メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

岡田拓郎インタビュー 「日本人が黒人音楽を演奏すること」への逡巡と「アフロ民藝」

2025.12.19

#MUSIC

「名もない人が生きる中で生まれた音楽」への憧憬

―とはいえ、同時に民衆文化の中には古層のように前近代的なものが底流していたのも確かなわけですよね。昭和30年代頃までの日本映画の中では、普通の人が盛んに長唄やら詩吟を歌う様子が描き出されていたり。要は焦点をどこに合わせるか、どういうまなざしで自国文化を見つめるのか次第なのではないか、という気もします。柳宗悦が提唱した「民藝」という概念も、まさしくそういう視線によって立ち上がってきたものじゃないかと思うんです。

岡田:『konoma(木の間)』のタイトルには、木と木の間から見る視点のような意味合いがあると考えています。もっといえば、「アフロ民藝」という、非日本人作家であるシアスター・ゲイツによる外部的な視点があったからこそ、日本人である僕たちに見えてくるもの多くある。。

―今の話を聴いて、100年以上前に夏目漱石が「現代日本の開化」という講演で、「日本の現代の開化は外発的である」と述べているのを思い出しました。そういう「外来性」に反応しながら思考を推し進めていくというあり方それ自体もまた日本的なことなのかもしれないな、と。

岡田:わかります。僕たちはある時期からそうやって自分たちを対象化してきたのかな、と思ったりもしますね。ですが、明治以降に限らず、縄文以降の日本文化は外発的だと言える部分が多いですよね。そもそも外から来たものを内部で別のものへ変質させる力が強い民族とも言えると思います。

―その一方で、このアルバムが何より素晴らしいのは、おそらくそういう批評的な問題設定を超える形で、それこそ柳宗悦のいう「民藝」と共通するような、作家的な自我を超えた何かが刻まれているという点にあるんじゃないかと思うんです。岡田さんの中には、柳のいう「工人」的な、名もなき作者達のみが成し得る美しさへの憧れが強くあるのだろうな、と。

岡田:レコードを買い出した頃から、The BeatlesやThe Beach Boysみたいな巨大な存在に魅了される一方で、ボブ・ディランに成り損ねた名もないフォークシンガー達のアルバムをせっせと集めてきました。今よりもはるかに自主制作盤を出すのが難しい時代に、大きな労力を払ってレコードを作って、それを身近な人達に聴いてもらって、それが流れ流れて日本のレコ屋に辿り着いて……というあり方にどうしてもロマンを感じてしまうんですよね。

ある人は内的でパーソナルな事を歌っていたり、家族のヒストリーを裏ジャケに書いていたり、流行りに乗ったものだったり、何も情報が書いてなくてどこの誰かわからないレコードもあったりで。こうしたレコードには、フィクションはあっても嘘はないと思っています。結局、そのときどきの関心だとか、大事にしていることに対して本音で向き合った音楽に魅力を感じるんだと思うんです。

撮影協力:コネクシオン

岡田拓郎『konoma』

発売中(LP / Digital)
DRFT21 / ISCHF-006
Temporal Drift / ISC Hi-Fi Selects
1. Mahidere Birhan
2. Sunrise
3. Nefertite
4. Galaxy
5. November Owens Valley
6. Portrait of Yanagi
7. Love
8. Acute Angle Black Button

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS