだけを聴く」みたいな人もずっといるじゃないですか。別にそれはそれでいいんですけど、僕や航くんはそこをどうやってつなげるかを考えてるチームだと思うんです。日本と海外、そこに隔たりはないよっていうのを、どうやって伝えたらいいのかを常に考えてるんじゃないかな。
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中国のオルタナシーンの盛り上がりと、日本との関係性
ー中川くんは近年どこの国が面白いと感じていますか?
中川:中国はいつもWUTANG RECORDSの人がプロモーターをやってくれるんですけど、その人は水中スピカで大成功してて、大きい会場では1000人ワンマン、他の会場も400〜500人のところが10〜15本ソールドしてて。
中川:そのレーベルの人に中国のシーンのことを聞いたら、中国はChinese Footballが何よりもでかいと。彼らが出てきてから、10〜20代の若い子が、「エモかっこいい。アメフト最高」みたいになって、それで今はエモバンドが各地にいて、人気があると。socccer.のこともエモバンドとして紹介してくれて、実際は僕らのライブは「10分エモ、40分激情」みたいな感じなんですけど(笑)、でもみんな聴いてくれて。
ー中国にも激情系のシーンってあるんですか?
中川:Bennu is a Heronっていう、広州のバンドがいるんですけど、そのメンバーと前話したときに言ってたのは、「中国ではChinese FootballとAmerican Footballの流れでエモが流行ってるけど、でもCap’n Jazz(※)が好きなエモファンは一人もいない。だから激情は流行らない」って言ってて。
※ティム・キンセラとマイク・キンセラの兄弟を中心に1989年にシカゴで結成されたバンドで、このあとに数多く結成されるキンセラ兄弟絡みのバンドの原点とされる存在。弟のマイクが後にAmerican Footballのフロントマンとして活動を開始する。
辻:でもそれは日本とも似てるかもね。日本でもCap’n Jazzまで行ってる人はあんまりいない気がする。
ー最初にChinese Footballを知ったときは「その名前でいいの?」と思ったけど(笑)、本国での影響力は絶大なんですね。
中川:めちゃくちゃでかいみたいです。あと中国に行くと実感するのは、Googleない、Instagramない、Xない、facebookない、LINEない。なので、僕らがいくらInstagramで告知をしても、全然広まらなくて。ただ向こうにもWeiboっていう中国版Xとか、rednoteっていうInstagramみたいなものがあるから、そこで告知をすることがすごく大事で、向こうのプロモーターはそこを頑張ってくれるんです。

ー今は日本のバンドがどんどん海外に行くようになって、向こうも日本のバンドを呼びたい熱が高まってるし、SNSを見ればいろんな言語の書き込みが増えてる。そこはやっぱり以前とは変わった部分で、一昔前は駆け出しのバンドがすぐに海外でライブをするのは難しかったけど、今だったらもうひとひらとかも中国でやってたりしますよね。
中川:ひとひらも今度1000人キャパでやるみたいで、それも同じプロモーターなんです。
辻:picture of herとかeuphoriaみたいな2000年代から活動しているバンドも中国のめっちゃでかいフェスに出てて。本人たちも不思議がってるけど、そういう需要があるみたい。
ー近年日本のシューゲイザーが世界的な注目を集めていたり、これからまた新たな盛り上がりがありそうですよね。
辻:それこそthe cabsも楽しみですよね。一太(ドラムの中村一太)はずっとドイツにいたから、海外のthe cabsファンからの声をめちゃくちゃ聞いてたみたいで、それももう一回やろうと思ったきっかけとして大きいらしいです。