2022年から3年にわたってTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉に密着したドキュメンタリー映画『みらいのうた』。本人はもちろん、音楽の道に進むきっかけになった故郷の先輩EROを通して、吉井和哉の人生観が映し出されたドキュメンタリーである。第38回東京国際映画祭でも上映された本作に関して、吉井和哉と監督のエリザベス宮地の対談が実現した。
※本記事はスペースシャワーTVのアーカイブサイト「DAX」のインタビュー企画「My Favorite X」のテキスト連動版としてお送りします。
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「もうロックという言葉自体が、死語を超えた使っちゃいけない言葉という感覚だった」(吉井)
―どういった経緯で撮影がスタートしたんですか?
宮地:事務所の代表・青木しんさんから依頼があったんです。元々すごく好きなバンドだったし、過去のTHE YELLOW MONKEYのドキュメンタリーが本当に素晴らしくて。日本でミュージシャンをあれだけ赤裸々に掘り下げたドキュメンタリーはそんなにないので、お話をいただいた時は、「僕に何ができるんだろう?」とは思いました。

1985年高知県生まれ。東京を拠点に活動。ドキュメンタリー手法を軸に、藤井⾵、back number、吉井和哉、anoなど様々なアーティストのドキュメンタリー映像やMusicVideoを監督。2020 年に監督した優⾥「ドライフラワー」MV は現在までに2億回再⽣を越える。また、2025年に監督したback number「ブルーアンバー」MVは、実在するドラァグクイーンを主役としたドキュメンタリーとフィクションが入り混じった内容が話題となる。ドキュメンタリー作品としては、俳優・東出昌⼤の狩猟⽣活に1年間密着したドキュメン タリー映画『WILL』を2024年に劇場公開。2⽇間で14万⼈を動員した藤井⾵の⽇産スタジアムライブに密着したドキュメント作品「Feelin’ Good (Documentary)」、SUPER EIGHT の安⽥章⼤がアイヌ⽂化を取材するテレビ番組「Wonder Culture Trip―FACT―」などを2024年に公開。また実在する独身プログラマーを主人公に起用し、現代の東京の独身生活をリアルに描いた短編映画『献呈』が2025年のモスクワ国際映画祭 短編コンペティション部門に日本人としてはじめてノミネートされた。
吉井:病気になる前から撮影は始まってたし、そもそも「吉井和哉のドキュメンタリーって面白いのかな?」と僕個人は思ってしまって。この映画にはEROや同級生、母親も出てくるけど、まずは自分の故郷、ライフワークである静岡を宮地さんに見てもらうところから始まりました。
―EROさんは普段どんな方なんですか?
宮地:吉井さんからは「自分が音楽の道に進むきっかけになった、とにかくカッコイイ人だから」と聞いてましたが、あの部屋、空間込みで無茶苦茶絵になる人だなと。
吉井:カメラが回り始めた頃のEROは、その後3年にわたった撮影が終わる頃のEROとは違いましたね。脳梗塞を発症したばかりで生活もままならなかったし、体もしんどい。「俺は吉井と違ってここにいるだけだから」というちょっとネガティブな要素もありました。ありがたいとは言ってくれていたけど、警戒というか、すごく繊細な人だから。そういう彼の心の鎧を解いていくのも、この映画の見どころなのかなと思います。


―ご自身ではこの映画を観てどんな印象でしたか?
吉井:僕もあの3年間で変わりましたし、自分のいろいろな部分を満遍なく映している感じがしました。僕が年をとったからかもしれないけれど、もうロックという言葉自体が恥ずかしい言葉で、死語を超えた使っちゃいけない言葉という感覚なんです、特に日本では。カメラが回り始めた時期は「もうロックって言葉を使うのはやめようよ」って思ってた。ライダースジャケットを着て、細いパンツ履いて喜んでるのはごく少数だよって。でも、撮影が終わってこの映画が上映されるタイミングになったときに、やっぱり自分たちはロックに影響された人間だし、その楽しみ方を知ってしまっている。

