華々しい芸能界の裏側では、立場ごとにさまざまな思いが行き交っている。ABEMAオリジナルドラマ『スキャンダルイブ』は、タレントを支える側と、スキャンダルを追う側、両者の禁断の攻防戦を描きながら、その先にある芸能界の深い闇に切り込んでいく作品だ。
本作で芸能事務所の社長・井岡咲を演じた柴咲コウと、週刊誌記者の平田奏を演じた川口春奈。劇中では相反する立場にいる2人が、作品を通して、そして現実の芸能界で感じていることを率直に語ってくれた。
SNSで拾われる声、報道が持つ力、タレントとマネージャーの距離、正義と悪がきれいに分けられない瞬間――。ドラマで描かれるテーマは、2人の実感と静かに重なり合っていく。
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「芸能界とスキャンダル」を演じる複雑さ
—芸能事務所と週刊誌がスキャンダルを巡って攻防を重ねる『スキャンダルイブ』ですが、脚本を読んで、最初に惹かれたのはどんなところでしたか?
柴咲:旧知のプロデューサーさんから「面白い物語でご一緒したい」と声をかけていただいていたので楽しみにしていたんです。そこで届いたのが今回の脚本。世論の雰囲気とばっちりで、「なんとリアルタイムなんだろう」と思ったのが最初の素直な感想です。もし、芸能界のマイナス部分だけを切り取る物語だったら、出演することに少し迷いはあったかもしれません。でも、私が演じた芸能事務所の社長のように、マネジメントに力を尽くしてくれる方が大勢いてこそ成り立つ仕事だということを、しっかり伝えられるいい機会だと感じて出演を決めました。これまでも飛行機の整備士の役や看護師など、裏方の仕事を演じてきた経験がありますが、自分が長年身を置いてきた世界とここまで近い役柄は珍しいので演じるのも楽しみでした。

俳優・歌手・レトロワグラース代表。2016年に持続可能な調和社会の実現に向け「レトロワグラース」を設立。近年では、TBSテレビ金曜ドラマ『インビジブル』、映画『沈黙のパレード』、映画『月の満ち欠け』、映画『Dr.コトー診療所』など数多くの作品に出演。2023年公開のジブリアニメーション映画『君たちはどう生きるか』では声優を務めて話題に。
川口:芸能界の裏側やスキャンダルを扱う、インパクトのあるギリギリの題材にまず惹かれました。「こういうシチュエーション、実際にありそうだな」と思いながら脚本を読み進めていくうちに、どんどん面白くなっていって。どこか怖いもの見たさで目が離せなくなるテーマでもありますし、「挑戦してみたい」という気持ちが自然と湧いてきました。

俳優・モデル。1995年、長崎県出身。雑誌『ニコラ』専属モデルとしてデビュー。2009年ドラマ『東京DOGS』でドラマデビューを飾る。近年の代表作にドラマ『silent』、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』などがある。
—演じるうえで、特に心に残っているセリフやシーンはありますか?
柴咲:やっぱりクライマックスのシーンは印象的ですよね。物語のすべてがそこに集まっていくような感覚がありました。詳しく話すとネタバレになってしまうので多くは言えませんが、自分自身の在り方にも問いかけられるような内容だと思います。ぜひ観て確かめてほしいですね。
川口:タレントを守ろうとする、柴咲さん演じる井岡咲が、記者に向かって「これは誰得なの?」「あなたたちがやっていることはおかしい」と言うシーンがあるんですが、その言葉には私自身も共感する部分があって。でも、報じる記者の方にとってはもちろん仕事でもあるわけで……。どちらの気持ちもわかるからこそ、演じながらすごく難しさを感じました。私たちはよく「スキャンダルを報じられるくらいの対価をもらっているんだから、これくらいは有名税でしょう」と言われることもありますが、本当にしょうがないことで片づけてしまっていいのかな、という思いもあって。改めていろいろ考えさせられました。
柴咲:春奈ちゃんが演じたのは報道記者という、普段の自分とはまったく逆の立場だからこそ、いろいろ複雑な気持ちにもなるよね。
川口:そうですね。普段の自分ではなかなか味わえない感情に触れられたので、その面白さもありました。ただ……やっぱり複雑ではありましたね。
芸能事務所と週刊誌による、スキャンダルを巡る禁断の攻防戦を描く、ABEMA新オリジナルドラマ。芸能事務所社長・井岡咲(柴咲コウ)の元に飛び込んできたのは、所属俳優Fのスキャンダルが掲載されるという週刊誌からの告知だった。記事が出るまで、あと72時間。スキャンダルの水面下で巻き起こる、事務所と週刊誌の熾烈な争いが火蓋を切る。いまだかつて描かれることのなかったスキャンダルの裏側、そして芸能界の深い闇へと切り込んでいくサスペンスドラマ。
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SNSが活発になって、今まで拾われてこなかった声が見えるようになってきた(柴咲)
—ドラマでは、スキャンダルの裏側にあるタレントと事務所の絆も描かれています。こうした関係性の描写に、リアルだと感じる部分はありましたか?
柴咲:絆って、意識して築かれていくものもあれば、相性のようなものもありますよね。学校で信頼できる先生に出会えた人もいれば、どこか疎外感を覚えた人もいるように、運命としか言えない部分もある。私自身は、最初の事務所で見いだしてくださった方には、今でも深く恩を感じています。独立した現在も連絡を取り合っていますし、あの時に素晴らしい育ての親に出会えたことは、私にとって本当に大きな財産だと思っています。
川口:マネージャーさんって、ある意味運命共同体ですよね。同じ熱量で仕事に向き合いたいし、対等でいたい。コミュニケーションを重ねながら信頼関係を築いていくことが理想だと思っています。その点で、咲はまさに理想のマネージャー。タレントへの愛情も情熱もあって、ああいう存在に支えられたら心強いですよね。
柴咲:それでいて、全然うっとうしくないのがいいですよね。タレントが焦っているときに「大丈夫だから」って声をかけてくれるのも、本当に救われる。「大丈夫」って、心をふっと落ち着かせてくれる魔法の言葉だと思うんです。
—タレントとマネージャーの関係は、一般の我々にはほとんど見えない領域ですよね。本作では、その密度の高い裏側が少しだけ覗けるのが興味深いと感じました。劇中には「古い芸能界のシステムが生んだ価値観と、新しい価値観の狭間にいる」という印象的なセリフもあります。お二人は実際にこの世界で仕事を続けてきて、いま業界が抱える揺らぎや変化をどのように感じていますか?
柴咲:テレビ局とプロダクションのあいだには、いろんなリレーションシップがありますし、全部をクリーンにさらけ出すことがイコール善、というわけではないと思うんです。でも、その業界なりの風通しのよさは必要ですよね。SNSが活発になって、今まで拾われてこなかった声が見えるようになってきた、というのはあるのかもしれません。私自身、昔から「風通しをよくしてください」と言い続けてきましたし、売れていない頃から、嫌なことにはちゃんと「嫌だ!」と伝えてきました。そうやって積み重ねてきたものが、今につながっているのかなと思います。
川口:業界全体のことを語るのは難しいんですけど、私個人の感覚でいうと、昔と比べて「個」が強くなってきたというか、意見がきちんと尊重される場面が増えているようには感じています。
