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イ・ビョンホンが中年男性の悲哀・滑稽さを表現。主人公マンスの人間味
ユーモアと暴力、優美と過剰を混在させたチャヌクの演出は今回、笑いもふんだんに織り込まれる。マンスを演じるのはイ・ビョンホン。鍛え上げられた肉体と隙のない容姿がハリウッドではアクション俳優として消費されるに留まったが、ここでは珍しく中年男性の悲哀を等身大で演じ、観客の共感を誘う。労働者の権利を謳うマンスを、同僚たちは「人間味がある」と評する。趣味は庭いじり。手入れが行き届かず枯れた植物を見るだけで心を痛めるような男だ。殺しのターゲットを誘い出す謳い文句は「機械の歯車ではなく、家族を求めます」。無意識ゆえか、願望が滲む。

しかし、排除すべき競争者たちもまたAI化によって路頭に放り出された憐れむべき失業者である。自尊心を失い、酒に溺れ、家族に対して心を閉ざしている。社会システムは最適化した労働者だけを拾い上げるべく、下層に転げ落ちた者たちを殺し合うよう仕向ける。私たちは本来、互いに手を取り合うべき存在ではないのか? 銃を向けても憎しみなど湧くわけもなく、マンスはむしろシンパシーを覚え、影響すら受けている。筆者の頭をかすめたのはApple TVのドラマシリーズ『セヴェランス』。「会社と私生活の人格を分離する(=severance)」というダークなユーモアのSF設定は、対立する2つの人格から社会は分割統治されているのだと風刺していた。
