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『しあわせな選択』でパク・チャヌクが描く二律背反。生きるための殺人は仕方がない?

2026.3.4

#MOVIE

大きなシステムへの適応は「仕方がない」のか? 本作が示すアメリカ流資本主義との距離感

『しあわせな選択』も『パラサイト』も根底にあるのは1997年に起きたIMF危機のトラウマだろう。韓国社会を支えてきた大企業が連鎖倒産し、路上には失業者があふれ、格差が生まれた。父親たちは威厳と居場所を失い、アメリカを始めとした外国資本が市場を買い漁った。韓国映画界を代表する2大巨匠となったパク・チャヌク、ポン・ジュノが2025年の同時期に新作を撮ったことは象徴的だ。

オスカー受賞後、初の長編映画となったポン・ジュノの『ミッキー17』(2025年)はオールスターキャストのハリウッド映画。近未来、死すら伴う奴隷労働を強いられた主人公ミッキーが、植民惑星を作ろうとする独裁者に反旗を翻す。SFならではの戯画化された超格差社会からの脱却は、ドナルド・トランプそっくりの独裁者を倒せば解決する……。ハリウッドの安直なリベラリズムに絡め取られたような本作は、度重なる公開延期ということを差し引いてもあまりに時代錯誤であり、韓国時代からポン・ジュノを見続けてきた筆者はひどく落胆した(独裁者役マーク・ラファロもキャリア随一のひどい芝居である)。

つまり、最高経営責任者たちや彼らを雇った株主たちは敵ではあるが、問題ではない。連中は社会的な問題だが、わたし個人にとって問題ではないのだ。この六通の履歴書。これがわたし個人にとっては問題なのだ。

ドナルド・E・ウェストレイク『斧』

『しあわせな選択』の根底にもアメリカ流グローバリゼーションに対する不信がある。だが、パク・チャヌクはポン・ジュノと異なり、ハリウッド式の対立構造に出口を見出していない。生存のため巨大構造への適応を目指すマンスを、私たちは批判できるだろうか? 第1、第2の殺人をこなすうちに、まるで得意の庭いじりのようにこなれ、その手口はシステマチックに洗練されていく。失業以来、治療することもできない虫歯に手を当て、「仕方がない」と自分に言い聞かせながら殺しに及ぶ。果たして本当にno other choice(他に選択肢はない)なのか? 

職を失った男たちは自閉する。第1のターゲット、ク・ボムモ(イ・ソンミン)は自慢のオーディオルームで韓国歌謡に浸り、見かねた妻の叫びをろくに聞き取ることもできない。「あんたが失業にどう対処するかが問題なのよ!」。夫との断絶に苦しむ妻たちの姿は、一度でも失職し、家族の助けを借りた経験がある観客なら胸を突かれずにはいられないだろう。

左から、マンスと、ク・ボムモ(イ・ソンミン)

マンスもまた妻の献身を前に自閉していく。彼は失業したことを即座に言い出せなかった。殺しの機会を得るため、長年断ってきた酒も飲んだ。労働者すら変数として見られる現代社会において、彼は殺人を就職のためのタスクとし、自らを適応させていく。ついには文字通り耳栓をし、自閉を完成させてしまうのだ。喜劇と悲劇の間を往復し、やがて行き場をなくす妻役ソン・イェジンが痛切である。

「そんなに一生懸命生きなくてもいいのに」。

「しあわせな選択」とは、決して大それたものではないのかもしれない。マンスら夫婦は一時、再就職よりカフェを開くほうがいいと口を揃えた。彼はもともと人間味がある人なのだから。そして幼い娘の姿が象徴的である。チェロの天才と評される彼女は両親にさえ心を開かず、演奏を聞かせてくれることもなかった。その才能を開花させたとき、もうマンスの耳には何も聞こえていないのだ。

『しあわせな選択』

公開日:2026年3月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー
監督・脚本:パク・チャヌク
原作:ドナルド・E・ウェストレイク著『斧』(文春文庫)
出演:イ・ビョンホン、ソン・イェジン、パク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、チャ・スンウォン
2025年 | 韓国 | 韓国語・英語 | カラー | スコープサイズ |
139分 | 日本語字幕:根本理恵 | 英題:NO OTHER CHOICE | PG-12
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
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公式サイト:https://nootherchoice.jp/

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