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狂気的で、魅惑的。アメリカが見せるクレイジーな幻想
だからこの映画はアメリカンドリームと呼ばれてきたもののいい加減さ、正気でなさ、不誠実さを周到に並べ立てるものだとも取れる。タイトルバックで登場する、放出されると目的を達成するか死滅するまで止まらない精子のイメージは、非常に直接的なマスキュリニティの象徴だ。そして私たちはマスキュリニティが批判的に再検証される時代に生きているし、それは必要なことだと私自身考えている。

けれども『マーティ・シュプリーム』の凄みは、そんな現在にあってなお、マーティのデタラメさに観る者を否応なしに巻きこんでしまうことだ。彼の野放図な疾走から、私たちは文字通り目が離せない。『アンカット・ダイヤモンド』の終盤のシーンを思い出してみよう。怒りを募らせた借金取りのチンピラたちを前にして、主人公は返済するどころか、さらに無謀なギャンブルに挑んでしまう。完全に頭がおかしい……が、借金取りたちはそんな彼の姿を、どこか畏怖の念を伴う視線で見つめることになるのだ。
『マーティ・シュプリーム』はいかれたアメリカの夢を、ノスタルジーではなく、いま目の前で繰り広げられる活劇として召喚する。そもそもマーティが目指すものが結局のところ何なのかよくわからないのだが、とにかく無闇なエネルギーだけはあり、結果として権威に盾突くことにもなるし、映画はそのままスポーツものとしての熱い展開にまで突入していく。彼を憎む者でさえ、陶然とその姿を見つめる。だから「アメリカ」なるものにうんざりしているはずの私たちはそれでも、くそっ、このデタラメなパワーに満ちた映画に夢中になってしまう。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』

監督:ジョシュ・サフディ
出演:ティモシー・シャラメ/グウィネス・パルトロウ/オデッサ・アザイオン/ケビン・オレアリ―/タイラー・オコンマ ほか
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