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カメラに「浮かび上がる」周囲の支援
これまで述べてきたように、本作は5人の主人公にフォーカスし、苦境のなかでもがく彼女たちの姿を追いかける。その一方で、決して彼女たちを孤立させまいとする社会的なセーフティーネットや、人と人との温かい関わり合いの連鎖を確かに捉えている。
たとえば、ジェシカのエピソードでは、基本的に彼女の顔やその周りを中心に映しており、カメラがアリアンヌたちに焦点を合わせることはほとんどない。一方で、フォーカスの当たらない別の母親が、子守を手助けする様子をさらっと映す。

彼女たちを支える支援施設のケースワーカーや看護師たちも同様だが、少女たちが崩れてしまいそうになる瞬間には、彼女たちを支えようとする職員たちの顔がくっきりと浮かび上がる。アリアンヌ、彼女と孫を連れ戻そうとするナタリー、ケースワーカーの3人が同一フレームに置かれるミディアムショットなどがその典型だ。何度も映される施設の玄関やその中に毅然と立つ職員たちは、少女たちを守る盾のように見えてくる。
陽光と緑に囲まれながら、5人の母親と職員たちがそろって庭のテーブルに座り談笑している場面は、そうした施設内の支え合うつながり自体を映したものだと言えるだろう。
一方で施設の外。そこは責任をとらない男やドラッグなど、少女たちを追い詰めるものと彼女たちを支える人々が同時に存在する場所である。たとえば、ジュリーが美容室にいくシーンでは、美容師が優しく彼女に語りかける。そして髪を染めることで、彼女をドラッグディーラーから隠してくれるかもしれない。

ラストはとりわけ感動的である。ジュリーはパートナーのディランと学校の教師の家を訪れる。教えてくれた詩がジュリーの支えになってきたからだ。教師がアポリネールの詩『別れ』とモーツァルトの“トルコ行進曲”をピアノで弾き、家族で笑い合う姿を捉えた長回しは、困難の中で抗う母親たち、彼女たちを支え、ケアする人々とのつながり自体を、希望とともに祝福しているかのようだ。

これまでの手法を踏襲しながら、5人の少女たちを主人公とする『そして彼女たちは』。初の群像劇となった本作は、過酷な状況に抗い一人ひとりがそれぞれの方法で自律する様子を追いかける一方で、彼女たちを繋ぎ止めようとするゆるやかな紐帯をも浮かび上がらせている。それらを見つめながら優しく受け止めようとするこの映画は、ダルデンヌ兄弟にとって新境地となる作品だと言えるだろう。
『そして彼女たちは』

公開:3月27日(金)より、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国絶賛公開中
監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演: バベット・ヴェルベーク、エルザ・ウーベン、ジャナイナ・アロワ・フォカン、リュシー・ラリュエル、サミア・イルミ
2025/ベルギー=フランス/104分/原題:Jeunes mères/英題:Young Mothers 日本語字幕:横井和子
配給:ビターズ・エンド
ⓒLes Films du Fleuve – Archipel 35 – The Reunion – France 2 Cinéma – Be Tv & Orange – Proximus – RTBF (Télévision belge) / PhotoⓒChristine Plenus