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なぜ公正取引委員会は芸能界の調査に乗り出した? その背景と新指針を解説

2026.2.16

#OTHER

気になる指針の中身をポイントごとに検証してみる

─ここからは、指針の中身を細かく見ていこうと思います。実際の指針は法律用語になっているので、気になった指針を選んで少し噛み砕いて表現してみましたので、解説をお願いします。

Point1: 「契約延長による引き留めは育成費回収など必要な場合だけ、理由や範囲を説明して1回に限る等合理的な範囲で」(指針2.期間延長請求権について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

片岡:ヒアリングにおいて、契約期間が満了し、タレント本人が辞める意志を示しているのに、事務所側が一方的に専属マネジメント契約を延長して拘束する「期間延長請求権」が規定されているケースが報告されました。何度も一方的に契約更新するのはタレント側にとっては不利益の程度は相当に大きいと思います。他方で、日本型プロダクションの場合、売れた瞬間に辞められるとタレントの育成にかかった費用が回収できないという問題もあります。このため、期間延長請求権を規定する場合には、1回に限るなど合理的な範囲で行使するものとするよう求めています。

Point2. 「芸能事務所を辞めた後、すぐに新しい事務所に移籍することを禁止したり、一定期間活動を制限するなどしてはいけない」(指針3. 競業避止義務等の規定について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

片岡:芸能以外の分野では「競業避止」といって、たとえば、営業秘密の漏洩防止を目的に、競合する企業への転職や、競合事業を立ち上げることを一定期間禁止する取り決めを交わす場合があります。しかしタレントは、一般的には事務所の営業秘密に触れているわけではないと思われ、原則として競業避止義務を規定すべきではないとしています。営業秘密を保護する必要がある場合には、まずは秘密保持契約を検討していただくよう求めています。

Point3.「芸能事務所はタレントの移籍・独立が円滑にすすむよう対応し、悪評を流したり、独立後にテレビ局等にトラブルがあったことを匂わせて起用させないなどの妨害をしてはいけない」(指針5.移籍・独立を希望する実演家に対する妨害、指針6.移籍・独立した実演家に対する妨害について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

片岡:こうした妨害は密室で行われることですので、なかなか一般には明らかにならず、違法行為が抑止されないのではないかというご懸念もあるかとは思いますが、仮に関係者からそういう妨害が行われているという情報が入り行政調査を行うとなった場合には、例えば、我々が事業者の皆様のところに立入調査にうかがって、メールですとか様々な証拠を取らせていただくことになります。このため、事業者の皆様には、この指針をご参照いただき、違法行為が発生しないようご留意いただければと思います。

森崎:辞めたにも関わらずホームページからプロフィールを消してくれないことが、妨害になることもあります。日本人は真面目なので、前のものが残っていると新しい事務所と契約できないと考えるんですよね。

片岡:それでご本人に仕事が来ないということになると、取引を妨害したとして独禁法上問題となり得ます。

Point4. 「知的財産権やパブリシティ権(タレントの名前や顔が持つお金を稼ぐ力を独占して管理できる権利)を退所後も事務所が持っている場合、テレビ局等から利用の申し出があった際は、断る合理的な理由がなければ使用を許可すること」(指針8. 成果物に係る各種権利等の利用許諾について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

森崎:今回、指針の発表の際には、「芸名やグループ名」に関して、事務所を辞めても使用できる、ということが注目を集めました。もう一つ重要な実演家の権利に、パブリシティ権があり、これについてもタレントが事務所に譲渡しているケースが多いです。事務所を辞めた後に所属当時に撮影した自分の写真や動画を、例えばテレビ出演時に使えなくて困るケースがありました。

片岡:芸能事務所側としては、スキャンダル記事で昔の写真を使わせてくれというような本人のイメージダウンになるような許諾申し込みもあり、それに関しては断るというような場合もあると伺っており、タレントとの皆様とのコミュニケーションも必要かと思いますが、そのような合理的な理由がなければ使用の制限を行わないことなどを求めています。

Point5. 「ギャラ(2次使用料やグッズ販売の収益配分を含む)や歩合の率、タレント側が負担する経費等の条件はできる限り契約書に明記し、契約更新時等に協議することができる」(指針10.報酬に関する一方的決定について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

