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『センチメンタル・バリュー』レビュー 家族の役割から解放される「優しさ」のパンク

2026.2.20

#MOVIE

「優しさは新たなパンク」。本作を通じて見えるトリアーのスタンス

グスタヴが『帰りたい場所』の製作を通じて達成したいものは、つまるところ何なのか。それは冒頭のナレーションで鮮やかに示されるように、ある家にまつわるトラウマを、その構成員たちが理解し共有することだ。それはあまりに多層的であるがゆえに、「父」「母」「娘」といった単一的なアイデンティティのみで到達することはできないものだ。なかでも、アグネスがグスタヴやノーラとはまた異なるアプローチを見せていることに注目したい。歴史学者である彼女は、自殺した祖母が強制収容所で拷問を受けていた事実を、資料を通じて知り、衝撃を受ける。本作ではそのように、それぞれがそれぞれのあり方で家にまつわる悲しみと向き合った結果が少しずつ折り重なっていくさまが見つめられる。トリアーはそうした入り組んだ人間模様を、あくまで流麗なストーリーテリングで紡いでいく。

本作についてトリアーは、「Tenderness is the new punk(優しさは新たなパンクである)」とかつてのパンク青年として表明していた。ここで問うべきは優しさの定義よりも、そもそもパンクとは何なのか、だろう。それはたとえば、硬直した価値観の破壊、機知とユーモア、そして、新たなコミュニティの創造。そうしたものが、本作ではできるだけ繊細な手触りで模索される。

グスタヴがここで「家族」と呼ぶのは、血縁関係でもあるし映画製作を通じた関係でもある。彼のなかでそれらは切り分けられないものであり、しかしそのコミュニティによってのみ生まれる芸術というものがあると彼は熟知している。あるいは絆も。だからグスタヴは、父親としても、芸術家としても、絶対にノーラに脚本を読ませたかった。

『センチメンタル・バリュー』における「優しさ」は、単一的なアイデンティティで人を断罪しないという態度に他ならない。かといって、グスタヴを映画監督としての偉大さのみで赦すこともしない。さまざまな自己が折り重なる映画文化のもとで生きる者たちの不器用な愛の表明を、ただそのままの形で柔らかく受け止めるのだ。そして何より、この世界に新しく映画作品が生れ落ちる瞬間を静かに祝福する。

『センチメンタル・バリュー』


監督:ヨアキム・トリアー(『わたしは最悪。』)
脚本:ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト
出演:レナーテ・レインスヴェ、ステラン・スカルスガルド、インガ・イブスドッテル・リッレオース、エル・ファニング
配給:NOROSHI ギャガ
英題:SENTIMENTAL VALUE/2025年/ノルウェー/カラー/ビスタ/5.1ch/133分/字幕翻訳:吉川美奈子/レーティング:G

公式サイト

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