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細木数子の半生記+実録犯罪ドラマ『地獄に堕ちるわよ』を見て考えたこと

2026.4.27

#MOVIE

世界で最も売れた占い本の著者としてギネスブックに掲載され、2000年代半ばには数々のバラエティ番組に出演しテレビを席巻した細木数子。かたや、暴力団との関係や霊感商法、恐喝、いわゆる「後妻業」など、黒い噂や告発の絶えない人物でもあった。

その細木の半生を戸田恵梨香が演じたNetflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』が、2026年4月27日(月)より配信されている。

安田謙一(ロック漫筆)は本作をどう見たか。自由に綴ってもらった。

※本記事にはドラマ本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

Netflixの十八番? 実在人物の半生記+実録犯罪ドラマ

Netflix製作による細木数子(1938年〜2021年)をモデルとしたオリジナルNetflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』。全9話(1エピソード、平均53分強)を一気に観た。

これまでもNetflixは『全裸監督』、『極悪女王』など実在するユニークな人物の半生を描いた日本産のオリジナルドラマ作品を製作してきた。同時に、『地面師たち』、『愛なき森で叫べ』など実録犯罪ドラマも手掛けてきた。この『地獄に堕ちるわよ』は言わば、その両方を兼ね備えたドラマである。

細木数子を演じるのは戸田恵梨香。Netflixが独占中継をしていた、2026年3月7日に東京ドームで行われたWBCの日本対韓国戦に観戦ゲストとして登場していた。Netflixの、このドラマへの力の入れようもうかがえる。

細木数子と言われて思い出すのは、書店に並んでいた『六星占術』の著作の表紙写真、バラエティ番組での歯に衣着せぬ物言い(霜降り明星せいやが真似る「○○って言ってんだ」という口調)、さらに、数多くのスキャンダルの数々……あたりだろうか。テレビのレギュラー番組が終わったのが2008年と言うから、それなりに時間が経っている。だからこそ描くことが出来る、というのが実録ドラマのキモなのだろう。

さらに言うなら、『地獄に堕ちるわよ』というタイトルだけ聞いて、細木数子のドラマ、と反応する人がしっかり健在なうちに作らなくてはならないのだ。もしも、『記憶にございません』というタイトルの新しいドラマが作られたとして、それがロッキード事件を描いたもの、とちゃんと気づく(私が属する)世代がいつまでも続くわけではない。

細木数子を描くことは、欲望を描くこと

そもそも私は占いが好きではない。ドラマの第5話に出てくる「占いで欲望の道筋をつけてあげるの」というセリフがその根拠を教えてくれた。信じる、信じない、それ以前に「人が無自覚に欲望を剥き出しにする場所」に近づきたくないのだ。RCサクセションのデビュー曲“宝くじは買わない”という曲はそういうことを歌っていると解釈する。

そういう意味で、細木数子を描くことは、欲望を描くことになる。敗戦後、焼け野原となった東京での極貧の少女時代。道端のミミズを口にする日々から脱却するため、キャバレーに勤め、ナンバーワンになるが、処女を捧げた店長に騙され、殺鼠剤で自殺未遂。心機一転、おにぎり屋を起業し、成功。銀座に自分のクラブを開く。旧家の跡取りに見初められ結婚するも、代々続く名家の為に子作りを強いられるという環境から逃亡。再び、銀座で開いたクラブが東京五輪景気で大繁盛……と、高度成長の景気の渦の中、細木の人生は浮いたり沈んだりを繰り返しながら、上へ上へと登りつめていく。

細木数子(戸田恵梨香)。本作で戸田は、一人で10代から60代までの細木を演じている。

大がかりなセット、ロケ、登場人物のコスチュームなどNetflixは時代考証に精力を傾ける。現れては消えていく舞台の一つひとつにここまで金をかけるか、と驚かされる。NHKの大河ドラマにとっての時代劇のように、Netflixがこうして、近代、特に戦後日本の描写に注力し続けていくならば、先に書いたロッキード事件はもちろん、宗教と政治が入り組んだ、より大きなドラマを扱う日も必ず訪れるだろう。長生きしなければならない。