森崎:長くキャリアを積んだタレントさんなど、自分が出演した映像作品が何度も再放送されたり、DVDなどとして商品化されてたりしているのに、一度権利を譲渡してしまうとそれっきりになってしまうことがあります。これに関しては、北京条約の「視聴覚的実演の権利」という先進的な条約がありまして、DVDなどの映像での実演について実演家の権利が規定され、その中には財産的権利も含まれています。こちらは日本も批准しているのですが、この指針でも2次使用料について言及されていることから、さらに国際的な流れに近づいたのではないでしょうか。

片岡:実態調査では、事前に説明されていないにもかかわらず経費が報酬から差し引かれたり、2次使用料やファンクラブ運営、グッズ販売の収益が配分されないなどの回答がありました。指針では、契約締結時に報酬などの条件を十分説明し協議すること、契約更新時にも意向を十分確認することを求めています。

Point6. 「タレントが望まない仕事は、将来の育成目的であっても十分に説明し本人が納得した場合のみ引き受ける。拒否を理由に報復をしてはならず、本人の自由な選択を尊重する」(指針11. 業務の強制について)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

森崎:基本的にタレントは、事務所から言われたことはやりたいと思っているので、「危険なところに飛び込めと言われたら飛び込む」と本気で思っている人もいます。それに対して、こういう指針が出て、事前に契約でも触れられるようになれば、危険なことが起きづらくなるかもしれないと期待を持って読みました。気になるのは、合理的な理由があれば報復をしても良いように読めてしまうことです。揉めた時にどう解釈されるかが難しいところだと思います。事務所側が説明することになっていますが、実演家から話したい場合もあると思いますし、仕事を引き受けてくれないと事務所が困る場合は、強く説得する場合もあるのではないかと思います。

片岡:ここはまさに日本型プロダクションの長所と短所の両方が出てくるところですね。ステップアップのためにこういう仕事もやってほしいという育成の観点もあるでしょうし、他方、無理を言ってとにかく取ってきた仕事をやらせたいというケースもあるかもしれません。線引きが難しい場合があるというのはおっしゃる通りかと思います。

森崎:ただこうして明示されたことで、「断ってもいいんだ」とタレント側に理解されることが大事だと思います。

Point7. 「タレント(特に若いタレント)と契約する際は、権利や芸名、報酬、活動の制約になりうることを分かりやすく説明する。また、弁護士などに相談できるよう配慮し、更新時も本人の意思を確認する」(指針12. 契約を書面により行わないこと、契約内容を十分に説明しないことについて)
「芸能分野の取引適正化指針」のポイントをわかりやすく噛み砕いたもの(詳細は記事末記載の公正取引委員会ウェブサイトにて) / 図版作成:ヨシオカマイコ

森崎:これに関しては、「指針1」の「取引適正化のために参考となる行動例」にも重要なことが書かれていまして、「未成年の実演家に対する契約内容の説明の際には、必ず親権者(法定代理人)に同席してもらっている。さらに、その場で署名させることはせず、初回は契約期間を含む契約内容の説明にとどめ、契約書案を持ち帰って確認してもらう」と例に挙げられています。当協会でも保護者の方からお子さんの事務所との契約について相談をいただくことがあります。未成年の場合の法定代理人の立ち会いや、弁護士に相談できる配慮について書かれているのは、非常にありがたいと思います。


片岡:実演家の方も多種多様で、小学生の頃からタレント活動を始められる方もいらっしゃるわけです。保護者の方が芸能界に近い方であればよく御存知であるということもあると思いますが、ほとんどは一般社会の方なので契約書があったとしても、それを示されてすぐに理解はできないのではないかと思います。そこは事務所の方から丁寧にご説明し、一旦持ち帰ってもらうなどして納得した上で契約していただくことが重要だと考えています。

この部分に関して言うと、独占禁止法上で直ちに違反になるわけではないのですが、後でトラブルになった場合、事務所側が強い立場だったとなると「優越的地位の濫用」といって、独占禁止法上の「不公正な取引方法」に当たる場合がございます。そういうシチュエーションを誘発しないように、事前にできるだけ対処していただきたいという意味でお示ししています。

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