4人組バンド、Guibaが3作目となるアルバム『万祝』を完成させた。South Penguin、Helsinki Lambda Club、odol、Tocagoなど、これまでインディロックの文脈にいたメンバーが集まり、「日本語の歌ものポップス」を軸に活動を展開。2023年に『ギバ』、2024年に『こわれもの』、そして『万祝』と3年で3作をリリースし、シティポップや歌謡曲の影響を消化しつつ、インディ的なセンスも混ぜ合わせた、Guiba流のポップスを確立させた。
中心人物のアカツカはSouth Penguinとして活動し、Talking Headsを最大のインスピレーション源とする音楽性で、コアなリスナーからの指示を獲得してきた。Guibaでは「売れたい」「紅白に出たい」と話す一方で、「最近の音楽には興味がない」と一見ネガティブにも捉えられかねないことを口にしたりもする。South Penguinの結成から10年、Guibaの結成からは3年を経て、アカツカの音楽観はどのように変化してきたのか? 取り繕うことをしない生身の言葉に時々ヒヤリとしながらも、結果的にはアカツカなりの音楽の愛し方が透けて見える、ドキュメンタリーのような対話を楽しんでほしい。
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変わらない「紅白出場」という目標。売れるために今やるべきこと
ーGuibaは2022年にアカツカさんがSNSで「歌もののポップスをやりたい」と呼びかけたことがきっかけで始まったわけですが、ここまでをどう振り返りますか?
アカツカ:活動を続けてきた分、作品のクオリティはどんどん上がっていってる気はするんですけど、曲作りに関しては、ずっと同じように続けてるだけなんです。「今回は方向性をガラッと変えました」とか「今回こんなチャレンジをしてみました」みたいなことはないので、僕としてはそれよりネガティブな方に目がいってしまいますね。
ーネガティブな方というと?
アカツカ:もっと売れてもいいのになって。歌もので、ポップな曲を作ってますと言って売れないとなると、結構悲惨なので。

South Penguin、Helsinki Lambda Club、Group2、odol、Tocagoなどのバンドで活動するメンバーにより、2022年夏に結成。2023年3月24日、シングル「愛の二段階右折」をリリースし活動開始。歌を主軸としたバンドとして、精力的に活動している。2025年11月12日には、3rd album「万祝」をリリース。
ー1stアルバムが出たときの取材で、「ちゃんと売れたいし、紅白を目指したい」という話をしていましたが、その目標は今も変わっていない?
アカツカ:いまだに紅白を目指してるし、僕が考えてることは変わらず「売れたい」ということしかないので。でもやっていくうちに、自分がキャッチーだと思うメロディーを作ってるだけじゃダメなのはわかってきました。第三者の意見を聞くと、「アカツカくんはポップでキャッチーだと思ってるかもしれないけど、世の中の売れてる音楽とは違う。ちょっとプライドを削らないといけない部分もあるよ」みたいに言われることもあって。僕はいくらでも魂を売りたいと思ってるし、プライドを持ってるつもりはなかったけど、意外と切り離せないものがまだあるのかなと思ってます。

ー紅白という目標はまだ達成してないけど、年明けにはワンマンと初の台湾公演も決まっている。活動の規模感は確実に上がってると思うし、新作はGuibaの一つの到達点だと感じました。インディロックの文脈にいた人たちが手探りにポップスを目指していたファーストに比べて、セカンドではGuiba流のポップスの形を掴んで、新作では「これがGuibaのポップスです」と確立したような印象がありました。
アカツカ:ありがとうございます。同じことをやっていたとしても、研磨されて上手くなっていったのかなと思いますね。他のメンバーは今必要なもの、求められているものを意識して落とし込んでいる部分があるかもしれないですけど、僕はあまり方向性とか意識していなくて。単純に自分が好きなコードとメロディーを作り続けているだけなので、本当に音楽の話ができないんです。インタビューに1人で来るやつの言葉とは思えない返答で恐縮なんですけど、最近の音楽とかにも興味がなくて。
ーホントに?
アカツカ:本当に聴いてないです。こんなこと声を大にして言うことじゃないですけど(笑)。昔はいろんな音楽を聴いて、その時売れている曲を自分なりに研究したり、同世代のバンドが売れたら悔しい気持ちもあったんですけど、そういうことを全然考えなくなっちゃって。今は自分の好きな音楽だけ聴いてるし、好きなタイミングで作りたい曲を作ってるだけですね。

ーSouth Penguinのときとはメンタリティが全然違う?
アカツカ:South Penguinも初期はいろいろ考えてましたけど、後半はもう自分の好きな音楽だけをやってました。僕はTalking Headsが大好きなので、彼らから得たものを自分なりにやってただけですね。そんなにトレンドは追ってなかったかもしれない。ただアレンジはバンドメンバーみんなでやるので、みんなのエッセンスが加わることでTalking Headsとはまた別ものになっていたとは思います。
ー「売れるため」に自分がやるべきは、周りを研究することではなくて、自分が思ういいコードとメロディーを作ることに専念することだと。
アカツカ:そうですね。今売れてる音楽のことは他のメンバーの方が詳しいと思うから、テクスチャーとかアレンジに関してはメンバーに任せて、僕は僕の仕事をやればいいかなって。歌詞の話はできるんですけど、音楽性みたいな話は正直……僕は全然できないんですよね。
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バンドの優先事項は「人が喜んでくれる」こと
ー新しいアルバムに関しても、特に方向性やテーマがあったわけではない?
アカツカ:そうですね。もちろん話し合うんですけど、そういうものは僕にとってあんまり重要じゃないというか……。日本人のリスナーはほとんどメロディーしか聴いてないと思っていたけど、セカンドを出した後ぐらいにメンバーから「歌詞も相当重要っぽいよ」みたいなことを言われて。だから今回、歌詞を頑張ったアルバムではあるんです。全部の曲に別々の主人公がいて、それぞれを物語として作るというコンセプトがあったので、歌詞についてはセカンドよりブラッシュアップできてると思いますね。
ーもともとは歌詞にも興味がなかった?
アカツカ:全然重要視してなかったです。South Penguinの歌詞とか、マジで意味わかんないですし。語感とか、言いたい言葉があるから、それを無理やり入れて作っていて、歌詞は二の次、三の次でした。South Penguinはそれでよくても、Guibaは歌ものと言ってるので。日本語で歌うんだったら、愛だの恋だの、もっとわかりやすく歌詞を書こうというのはファーストの頃から考えてました。

