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ラストが語る『ブゴニア』の意味
─ラストの展開についてはいかがだったでしょうか?
竹島:おそらく、アンドロメダ星人からすれば、ラストは希望ですよね。自然音、特に「蜂の音」をモチーフとして使っている点は、ランティモス監督らしくもありつつ、少し意外にも感じました。そこには、地球環境や人類のあり方といった壮大なテーマ、地球温暖化といった問題への意識も込められているように思います。人類の行く末に対するある種の憂い、または警告になっていますね。
ヒナタカ:その警告から出力されるオチが、人類滅亡っていう(笑)。
竹島:でも、人類は滅びてしまうかもしれないけれども、その死骸から新しい生命がまた出てくるかもしれないっていう、可能性も示していると思いますよ。やはり『ブゴニア』というタイトルこそが最大のポイントなんですよね。これは「牛の死骸から蜂が自然発生する」というギリシャ神話が由来で、「死骸から生命の象徴である蜂が生まれる」という生命の循環の証だと思われているのですが、そもそもその神話が実際には誤りで、蜂ではなく蜂に似たハエが単に死骸に集まっていただけだった。
このタイトル自体がある種の陰謀論を象徴しているとも言えます。私たちは映画を観ながら、テディを「陰謀論者に違いない」と思い込んでしまう。でも実は彼は真実を語っていて、ミシェルのほうが本当に宇宙人だった。つまり、バイアスがかかっていたのは観ている私たちの側だったんですよね。観客の認識が途中で反転してしまうという構造がすごいと思います。

伊藤:テディが先にクローゼットに入って、爆弾が摩擦で爆発してしまいますよね。ミシェルは本当にテディを宇宙船に送るつもりだったのかな、とも思ったんですが、そこはその後の展開からしても本当に微妙。あのクローゼットについても、考察の余地はありますね。
ヒナタカ:この映画は限定的な空間を描く作品なので、そこまで予算がかかっていないのかな? と思って観ていたのですが、ラストシーンではかなり派手で、一気にお金がかかっているようなスケール感がありましたね。
パンフレットを制作した大島依提亜さんがXで「『パンフに最後周辺のシーンを入れたい気持ちが強くあったのですが、ネタバレというのもありますが、その映画の中だけに存在し、観ない限りはアクセス出来ないというのはやっぱり大事だなと思いました」とおっしゃっていて。まさにその通り、映画本編でしかあのビジュアルを見られないというのが、とても良いと思いました。
─これまでランティモス監督の作品を観たことのない人たちに『ブゴニア』をどうお薦めしますか?
竹島:ミステリーの世界には「奇妙な味(ストレンジ・テイスト)」と呼ばれるジャンルがあります。これは謎解きそのものよりも、風変わりなキャラクターや突飛な出来事を楽しむタイプの作品で、『ブゴニア』はまさにそれなんです。五感を解放して、ぶっ飛んだビジュアルや音楽、演技にただ浸ればいい。「こんな楽しみができる映画もあるんだ」と「浴びて」いただくといいと思います。もちろんストーリーやキャラクターへの感情移入という要素もありますが、まずは感覚的に受け入れて楽しんでみてはいかがでしょうか。
ヒナタカ:『ブゴニア』はランティモス監督の入門作としておすすめできますよ。ストーリーが何しろシンプルで分かりやすいですし、主要キャラクターが数人なので、比較的入りやすいんですよね。ショッキングなシーンはありますが、グロさは同じくPG12指定の劇場版アニメ『鬼滅の刃』と同じくらいのラインなので、『鬼滅の刃』が観れる方なら問題なく楽しめるのでは、と思います。
伊藤:やはり私は心理戦の面白さと、こんなにもカッコイイ、無双のエマ・ストーンを観てほしいですね。ポスターを見て「これがエマ・ストーンなの?」と驚く人がいるかもしれませんが、本編ではすべてを完璧に掌握しているような、決して負けないエマ・ストーンの魅力が際立っています。そして、音楽の使い方も含めて強く引き込まれる作品ですし、ちょっとした仕掛けを見つけては楽しんでいただきたいですね。
『ブゴニア』

大ヒット上映中!
監督:ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』『女王陛下のお気に入り』
製作:ヨルゴス・ランティモス『哀れなるものたち』、エマ・ストーン、アリ・アスター『ミッドサマー』、ミッキー・リー『パラサイト 半地下の家族』、ジェリー・ギョンボム・コー『パラサイト 半地下の家族』
脚本:ウィル・トレイシー『ザ・メニュー』
出演:エマ・ストーン『ラ・ラ・ランド』、ジェシー・プレモンス『シビル・ウォー アメリカ最後の日』、エイダン・デルビス
原題:Bugonia/2025年/アイルランド・イギリス・カナダ・韓国・アメリカ/カラー/ビスタサイズ/118分/字幕翻訳:松浦美奈/PG12
配給:ギャガ ユニバーサル映画
©2025 FOCUS FEATURES LLC.
<STORY>
人気絶頂のカリスマ経営者として脚光を浴びるミシェル(エマ・ストーン)が、何者かによって誘拐された。犯人は、ミシェルがCEOを務める会社の末端社員のテディ(ジェシー・プレモンス)と、彼の従弟のドン(エイダン・デルビス)の2人組。陰謀論に心酔する2人は、ミシェルが地球を侵略しにきた宇宙人だと信じ込み、彼女に今すぐ地球から手を引くよう要求してくる。彼らの馬鹿げた要望を一蹴するミシェルだが、状況は思わぬ方向へと加速していき、荒唐無稽かに思えた誘拐劇は誰も予想しえなかった衝撃の終末へと突き進んでいく——。