1966年10月8日、東京生まれ。1971年、5歳のとき事故で父が死去。小学校入学後に母の郷里である静岡に引っ越す。10代でベーシストとして加入したURGH POLICE解散後の1988年、22歳の頃にTHE YELLOW MONKEYを始動。翌1989年から現メンバーのラインナップとなり活動が本格化すると同時にボーカリストへ転向する。1992年のメジャーデビューを経て、1995年にリリースした5thアルバム『FOUR SEASONS』が初のオリコンチャート1位を獲得、ブレイクを果たす。2001年に活動休止(2004年に解散)。2003年よりYOSHII LOVINSON名義でソロ活動を開始し、2006年からは吉井和哉名義に移行。2016年1月8日、THE YELLOW MONKEY再集結の発表。2020年4月に予定されていた東京ドーム2daysが新型コロナウイルスの蔓延のため中止に。翌年のソロツアー中に喉の不具合によりツアーを中断、後に喉頭がんと診断される。治療を経て復活のステージの場に選ばれたのは2024年4月の東京ドーム公演となった。その後10thアルバム『Sparkle X』の発表とそれに伴うツアーも成功させた。現在もソロ、バンド両方での精力的な活動を展開している。
宮地:吉井さんの中学時代の友人たちも登場してますが、彼らが凄く魅力的で。吉井さんはもちろんですが、その周りの方々にも魅了されてたことを思い出しましたね。実は最初はアルバムの特典映像のイメージで撮影がスタートしたんですが、撮影が終わって編集も進んだ段階で、これは映画として公開しようという流れになりました。それは彼らに出会って、彼らを通して吉井さんの人柄や人生観を映せたから、映画にしようと思えた部分もあります。
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『みらいのうた』に込められた意味
―映画が『みらいのうた』というタイトルに決まったのはいつですか?
吉井:編集途中では「神様の贈り物」「GOD」「BEYOND」等などいろんなキーワードがあったんです。映画の主題歌も白紙状態でした。ただ、この撮影自体が“みらいのうた”のリリース時期に喉頭がんが発病してツアーが中止になるところから始まっているので、タイトルもエンディングも「みらいのうた」がいいんじゃないかとひらめいたんです。すぐにボスの青木や監督に相談したら、賛成してくれて。多分この映画を観た人は“みらいのうた”ありきで始まった企画だと思うかもしれないけど、全然違うんですよ。
宮地:映画の為に書き下ろした歌だと思う人もいると思うんですけど、全然その前に発表された曲なんですよね。
吉井:もはやEROの為の歌に聴こえるもんね。俺は未来を予知してこんな曲を作ったのかという(笑)。でも、もし最初からこの曲ありきで撮影が始まってたら、多分この内容にはなってないですよ。そういう作り方はしない監督なので。
宮地:ああ、そうかもしれないですね。
吉井:だから結果オーライというか、こんなに王道な映画になってるのは、最後にこの曲がハマったからなんだと思います。

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「タイムリミットがあるから生まれるものが沢山あることに気づいて、終わりが怖くなくなりました」(宮地)
―登場人物の死生観が垣間見られる作品ですが、お二人はこの映画を撮り終えて自分自身に変化はありましたか?
宮地:英題「Time Limit」は吉井さんがつけて下さったんですが、実は自分はタイムリミット=終わりというものが昔から嫌というか怖くて……「いつか別れなきゃいけないのに、人は何故出会うんだろう」とか考えてたんですよね。ただ、この作品と去年公開した『WILL』(東出昌大の狩猟生活を追ったドキュメンタリー)を通して、そもそもタイムリミットがなければ生きたいとも思わないだろうし、カメラを回して映像作品を作ろうとも思わないだろうし……タイムリミットがあるから生まれるものが沢山あることに気づいて、終わりが怖くなくなりましたね。
吉井:当たり前ですけど、「未来」を漢字で書くと「来るが来ていない、来るがない」ということですよね。その先というよりも、過去に戻りながら先に進んでいくみたいな、ちょっと不思議な時空空間について最近考えるようになって。前に進んでいるんだけど、後ろに戻っていることも未来というんじゃないかなとか、そんなことも最近思ってます。

