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ランティモスとフェンドリックスの音楽タッグ
─ランティモス監督作品の魅力はどのようなところにあるのでしょうか?
伊藤:場面とマッチした音楽が本当に魅力的ですよね。今回は特にタッグを組んだ作曲家のイェルスキン・フェンドリックスの才能が一番溢れ出ていて、アカデミー賞の作曲賞にノミネートされるのも納得しています。
伊藤:そもそもランティモス監督は、フェンドリックスの2020年のデビューアルバム『Winterreise』を聴き、「変すぎて面白い」と感じてオファーをしたそうですが、信頼関係は作品を重ねるごとにどんどん強くなっていて、より任せている印象がありますね。
伊藤:また、今作では、有名アーティストの楽曲に映画の場面に対するメッセージを込めているので、フェンドリックスの楽曲は彼の手法の自由度がこれまでより高くなった印象がありました。
例えば、Green Dayの大ヒット曲“Basket Case”が流れる電気ショックのシーン。この曲のミュージックビデオは精神病棟で撮影していて、「自分はパラノイド(被害妄想)か?」と歌っているため、とてもハマっているんです。
伊藤:また、ミシェルが車中で歌っていたチャペル・ローンの大ヒット曲“Good Luck, Babe!”はLGBTQ+のアンセムになっていて、自らの運命を否定しようとする人に対して「せいぜい頑張って」と皮肉をこめながら幸運を祈るという歌詞なので、物語の結末のヒントを与えてるんですよね。
伊藤:このようにミシェルやテディ、それぞれの感情を代弁するように音楽が配置されているため、楽曲のことを知っているほど、場面の意味が深く伝わるんです。
さらにオリジナル曲では蜂の羽音のような響きをストリングスでしつこいほど表現するなど、フェンドリックスの個性が発揮されているのが素晴らしいですね。
そしてエンドロールに流れる、マレーネ・ディートリッヒが歌う世界的に有名な反戦歌“Where Have All the Flowers Gone(花はどこへ行った)”の歌詞は冒頭のナレーションにリンクしています。この歌詞の内容こそが『ブゴニア』の意図だと思いますし、キューブリック監督の『博士の異常な愛情』のラストを想起させる、オマージュ的な映像と曲の組み合わせ方も、なるほど! と思いました。
竹島:ランティモスって、音楽の使い方もそうで、「こんな場面でこんな曲、普通は使わないだろう」というところをあえて選びますよね。全体的に、あえて不快感を呼び起こすような、かなりエクストリームな演出になっている。でも僕にとっては、そのチューニングが完全に刺さっていて、これ以上いったら本当に不快になってしまうギリギリのラインを攻めている感じがします。
あと、オペラのような大きな音を、物語上では重要でないシーンでも大胆に流しますよね。その誇張された使い方が皮肉的でもあり、特有の意地の悪いユーモアを増幅する装置になっていると思うんです。ランティモス監督とフェンドリックスは、ポール・トーマス・アンダーソン監督とジョニー・グリーンウッド(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ワン・バトル・アフター・アナザー』ほか)のような、監督と作曲家の名タッグとして後世まで語られていくのではないでしょうか。