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ドラマ『シナントロープ』が描く「居場所」を取り返そうとあがく人々

2025.12.22

#MOVIE

©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

予想のつかない展開の連続で、毎週、ドラマ好きを魅了し続けているドラマプレミア23『シナントロープ』(テレ東系)が最終回を迎える。

「人間の生活圏や人工物を利用して共生する野生の動植物」を意味する「シナントロープ」という名のバーガーショップに務める若者たちは、後半、「害虫・害獣」を意味する裏組織「バーミン」の面々によって、街に潜む闇に巻き込まれていった。

最終回直前、いくつもの伏線が回収されながらも、まだ謎が多く残る本作について、前半を振り返った記事に続いて、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

若者たちの青春群像を輝かせる「闇」の魅力

おじさん(山本浩司)と若い男(栗原颯人)は、水町(山田杏奈)の父親と「キノミとキノミ」のメンバー・シイだった©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
おじさん(山本浩司)と若い男(栗原颯人)は、水町(山田杏奈)の父親と「キノミとキノミ」のメンバー・シイだった©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

「闇があるから光がある」とはよく言うが、まさに『シナントロープ』は、そんな「闇」の魅力に圧倒されるドラマだった。折田(染谷将太)を中心とした裏組織「バーミン」の面々はもちろんだ。さらに、一方が水町(山田杏奈)の殺された父親であり、もう一方がバンド「キノミとキノミ」のメンバー・シイであることが判明した「ずっと向かいの部屋を監視しているおじさん(山本浩司)と若い男(栗原颯人)がいる暗い部屋」という過去パートがあるからこそ、バーガーショップ「シナントロープ」の「何者かになりたい」若者たちの青春群像がより一層輝いてみえる。

暴力の裏に屈折した感情を幾重にも滲ませる染谷将太の演技

第7話以降、暴力性を発揮し始めた折田(染谷将太)©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
第7話以降、暴力性を発揮し始めた折田(染谷将太)©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

それまではただフルーツを食べてばかりいる不気味な男に過ぎなかった折田が、存分に暴力性を発揮し始めたのが第7話以降である。折田はシイの居場所を聞き出すためだけに龍二(遠藤雄弥)と久太郎(アフロ)を使ってカシュー(中山求一郎)を拷問し、最終的には殺してしまう。さらには、頑なに信じる「父のやり方」に従って二人組のうちどちらか一方を殺そうと思い立ち、久太郎まで殺す。映画『怪物』でも印象的だった柊木陽太が少年・折田を演じ、無邪気な狂気を見事に演じてみせた過去パートにおいても、彼は同じ「二人組のどちらかを殺す」方法を用いて、子どもだと油断していたおじさんを殺し、「若い男」シイと死闘を繰り広げたのだった。

本作において「折田」という存在は理不尽な暴力そのものだ。「真面目に人を殺すなんて、そんなもん、それこそ漫画だけの話」とおじさんは言ったが、折田は特に大きな理由もなく、これでもかと言うほど精神的な苦痛を与えながら人を殺す。まさに第4話で水町(山田杏奈)が言う「普段は果物食べてて温厚なんだけど、いざとなると時速50キロで走って鉈(なた)のような爪で襲いかかる」ヒクイドリのように、穏やかに微笑みながら。しかし、ただ怖い存在というだけでなく、暴力の裏に屈折した感情を幾重にも滲ませるところが、染谷将太演じる折田の魅力と言えるだろう。死んだ父親への過剰な憧れと、人と繋がれない孤独。少年のまま大人になってしまったような彼が抱える底知れぬ闇が覗くことで、龍二と久太郎コンビの、折田には「眩しすぎてこっちが見えてない」だろう友情や、おじさんと若い男の間に生まれたつかの間の仲間意識、「シナントロープ」の面々が水町のピンチに対して体を張って立ち向かうような連帯の美しさがより輝いて見える。また、折田に静かに寄り添い、時に母のように包み込む睦美を演じる森田想の演技も秀逸である。

鮮烈だったアフロ演じる久太郎の最期

どこか憎めない純粋さと切なさを持った久太郎(アフロ)©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
どこか憎めない純粋さと切なさを持った久太郎(アフロ)©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

