『紅白歌合戦』は、とても特異なメディアイベントだ。
年末には連日のように大型音楽特番が放送され、30日(火)には『第67回 輝く!日本レコード大賞』も控えている。だが、やはり『紅白』が持つ影響力は別格だ。『紅白』は、単なる大型音楽番組というよりも、「ヒット曲を通して1年のエンタメやポップカルチャーを振り返る」番組として受け入れられている。普段ポップカルチャーを追っていない人たちにも、音楽やエンタメの流行を知らしめるような構成と演出がなされている。そして、単なる「大みそかの恒例行事」というだけでなく、全世代を巻き込む「バズの発生装置」となっている。
いまやポップカルチャーは「推し」文化と密接に結びついている。それぞれのファンダムにとって、『紅白』は自らの応援するアーティストが「世間に見つかる」ための大事な場としても捉えられている。そして、近年ではすでに音楽シーンでは熱い支持を集めていたアーティストの楽曲が『紅白』を起点にさらなるロングヒットにつながる例は少なくない。
では、今年はどんなアーティストが『紅白』の出演をさらなる飛躍につなげるのか。そうした観点から注目の楽曲を見ていきたい。
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HANA、FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE……女性グループの躍進
まず筆頭に挙げられるのはHANAだろう。オーディションプロジェクト『No No Girls』から誕生した7人組ガールズグループ。今年4月のメジャーデビューから目覚ましい活躍を見せ、2025年最大のブレイクとなった。
その背景にあるのは、プロデューサーであるちゃんみながオーディション時から打ち出してきた強烈なメッセージだ。「ルッキズムにとらわれない多様な個性の肯定」や「実力主義のパフォーマンス」を掲げるそのコンセプトが、新しい時代の価値観として大きな共感を集めた。ちゃんみな自身も『紅白』に初出場。ガールズグループだけでなく、そのビジョンを示す女性プロデューサーがアーティストとしても活躍し、揃って『紅白』に初出場する。それは「女性がリーダーシップを担う時代になった日本」という意味でも2025年を象徴するトピックとも言える。
FRUITS ZIPPERとCANDY TUNEにも注目だ。アソビシステムによるアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.(カワイイラボ)」に所属する2組。こちらも女性プロデューサーが手掛けるアイドルグループだ。元アイドルの木村ミサがプロデュースを担当し、両グループともに、過去に別のグループでアイドル活動を行っていた「アイドル経験者」が在籍しており、再挑戦の場としての側面もある。
FRUITS ZIPPERの”わたしの一番かわいいところ”は2022年リリース、2023年にはTikTok発の現象が大きく注目を集めていたので『紅白』にはようやくの初出場と言える。妹分グループのCANDY TUNEは2024年リリースの”倍倍FIGHT!”が同じく今年TikTokからバイラルヒットした。
”倍倍FIGHT!”の作詞作曲は、パンクバンドWiennersのボーカル&ギターである玉屋2060%が手掛けている。楽曲制作にあたっては、メンバーとの長時間の打ち合わせを踏まえ、その等身大の姿を落とし込んで作られたという。FRUITS ZIPPERの”はちゃめちゃわちゃライフ!”なども手掛ける玉屋は、KAWAII LAB.プロジェクト全体のキーマンとも言えるクリエイターだ。パンクやハードコアをルーツに持つ彼の奇想天外でハイテンションな作家性。それが「自己肯定感」をキーワードとする2020年代アイドルシーンの潮流と化学反応を起こし、同世代の女性ファン層を拡大させたとも言える。『紅白』の大舞台は、その特異な作家性がお茶の間にどう響くかを目撃する場でもある。
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連続テレビ小説主題歌を担ったハンバート ハンバート、RADWIMPS
結成27年目となる夫婦デュオのハンバート ハンバートは”笑ったり転んだり”で初出場を果たす。同曲は2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の主題歌であり、『紅白』がテレビ初披露の場となる。これをきっかけに日本語のフォークやカントリーの叙情性を丁寧に歌ってきた彼らの温かみある音楽性に触れる人も多いだろう。
朝ドラと連動した演出が見られるのも『紅白』の特徴だ。昨年には2024年度前期連続テレビ小説『虎に翼』のスピンオフドラマ「紅白特別編」が繰り広げられ、米津玄師が主題歌”さよーならまたいつか!”を歌唱するというスペシャルなコラボが繰り広げられた。今年のハンバート ハンバートのスペシャルステージには『ばけばけ』の主人公・松野トキを演じる髙石あかり、トキの夫ヘブン役を演じるトミー・バストウが応援にかけつける。
トリビュートアルバム『Dear Jubilee -RADWIMPS TRIBUTE-』がヒットチャートを席巻し大きな話題を呼んだRADWIMPSのステージも見どころだ。彼らは「20周年スペシャルメドレー」として、2025年度前期NHK連続テレビ小説『あんぱん』の主題歌”賜物”と”正解”を披露する。”正解”は2018年にNHKの番組『RADWIMPS 18祭(フェス)』のために書き下ろされた楽曲だ。その後、この曲は中高生を中心に卒業ソングの新たな定番として定着。2024年には合唱バージョンや伴奏、譜面を収録したシングルCDもリリースされ、10代に彼らの支持を広める大きなきっかけとなった。
『紅白』では特別企画として連続テレビ小説『あんぱん』のショートドラマ「紅白特別編」ならびに、ドラマの出演者による歌のスペシャルステージも放送される。こちらも見逃せない。というのも、『あんぱん』には、作曲家・いせたくや役としてMrs. GREEN APPLEの大森元貴が出演していたからだ。
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今年際立った活躍をみせたミセスと米津に要注目
NHKは、『紅白歌合戦』の選考にあたって「今年の活躍」「世論の支持」「番組の企画・演出」という3つの要素を中心に総合的に判断したと発表している。
「今年の活躍」という点で言えば、まず名を挙げるべき存在がMrs. GREEN APPLEだろう。「オリコン年間ランキング 2025」「Billboard JAPAN 2025年 年間チャート」ではそれぞれで7冠を獲得。各種年間チャートを席巻した”ライラック”を筆頭に数々の楽曲をTOP10に送り込み、史上初の日本国内累計ストリーミング数100億回突破と、圧倒的な存在感を見せた。『紅白』では”GOOD DAY”を披露する。昨年に披露した”ライラック”と同じく、この曲も紅白後にロングヒットになっていくだろう。
そして最大の注目は2年連続の出場となる米津玄師だ。披露する『チェンソーマン レゼ篇』主題歌の”IRIS OUT”はBillboard JAPAN総合ソングチャート「JAPAN Hot 100」で9週連続1位を記録するなどヒットチャートを席巻、2025年下半期最大のヒットソングとなっている。米ビルボードグローバルチャート「Global 200」でも日本語曲として史上最高位の5位となるなど海外でもヒットしたこの曲を『紅白』で初パフォーマンス。見逃せない瞬間になりそうだ。
他にもback number、Vaundy、サカナクション、aespa、SixTONESなど幅広い面々が出場する。
放送100年の節目となる今年の『紅白』のテーマは「つなぐ、つながる、大みそか。」。エンタメもカルチャーも細分化し、それぞれの興味や関心領域がバラバラであることが大前提となった今の時代だからこそ、それらを「つなぐ」一年に一度のイベントとしての紅白に期待したい。