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2020年代はテクスチャの時代? 短歌から音楽まで、瀬口真司×つやちゃんが談論

2026.3.12

#BOOK

言葉に空間系のエフェクトをかけるような短歌

—なるほど。では、「意味ではなくテクスチャが重視されたテキスト」というのは、たとえばどういうもののことなんでしょうか?

つやちゃん:瀬口さんがよく例として挙げられている、青松輝さんの短歌がわかりやすいなと思います。

シャンプー 僕は自殺をしてきみが2周目を生きるのはどうだろう

(青松輝 歌集『4』より)

瀬口:はい。ベタに読むと「シャンプーをしているときにこういうことを思った」というように取られると思うんですが、このシャンプーという言葉と1字空けは、「シャンプーをしているときに」という説明ではなくて、歌自体の質感をコーティングするための置き字みたいなものだと思うんです。

シャンプーという言葉が一番最初にあることで、その香りがしてくるというか、香りの操作によって、その後のフレーズのフレーバーを決定的に決めてしまう。意味はないんですよね。それは、シャンプーという行為自体にも意味がない、ということと響き合うと思うんです。シャンプーには、機能や効果や価値だけがあって、「意味」がある行為ではないので。

—なるほど。

瀬口:この初句1字空けという方法について、一部では「フィールド魔法(※)みたいだ」と言っていたりもします。前提になっているのは、短歌の前半と後半、上の句と下の句で全然違うことを言う技法で——「つぶやき+実景」「実景+つぶやき」と言ったりするんですけど——写実的なシーンの記述と思いの記述が、お互いの隠喩になって効果が増していく。それを先鋭化させたのがこれで、相互のフレーズに関係はあるんですけど、その関係は「説明」ではなくて「エフェクター」なんです。空間系のエフェクトをかけたり、エコーがかかっているように聴こえさせるようなことを、単語の持っている雰囲気 / イメージによって操作するんですね。

※フィールド魔法:カードゲームに登場する、場全体に対して影響を及ぼす魔法

つやちゃん:しかも、これがやばいのは、シャンプーの後に自殺という過剰に意味の重い言葉が配置されている。この対比によってよけい言葉の意味が爆発するという構造もすごいなと思いますね。

瀬口:あえて遠いものを選ぶ、俳句の「二物衝撃」(※)みたいな理路がここにはあるんですけど、たとえば食べ物でも、全く別のこの香りとこの香りが組み合わさるとおいしい、みたいなことがありますよね。スパイスカレーとか、パフェのような。短歌を作ること自体がそうだと思うんですよね。言葉と言葉の、それぞれが持っている香りを調合していい感じにする、っていう。

※二物衝撃:異なる2つのものを組み合わせて、そのぶつかり合いを楽しむ方法論。『勝訴ストリップ』(椎名林檎のアルバム名)や「霜降り明星」(お笑い芸人のコンビ名)も二物衝撃の例だと言える。

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