そして、何より鮮烈だったのは、第11話におけるアフロ演じる久太郎の最期である。服従しなければならない相手である折田に全力で抗い、最後まで挑発することをやめない久太郎の姿には、テレビ越しに彼の死なない未来を祈らずにいられなかった。久太郎は、折田率いるバーミンの一員であり、「シナントロープ」を脅かす側の人間でありながら、どこか憎めない純粋さと切なさを持ったキャラクターだった。

アフロが発する久太郎の言葉の数々は、ドラマ『宮本から君へ』(テレ東系)でエンディングテーマ、『錦糸町パラダイス~渋谷から一本~』(テレ東系)で主題歌を担当してきたMOROHAの音楽性をそのまま身体に宿したかのようであった。故郷・沖縄への愛、日常の些細なこと、死に至る時に何を思うのか、「そろそろ人間にも羽が生えたらいいのに」という希望——それらの言葉によって、久太郎は、彼の生きる非日常的な世界を視聴者が生きる日常と接着させ、さらには、誰しも潜在的に抱く、生と死を巡る様々な哲学的問いにまで広げていった。だからこそ、多くの視聴者が、久太郎の人生に寄り添わずにいられなくなったのではないか。また、久太郎は、折田が固執している父親について深く言及するなど、唯一、正面から折田とぶつかろうとする存在だった。第11話での折田との対峙の果ての久太郎の死は、折田自身を、より救いのない状況に置いたと言える。

街全体が息をしているかのような繋がり

破壊されてしまったハンバーガーショップ「シナントロープ」©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
破壊されてしまったハンバーガーショップ「シナントロープ」©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

前半を振り返った記事でも言及した通り、本作は、登場人物たちの見えにくい繋がりを大切にするドラマだ。都成(水上恒司)が第6話で会った小学生(瀬口直助)と父親(平原テツ)に、第10話で木場(板東龍汰)が遭遇したり、アレックス(厚切りジェイソン)と和服女(中村映里子)のカップルや、「はっきりいうて」が口癖のおばちゃん(川上友里)といった面々が縦横無尽に登場することで、街全体がまるで息をしているかのように描かれる。

また、第7話において、アレックスが電話口で和服女に別れ話をするスポーツバーの場面に続けて、里見(影山優佳)の部屋にいる里見と水町が、同じマンションに住んでいる和服女の「アレックス!」という叫び声を聞いて驚くといった、リアルタイムの繋がりもある。そして、第8話で月を見上げる水町と志沢(萩原護)の次の場面で、「12年前」を生きる若い男が月を見ているという時空を超えた繋がりもある。久太郎が同一回の龍二との会話で「空に輝く月ってのはさ、どっから見ても平等に美しいんだぜ」とのんびり言うように、そこに12年という時間の違いがあっても、月の美しさは変わらない。

「若い男」=シイが名付けたバンド名「キノミとキノミ」の由来は水町が持つ「カラカラ」だった©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会
「若い男」=シイが名付けたバンド名「キノミとキノミ」の由来は水町が持つ「カラカラ」だった©此元和津也 / 「シナントロープ」製作委員会

さらに、同様の「繋がり」が、今は亡き水町の父と水町を、12年の時を経てもなおしっかりと結びつけている。「若い男」=シイは、水町が今も肌身離さず持っている「カラカラ」について「おじさん」=水町の父と交わした会話を元に、自分たちのバンドに「キノミとキノミ」という名前をつけ、戯れに交わした約束通り武道館でライブを行った。水町は、「ハンバーガーは幸せの象徴」だと思い、娘に「ハンバーガーショップを作ってると言っている」父親の思いを知ってか知らずか、経営難で閉店するはずだった「シナントロープ」の経営に奮闘している。暗がりに何カ月も潜んで折田父の帰宅を待っていた父の身に起きた悲劇の上に、「トンビが生んだタカ」である水町の今の青春と、彼女が仲間たちと作ろうとしている自分たちの「居場所」がある。しかしその居場所も、第10話冒頭でバーミンの指示で動く人々により、粉々に破壊されてしまった。

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