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タレントの自由を奪う縛りをやめ、移籍や独立もしやすい環境に
─改めて今回の指針には8項目にわたる17の指針があるということなのですが、内容を簡単に教えてください。
片岡:基本は、コンテンツ産業で働く人の健全な活動を促進するような取引を進める内容になっています。ヒアリング調査では芸能事務所を辞めた後に「一定期間は芸能活動をしてはいけない」とされたことがある、縛りがあるとの回答や、移籍しようとすると不当な賠償金を請求されたことがあるとの回答がありました。新しい指針では、こうした実質的に自由を奪うような縛りは原則として規定すべきではないとし、タレント(実演家)が自分の意志で移籍や独立をすることを阻害されないようにしています。一方でタレントに対し投資をしている場合は、合理的な範囲で回収について事前に取り決めをしておくことが望ましいことなども示しています。

片岡:また、タレントの報酬などが「いくらもらえるのか」「いつ支払われるのか」といった大事なことを、事務所や放送局は、事前にきちんと書面(またはメールなど)で条件を伝え、お互いに納得した上で契約しなければなりません。不当に安い報酬を押し付けることや本人の意志に反した仕事を無理やり押し付けることもしてはならないとされています。退所後に芸名やグループ名、所属当時の写真や映像を使うことも制限を行うことなどに合理的な理由がない限り許可するよう求めています。
「干される」という言葉がありますが、タレントが事務所を辞めて移籍・独立することを不当に邪魔したり、独立した後で悪いうわさを流したり、テレビ局などが「前の事務所に気を使って、そのタレントを番組に出さない」といった忖度をすることがあるとのタレントの回答も実態調査でみられました。指針では、移籍・独立したタレントの活動を妨害するような言動をしてはならないことを示し、放送局にも忖度などせずに自主的な判断でタレントの起用などを行うよう求めています。
─音楽分野についてはいかがでしょうか?
片岡:これまでレコード会社との契約では、再録禁止条項といって、移籍・独立後もしばらくの間、所属している間に出した曲を、録音したり配信したりすることを禁止するルールがありました。レコード会社側からは、原盤制作やプロモーションに投資しているので、特に、新曲をリリースした直後に辞め、再録されると売上に影響があるとのご懸念があるところです。一方、ミュージシャン(実演家)側からすると大昔にリリースした曲について、一律に移籍・独立後数年間再録を禁止されるのは制約が強すぎるのではないかというご議論もあるところです。

片岡:指針の考え方としては、移籍・独立よりずっと前に制作した楽曲は一般的には投資を回収できていると考えられるため再録禁止条項について合理的な範囲内に限定するよう求めています。
─森崎さん、この指針が出る前の芸能界の取引はどうだったのでしょうか?
森崎:そもそも実演家(タレント)は、振込があって、やっと報酬額がわかることが多いです。契約とは何か、誰が当事者なのか、何が業務で、成果物とはなんなのか、そういったことについて、まだよくわかっていない方もいます。いつ業務が終わるのかというのも、打ち上げがあったら終わりなんじゃないかとか、そういう感覚で、うやむやな理解が多い状況だったと思います。

─それによって一番不利益を被ることはなんでしょうか?
森崎:多分、報酬に満足していて、人間関係も順調というような、問題が起きていない時に関してはなんとも思わないと思います。一旦人間関係が悪くなった時に、実はそれは契約の問題だったということが非常に多く、相談に来られた方に「契約はどうなっていますか?」と聞くと、ほとんどが交わしていません。仕事がしづらくなって、やっと気がつくというパターンが多いと思います。