長年、アメリカ映画界にとっての一大イベントとして注目を集めてきた『米アカデミー賞』。賞レースの評価と作品の良し悪し、さらに言えば個人の趣味嗜好は必ずしも一致するものではないだろう。しかし、賞レースにはその時代のムード、映画界の置かれた状況が色濃く反映される。その点で、今もこの賞を通じて、現在の映画界について考える意義は失われていない。
今回、ライター長内那由多に3月16日に開催された『米アカデミー賞』授賞式の様子をレポートしてもらった。そこから見えてきたのは、ポール・トーマス・アンダーソン待望の受賞など華やかな話題の裏で起きる、業界の変わりゆく姿だった。そのパラダイムシフトの足音は、着実に迫ってきている。
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業界再編に注目が集まる。ハリウッド全体に漂う「お別れ会」の雰囲気
どうにも盛り上がらないな……と感じていたのは海を隔てた本邦だけではなかったようだ。オリンピックイヤーということもあり、『第98回アカデミー賞』は例年よりずっと遅い3月16日に開催された(前年は3月2日)。不作の2025年を象徴するかのように間延びした賞レースは『ワン・バトル・アフター・アナザー』(監督:ポール・トーマス・アンダーソン)が独走し、対抗馬となる『罪人たち』(監督:ライアン・クーグラー)もまた同じワーナー・ブラザースの配給作品だった。
前者は昨年10月、後者にいたってはほぼ1年前の4月公開作であり、オスカーシーズンに市場を賑わせたのはティモシー・シャラメが精力的なプロモーションを展開した『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(監督:ジョシュ・サフディ)くらいだった。ハリウッドの関心事はオスカーの行方よりも「いったい誰がワーナー・ブラザースを買収するか」という業界の一大再編。つり上がった金額を前にNetflixが離脱、パラマウントが勝者となったのは賞レースの終盤、2月27日のことだった。

『アカデミー賞』授賞式ではそんなハリウッドの窮状を危惧した自虐的ギャグが多く飛び交った。AIの脅威、授賞式のYouTube配信、観客の映画離れ……。『罪人たち』が歴代最多16部門候補に挙がり、Netflixの『フランケンシュタイン』(監督:ギレルモ・デル・トロ)が9部門候補と、オスカーの慣例を覆してホラー映画が主役を占めたからというわけではないだろうが、授賞式全体に漂っていたのは不安の空気だった。
極めつけは例年以上に長い時間を与えられたメモリアルコーナーである。冒頭、ロブ・ライナー監督夫妻の追悼を『恋人たちの予感』(1989年)に主演したビリー・クリスタルが行い、コーナーはスタート。後に続いたのはキャサリン・オハラ、ダイアン・キートン、ロバート・デュヴァル……いずれもつい最近まで新作を目にした名優ばかりである。最後にバーブラ・ストライサンドが登壇すると、盟友ロバート・レッドフォードへの別れを告げた。完成度が高い進行だけに、否が応でも時代の終焉を感じずにはいられない「お別れの会」だった。
