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ホラー的演出が映し出す自己崩壊の過程
本作の特徴として、ダニエルが陥る自己不安、親戚の集まりの閉塞感を強調するような演出、とりわけ、コメディ映画ながらホラー的な演出が挙げられる。

まず、ホラー的な演出のシンプルな例として、急に人物が現れ、ダニエルが驚くという描写が繰り返される。別の部屋へ移動したとたんに、高齢の女性がぬっと現れ、体形や恋人の有無についてずけずけと聞かれる。別の箇所では驚いた拍子に足に血が刺さるといった、びっくりさせるような場面がいくつかある。
撮影監督のマリア・ルーシェは、徹底してクロースアップを多用し、空間の狭さと共にダニエルの心理状態の変化を視覚化する。カメラは自らの体に無遠慮に触る手、親戚たちの顔、そしてものを食べる口などを強調し、親戚たちをまるでモンスターかのように映す。
また、浅い被写界深度によるボヤけた背景も頻出する。これは、エマ・セリグマン監督が参照元としてインタビューで挙げていたように、マイク・ニコルズ監督『卒業』(1967年)の影響が垣間見えるショットだ。こうした演出はダニエルの孤立や焦燥感を際立たせている。
安心できるスペース、自信を(あくまでも)一時的に取り戻せる場所は、トイレの中や家の外だけだ。外に出てマヤと向き合い一瞬心を通わせる時、ダニエルの全身が初めてはっきりと映し出される。しかし、取り戻した自尊心は親戚宅に戻るとまた失われてしまう。
音楽と音は、このホラーを補強する。マックスやキムに焦点が当たったタイミングで不気味なストリングスの音楽が流れ、怪物のような親戚たちに急に迫られるときにまた鳴るなど、ダニエルが不安を感じるたびに音楽が聴こえてくる。足音や囁き声、赤ん坊の鳴き声もノイズとして機能する。カメラと音によって過剰なまでに圧迫感を醸し出し、アイデンティティの崩壊とパニック状態へといたる心理状態の変化を観客に追体験させる見事な演出だと言える。