島倉千代子「事件」はどう描かれたか

細木数子のドラマと言われて、一番気になったのは「島倉千代子」をどう描くか、だった。細木は1975年に4億を越える負債を抱えた演歌歌手・島倉の後見人となり、彼女のカムバックを支えた功労者であり、同時に彼女を食いものにした極悪人……と噂される側面をいかに扱うか。その不安にはしっかり答えを出してくれた。島倉が登場するのは第6話の終りだが、ここから物語はグッと面白みを増す。実際、クライマックスと言ってもいいだろう。島倉のおっとりした口調を三浦透子が見事に演じている。もちろん歌えることも強みだ。“人生いろいろ”の<死んでしまおうなんて>という歌い出しはもちろん、“愛のさざなみ”の<この世に神さまが本当にいるなら>(ともに浜口庫之助の作詞)も、しっかりドラマと絡み合っていく。

島倉千代子を演じた三浦透子(左)は、その歌唱シーンも見もの

時代時代の象徴としてオールディーズのポップスが意識的に使用される。細木数子がどんな音楽を好んだのかも気になるところだ。赤坂のニューラテンクォーターに対抗して建てられた巨大な娯楽場に冠された名前「ENKA」には、脚本家のどんな思いが込められているのだろう。

最初に勤めたキャバレーの店長が情事の後、布団の上でトルストイの『アンナ・カレーニナ』を読んでいる。それを取り上げた細木は「どんなお話?」と尋ね、男は「一言で言うと、上流階級の淑女が地獄に落ちる話かな」と答える。私も読んだことがないので、そうか、ボブ・ディラン“Like A Rolling Stone”みたいな話か、と勉強させていただいた。つまり『地獄に堕ちるわよ』は『アンナ・カレーニナ』を逆走する物語でもある。ついでに、『アンナ・カレーニナ』と聞くと、「あんなカレーニナ」と演歌みたいに脳内変換してしまう。「あんな」は八代亜紀“もう一度逢いたい”の歌い出しの<あんな>である。

https://www.youtube.com/watch?v=98foGwLGN2o
<あんな男と言いながら 今日も来ました港町>で始まる“もう一度逢いたい”を作詞した山口洋子も、そういえばまた細木のように複雑な人生を送ってきた人物だ

伊藤沙莉、生田斗真らキャスティングの妙味

細木数子の「表」と「裏」。さまざまな証言を矛盾なく機能させるのが、彼女の半生を小説にすべく、複数の関係者に取材する小説家という存在。これを伊藤沙莉が演じている。怪物に対峙するもうひとりの主人公だ。

細木の最愛の男・堀田を演じる生田斗真は、池上遼一が描く劇画のようだ。彼にカモられるヤクザの杉本哲太、絵に描いたような二枚目が似合う中島歩、後妻業の対象となる石橋蓮司、その娘の市川実和子、びっくりする程の老演技を披露する富田靖子、老けを巧みに身に着けた高橋和也など、キャスティングの妙味も特筆もの。細木の弟を演じた細川岳という役者も記憶した。

江戸川一家を率いる堀田雅也(生田斗真 / 右)。本作の「原作」のひとつ、溝口敦によるルポルタージュ『細木数子 魔女の履歴書』によれば、細木は実際にとある暴力団総長と30年間に渡りパートナーだったという。

「本人役」で登場するレイザーラモンHGは、伝説的な放送事故を再現する。20年を越えて体型を保持してくれたおかげで、ドラマは時間を越えた。ついでに、モンキッキー(おさる)やハッピハッピー(コアラ)、丁半コロコロ(X-GUN)など、改名ハラスメントの被害者たちにも出てきてほしかった。喜劇人といえば、地獄に落ちそうなタレント役でヒコロヒー、バラエティ番組の司会者の役(くりいむしちゅー)で、ザ・ギースがそれぞれ顔を出している。

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