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Netflix映画『This is I』評 社会を照らす希望のエアミュージカル

2026.2.18

#MOVIE

はるな愛の半生を描いたNetflix映画『This is I』が2026年2月10日(火)より配信されている。本作にも出演をし、自身もトランスジェンダー当事者であることをオープンにしているライター / 編集者のKotetsu Nakazatoは本作をどう見つめ、何を感じたのか。希望溢れる「エアミュージカル」をレビューする。

※本記事には作品の内容に関する記述が含まれます。

※作品の内容に関して記述する際は、作品の時代設定に基づき、トランスジェンダー女性をニューハーフと記載しています。

「本当の自分」で生きることを諦めない、トランスジェンダー女性の物語

2009年11月1日、前日にタイ・パタヤで開催された世界一美しいトランスジェンダー女性を決定する『ミス・インターナショナル・クイーン』で、日本人初の優勝者が誕生したニュースを目にした。優勝した彼女の名前は「はるな愛」。

当時、テレビを付ければお笑い番組でエアあややとして口パク芸を披露し、バラエティ番組では雛壇で明るいトークを繰り広げ、お茶の間の人気者として活躍していた彼女の知られざる半生を描いたNetflix映画『This Is I』が、2026年2月10日(火)から配信されている。

本作は「アイドルになりたい」と夢見た一人のトランスジェンダーが、出会いと別れ、挫折と希望を味わいながら前を向き歩みを進めるハートフル「エアミュージカル」だ。はるな愛の半生を記した自伝本『素晴らしき、この人生』(講談社)と、彼女の性別適合手術を担当した医師の和田耕治とパートナーの深町公美子による書籍『ペニスカッター:性同一性障害を救った医師の物語』(方丈社)を参考に、はるな愛の幼少期から『ミス・インターナショナル・クイーン』で優勝するまでの波乱万丈な人生を描いている。

出生時に「男」の性を割り当てられながらも、小さな頃からアイドルや可愛いものが好きだったケンジ(望月春希)。家や学校、子どものど自慢大会でマイクを握り、歌い踊る幼少期のケンジは、周囲を笑顔にし、アイドルになるという夢を1ミリも疑わずに持ち続けていた。しかし、年齢を重ねるにつれ自身の性のあり方を認識し始め、周囲もそんなケンジに冷ややかな目を向け始めていく。学校では壮絶なイジメを受け、家では家族に心配をかけないよう振る舞うケンジは、どこにも居場所がない孤独な中学生だった。

アイ / ケンジ(望月春希)
幼い頃からアイドルになることを夢見ていたが、自身の性別違和に悩み続ける。ショーパブで「アイ」として働いている時、和田医師と運命的に出会い、性別適合手術を受けることに。明るく優しい性格だが、母親に黙って手術を受けたことを心苦しく思っている。

そんなケンジはある日街中で、一人の女性に目を奪われる。ブロンドの髪をボリューミーにまとめあげ、真っ赤なリップにゴージャスなドレスを纏い、10センチを超えるハイヒールを履いて颯爽に歩くその人を追いかけていくと、そこにはニューハーフが働くショーパブ「冗談酒場」があった。煌びやかな衣装とゴージャスなヘアメイクをしたニューハーフたちがステージ上でパフォーマンスをする姿を見たケンジは、初めて自分以外にも出生児に割り当てられた性別と、自分が自認する性、表現する性が異なる人たちと出会い、居場所を見つける。「冗談酒場」で個性溢れるニューハーフの先輩たちからいびられながらも愛され、ショーパブのママ、アキ(中村中)から「アイ」という名前をもらい、新たな人生を歩んでいく。

アキ(中村中)
アイが働くショーパブのママ。誰も自分のことを理解してくれないと思い込んでいた学生時代のアイを、強い言葉で叱咤激励してくれた恩人。

トランスジェンダーが精神疾患扱いされた1990年代。「ブルーボーイ事件」の影と医師との出会い

しかし、年齢を重ねるにつれて成長していく身体が自身の性のあり方からかけ離れていく恐怖を抱え、本当の自分になることはできないのだと絶望を感じながら生きていたアイ。そんなとき、医師の和田耕治(斎藤工)と出会い、アイの運命は大きく変わる。

当時、1965年に起きた「ブルーボーイ事件」(※)裁判により性別適合手術を行うことはタブー視されていた。しかし、そんな時代にも自身の性自認に合わせて適合手術を望む人たちは数多く存在した。アイもその一人だ。そんな人たちを「生かすため」に、和田はアイの「女にしてほしい」という願いを承諾する。

※1960年代に日本で起きた性別適合手術をめぐる裁判事件。トランス女性に対して性別適合手術を行った医師が、当時の優生保護法における「不妊手術の禁止規定」に違反するとして起訴された。裁判では手術の医療的正当性はほとんど考慮されず、有罪判決が確定。この事件をきっかけに、日本では性別適合手術が長年タブー視され、トランスジェンダー医療と権利保障の発展が大きく遅れる結果となった。

和田耕治(斎藤工)
過去に患者を救えなかったことに苦しみ続けている医師。アイとの出会いで、性別違和に苦しんでいる人が多くいることを知り、日本では難しいとされていた性別適合手術へ踏み切る。警察に目をつけられ世間からの激しい批判にさらされ、少しずつ疲弊していく。

1990年代、トランスジェンダーが医学的にも「精神疾患」(※)と見なされていた時代に流れていた冷酷な眼差しや逆風と闘いながら、本当の自分を取り戻すことを諦めなかった愛と和田の覚悟が、本作では色濃く描かれる。

性別適合手術を終えたアイは、「これでアイドルになれる」と上京することを決意。しかし、ニューハーフというだけで芸能事務所やイベントプロモーターから門前払いされる日々が続き、アイは夢を諦めかけそうになりながらも「自分にしかできないこと」を見つけていく。

※2018年にWHO(世界保健機関)が国際疾病分類の改正版を発表し、その改正で「性同一性障害」が精神疾患のカテゴリーから除外され、「性の健康に関する状態」というカテゴリーに「性別不合」として再分類された。それに伴い、2024年に日本の専門学会も「性別不合」を用いるようになり、医学界では非病理化の方向に進んでいるが、診断名や法律上に明記されている言葉は未だ「性同一性障害」のままである。

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