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史上初(?)の「エア」ミュージカル。数々の名曲がクィアソングのように響く
ここまでの説明だと本作は重いテンションのシリアスな作品なのかと思われてしまうかもしれないが、本作の大きな見所は、時代を彩った数々の名曲とともに繰り広げられるエアミュージカルにある。
予告編でも使用されたプリンセス プリンセスの“Diamonds <ダイアモンド>”では、除睾摘出手術を行ったアイが本当の自分に一歩近づいた喜びを全開に「冗談酒場」のメンバーと踊り、アイの初めての恋仲として登場するタクヤ(吉村界人)との出会いのシーンを華やかに盛り上げる。<好きな服を着てるだけ 悪いことしてないよ><あの時感じた AHAH 予感は本物 AH 今私を動かしてる>という歌詞が、女性として着飾ることの喜びを感じ、女性として幸せになると信じるアイの思いとシンクロする。

アイと共にショーパブで働く若き男性ダンサー。可憐なアイに惚れ込み猛烈アタックの末、恋人同士になる。しばらく幸せな同棲生活を送っていたが……。
「女にしてほしい」とアイに性別適合手術の執刀を懇願された和田が、タブーとされている手術を引き受けるかどうか一人悩むシーンでは、松田聖子の“チェリーブラッサム”をアイとタクヤが「冗談酒場」のステージで披露する。<自由な線 自由な色 描いてゆくふたりで><何もかもめざめてく 新しい私 走り出した愛は ただ あなたへと続いてる>という歌詞は、アイとタクヤが築くクィアリレーションシップの祝福を歌っているかのようにも捉えられるし、アイと和田が苦渋の末導き出した選択をも祝福しているかのようだ。
多くの変化と葛藤の末、一人上京してきたアイのもとを訪れた母(木村多江)が、これまでアイの性のあり方に気づいていながらも見て見ぬふりをし続けてきたことを謝罪するシーンでは、松田聖子の“SWEET MEMORIES”が二人の過去を優しく包み込む。アイもまた母に何も言わずに手術を受けたことを謝ろうとするが、母は「謝らんでええ」と言い放ち、「男やろうと女やろうと、あんたは私の大事な子や」と強く抱きしめる。このセリフは本作を観たトランスジェンダー当事者への大事なメッセージであり、特別な贈り物となったことだろう。私たちは、きっと必ず、誰かにとって大事な人なのだ。

アイに惜しみない愛情を注ぐ心優しい母親。アイの性別違和に気付きながら、なかなかそれを認めることができないでいる。
他にも劇中では中森明菜の“スローモーション”、チェッカーズの“あの娘とスキャンダル”、杏里の“オリビアを聴きながら”など、全12曲もの名曲によって、アイの人生には苦しい時間も幸せな時間もあること、そして多面的な視点や感情によって人生は作られているのだというメッセージが伝えられる。改めて本作と合わせて聴くと、どの楽曲もクィアソングに聴こえるのもおもしろい。