―この映画は「神」が重要なキーワードですが、お二人は神を信じてます?
宮地:映画の中でも牧師さんが「神とは愛そのものだから」と語るシーンがありますけど、自分にとって神は「自然」にも置き換えられると思っていて、信じる信じないではなく、忘れちゃいけない繋がりとして認識しています。
吉井:もちろん信じています。宗教が原因で戦争も起きるし、いろんな考え方はあるけれども、念とか願いとか、そういう周波数みたいな、そういう力をこの病気によって明確に感じるようになりました。東京ドームのライブシーンが映画の中にありますけど、みんなが願ってくれた念が生じて、僕も成功したい、メンバーも成功したい、という気持ちから生まれるエネルギー、周波数、波動ーーそれを神様という場合もあると思うので、神様は絶対にいると信じています。
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「ロックは、情けない面も含めて表に出すからカッコイイ」(吉井)
―吉井さんに質問です。THE YELLOW MONKEYのドキュメンタリー映画でもかなり赤裸々にご自身やバンドについて語ってますが、これは意識的にしてるんですか? 言ってしまうと、日本のミュージシャンはイメージを大切にするあまり、なかなか素を出さないことも多いのかなと感じてまして。
吉井:もちろん自分にも触れて欲しくない部分はありますよ。僕はデビット・ボウイが大好きなんですが、彼について書かれた本や映画を見ると、いわゆる神格化されたパブリックイメージだけではなく、可愛い部分や人間臭い部分が見えて嬉しかったんですよね。自分もそうありたい、と思ってる部分はあります。ロックはそんな、情けない面も含めて表に出すからカッコイイんだと思うんですよね。もちろん、カッコイイ部分があっての情けなさでもあるんですけど、その対比が好きです。

―宮地監督は今まで多くのミュージシャンを撮影してきましたが、吉井さんと他の方の違いはありましたか?
宮地:今回の撮影に関しては、段取りを事務所経由じゃなく吉井さんと直接やってるんですよ。LINEで「この時間に静岡駅集合ね」みたいなノリで。
吉井:レンタカーも俺が自分で手配したもんね。
宮地:いわゆる完成前のチェック時にも、一切NGがなかったんですよ。これは初めての経験でした。やっぱりみなさん大なり小なり「あのシーンはカットしてください」という話になるので。吉井さんのドキュメンタリーに対するリスペクトを感じました。

―最後の質問です。ドキュメンタリーとはあくまで「監督の目」を通して撮影、編集された「作品」であるという一般論もありますが、このドキュメンタリー映画『みらいのうた』は「本当の姿」を映していると言えるでしょうか?
宮地:3年間で500時間ぐらいは撮影してるんですが、それを2時間20分に編集するにあたり、少なくともカッコよく見えるように取り繕ったりはしていないです。あくまで自分の目を通した吉井さん、EROさんの真実なので、それが唯一の真実ではないですが。今まで作った作品全てに言えることですが、監督の目線は消せないので。
吉井:「吉井和哉のドキュメンタリーって面白いのかな?」と思った話は先にしましたが、だからこそ「ここはもっとカッコよく」「ここはもっと悩んでるように見せよう」とかするわけがないですし、途中で方針転換もしてません。あくまでありのままに完走しないといけない絶対的なルールが自分の中にあったんです。映ってるのは僕の私生活だし、母親も出てきて顔そっくりだし、恥ずかしいことだらけです。同級生の家で履いてる靴下とかダサいし(笑)。反省点はいっぱいありますよ。だけど、だからこそ本当にありのままをお伝えしている100%純度の高いドキュメンタリーと自負しております。

『みらいのうた』
第38回東京国際映画祭公式出品
THE YELLOW MONKEYのボーカル、吉井和哉に密着したドキュメンタリー映画
【人生の7割は予告編で 残りの命 数えた時に本編が始まる】 唯一無二のロックミュージシャン吉井和哉。 病からの復活を果たした2024年東京ドームライブまでの過程、 恩人との40年ぶりのセッションを描く、密着期間3年。 限りある"いま"を生きるすべての人に贈る、希望のドキュメンタリー。
出演 吉井和哉、ERO
監督・撮影・編集:エリザベス宮地
ナレーション:小川未祐
プロデューサー:青木しん
共同プロデューサー:成瀬保則 仲安貴彦
製作:murmur TYMS PROJECT ハピネット・メディアマーケティング FM802 スペースシャワーTV ローソン
製作幹事・配給:murmur 配給協力:ティ・ジョイ
SNSアカウント
X・Instagram:@MIRAINOUTA_film
https://mirainouta-film.jp/