「温泉×探偵×発明家」という斬新な組み合わせが話題のドラマ『探偵さん、リュック開いてますよ』。
テレ朝ドラマ初主演となった松田龍平が企画し、『南極料理人』『横道世之介』『さかなのこ』などの人気映画監督・沖田修一らが監督・脚本を手掛けたゆるふわヒューマンミステリーは、同じくテレ朝の人気ドラマ『時効警察』などを彷彿させながら、その予想もつかない展開に毎週、視聴者を驚かし続けている。
温泉街に住む個性的な住人たちを見るのも楽しい本作について、ドラマ / 映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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温泉そのもののような愛すべきドラマ

『探偵さん、リュック開いてますよ』は、実に不思議なドラマだ。「探偵」と銘打ったドラマでありながら、例えば第4話では冒頭で唐突に濱田岳演じる真田幸村を中心とした時代劇が始まるなど、毎話冒頭でなんのドラマを見ているのか一瞬分からなくなる。そして、松田龍平演じる「探偵さん」こと一ノ瀬洋輔と愉快な仲間たちが出てくると、やっぱりこれは、『探偵さん、リュック開いてますよ』なのだと納得するのだ。

第5話は、この回の主人公とも言える西ヶ谷温泉の共同浴場・大湯の「お湯」のクローズアップの後、お湯に浸かっている洋輔をはじめとする常連客たちが、飛猿(きたろう)の身体から箸を使って蟻を採集している場面から始まった。飛猿は、第1話から登場しているゴリラの着ぐるみを着ているかのような人物で、公式サイトによると「とても毛深い、いつも温泉にいる人」。その見た目や設定について作中で特に紹介があるわけではないが、洋輔を含めた街の人々全員にものすごく愛されている存在であることは伝わってくるから、なんだかこちらまで愛さずにはいられなくなる。すべての人々、もしくは生きとし生けるものすべてを包み込む本作は、まるで温泉そのもののようだ。
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真田十勇士や「お湯」(声:六平直政)が各話の主人公に

主演の松田龍平が企画段階から関わり、映画『モヒカン故郷に帰る』、『0.5の男』(WOWOW)に続き3度目のタッグとなる映画監督・沖田修一が脚本・監督を務める本作は、どこまでも自由に飛躍する。松田龍平演じる探偵兼発明家が、渾身の発明品を使って松茸泥棒と対峙したら、土に埋まって自力で出られなくなったという、なんとも「ゆるふわ」な探偵ものとしてスタートしたと思ったら、第2話は、地底人を信じる子どもが主人公の成長物語にもなる。そうかと思えば、平穏だった田舎の温泉街が、突然FBIが調査に訪れる連続不審死事件の舞台になって、気づいたら町内放送を通して鳴り響く「世界の終わりの歌」によって解決している。さらに第4話では真田十勇士の1人・穴山小助(三河悠冴)がタイムスリップし、そのまま現代に居ついてしまうし、第5話の主人公はなんと温泉の「お湯(声:六平直政)」である。
多種多様なジャンルを自由に横断する作風で、その世界の中を楽しそうに闊歩する愛すべき「はみ出し者たち」の物語は、現代において何より必要なのは、彼らが持つようなゆるやかな「寛容さ」であることを教えてくれる。

また、本作に登場する「ドンソク」という乗り物が面白い。ドンソクは洋輔が発明した、負の感情をエネルギーに変えて動く「サステナブルな」乗り物だ。ドンソクの存在は、本作の舞台である西ヶ谷温泉を一層謎めいたものにしているが、それに乗って疾走する学生たちの「どっか行っちゃおーかなー、このまま」という何気ない日常の一コマの美しさには思わず驚かされる。また、この町に他所から訪れた南香澄(片山友希)や穴山小助が、ドンソクで街を疾走することで、あまりの解放感に目を輝かせ、次第に「この町の人」になっていく様子が手に取るように分かるのである。
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「ゆるさ」で声なき声を拾い、叶わない夢を叶える

次に特筆すべきなのは、本作全体の「ゆるさ」がもたらす壮大な優しさである。第4話において、町の温泉が止まるかもしれないという「町の一大事」を何より心配する人々は、真田十勇士が「九勇士」になっているという歴史上は重大な時空の歪みが「既に起きてしまっているために」気づきようがない。戦国男子・穴山小助は、なぜかするっと令和に適応してしまい、街の人々はそのまま人柄のいい彼を愛し、無条件に受け入れる。結果、タイムマシーンを作って戦国時代に送り返すのは「今の科学じゃパワーが足りなかった」こともあり、「帰りたくない」という本人の意志を尊重し、小助はそのまま洋輔の住む旅館「ゆらぎや」で暮らし続けるのだった。

続く第5話では、温泉街に突如湧き上がった土地買収騒動と、「ハイパー温泉クリエイター」(廣末哲万)の温泉マナーの悪さに怒り狂った温泉の「お湯」による殺人事件を描いた。ここで興味深かったのは、洋輔の発明した「OU翻訳」によって、「お湯」が「誰かと話をする」喜びを知ったことに対する洋輔の葛藤を描いていたことだ。人間の都合でお湯を話せるようにしたのに、再び話せなくなるように戻さなければならない自身の身勝手さを懺悔する洋輔に対して、14歳の元フィギュアスケーター・北由香里(川上凛子)は「全部言葉で言えるんだったら、涙なんか出ないと思いますよ」と返す。それはその直後の場面で、閉店セール真っ最中の「フレッシュマート酒井」の看板娘・酒井あおい(高橋ひかる)の内に秘めた思いを示す、言葉より雄弁な表情の変化や手の動きに繋がっていくのであるが、本作はそこで終わらない。
事件の解決と共に「お湯」はしゃべる機会を失うはずが、町役場職員たちの計らいにより、「OU翻訳」を使ってご機嫌に町内放送を担当している。そうやって本作は、非現実的な方法で、声なき声を拾い、本来なら叶わない夢を、驚くべき「ゆるさ」で叶えるのである。それこそが本作の魅力ではないだろうか。
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「ドーナツの穴」のような主人公・洋輔のもとに集まる人々

本作で主人公・洋輔は、「ドーナツの穴」と形容されている。第2話で、田舎暮らし系動画の人気配信者・南香澄は洋輔のことを「あれはドーナツの穴みたいなもんだから。そこにないのにあるみたいな。まあ、1人とそう大して変わんないってこと」と語る。その背景には、第1話で洋輔が、彼の住む温泉旅館「ゆらぎや」に泊まりたいと言ってきた香澄に対して言った「ドーナツの穴ではなく、ドーナツに目を向けよ」という言葉があるのだが、「そこにないのにあるみたいな」存在である洋輔の周りに不思議と人々は集まってくる。
気づけば当初、洋輔が1人で暮らしていた「ゆらぎや」は、香澄に加え、第3話の連続不審死事件の調査でやってきたFBI捜査官の1人・マイク(村雨辰剛)に、第4話の戦国時代からやってきた穴山小助を加えた大所帯になっていて、さらに第5話終盤で「ゆらぎや」の買い手とされていた外国人の男性も加わることが決まった。