ーもともと歌謡曲やJ-POPも好きで聴いてたわけですよね?
アカツカ:歌謡曲やJ-POPも僕は全く歌詞を気にしてなくて。今は自分が歌詞を書いてるので注目してもらえるともちろん嬉しいですけど、何を歌ってるかさっぱりわからない状態で聴いてたんですよ。変な思想が入ってたりとか、嫌いな言葉遣いだとか、そういうネガティブな部分が強くなかったら全然いいかなと思ってます。人の音楽はあまり気にならないですね。さっきから「音楽に興味がない」ということを言い続けてますけど(笑)。
ーちなみにTalking Headsにハマったのはどんな理由だったんですか?
アカツカ:それこそ歌詞ではなく、メロディーとか歌い方、バンドアンサンブルがめちゃくちゃフィジカルに訴えかけるような音楽で、直感的に「かっこいい!」と思っただけです。僕は過去にもバンド経験があるおかげで、過去の自分が喜ぶような音楽をやらなきゃいけないというしがらみはもうないんですよね。今は人が喜んでくれることがやりたいので、アドバイスをもらったら積極的に取り入れてやってる感じ。10代や20歳そこそこのときに、自分が30歳近くになってこういう音楽をやってるよって言ったらガッカリするかもしれないですけど、でも過去の自分の何かを諦めてGuibaをやってるわけではないんです。

ーSouth PenguinとGuibaとでは、音楽への向き合い方が違うだけ。バンドをやることは自己実現が目的のようなイメージもあるけど、必ずしもそうじゃない。アカツカさんの場合はそれをSouth Penguinで消化できたからこそ今のGuibaがあって、以前とは違う気持ちで、楽しんでバンドをやれてる。
アカツカ:ここまでの話だと、ただ自分がないやつで、人の意見ばっかり取り入れて音楽をやってるって聞こえるかもしれないですけど、それはそれで、今バンドを楽しむためのスパイスになっていて。バンドは別に、自分の頭の中の音を具現化するためのツールじゃないんだなって、Guibaをやって初めてわかってきたんです。最初からGuibaみたいな音楽をやってたら、もっといろんなものに憤ってたと思うんですよね。「なんでこれが評価されないんだ!」「なんでもっと売れないんだ!」って、もっともっと思ってたと思う。今はそういう焦りはなくて、まだ叶えられていない「紅白出場」という夢のためにもっと頑張っていこうじゃないかって、前向きに思える。そうやって考えながらバンドをすることがすごく楽しいんですよね。まあ、手っ取り早く売れたらそれが一番いいですけど(笑)。
ーなかなかそうはいかないですよね。
アカツカ:そんなうまい話はないと思うので、いい曲を作り続けるしかないかなとは思ってますね。

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3rdアルバムはエッセイ集。モキュメンタリーとして紡がれる言葉の源
ー途中でも言ってくれたように、歌詞は曲ごとに主人公がいて、心情やストーリーが描かれている。その作家性も今回確立されたように思います。
アカツカ:ファーストにもセカンドにも主人公を設定してストーリーを作る曲はあったんですけど、今回5曲ぐらい作ったあたりで全部そういう曲になっていることに気づいて。それならコンセプトにした方が作りやすいかなと思ったんです。自分の訴えたいことや思想がめちゃくちゃあったとき、ただそれを羅列するだけだと陳腐な感じになってわかりづらいものになってしまう。どこの誰だか知らない人を妄想して書く方が筆が進みやすいんです。最初の頃は自分の思ってることをちょっとしたためたりもしたんですけど、多分今後もこの作り方がずっと続いていくんじゃないかな。

ーまずタイトルを決めて、そこから広げていくパターンが多いそうですね。
アカツカ:基本そうですね。まずメロディーとコード進行を作って、歌詞は完全に後からで。韻を踏んだりしてる方が聴き心地がいいかな、みたいなところから作ることが多いので、口に出しやすさとかを意識して作っています。なので、ストーリーとは言っても設定が細かい物語ではなく、主人公を自分の中に降ろして、「こういう人だったらこうするだろうな」というのを妄想して作ることが多いです。
ー簡潔だけど味わい深くて、エッセイを読んでるような気分にもなるんですよね。
アカツカ:ああ、結構エッセイ集だと思います。僕の実体験ではないけど、オムニバス的な感じというか、ショートショート的な感じなのかなという気がしますね。
ー実際に本を読むことが歌詞の影響源になってたりしますか?
アカツカ:いや、僕は活字NGの人なので、本は全く読まなくて。マンガもほとんど読まないし、ドラマも映画も舞台も観ないし。だから人生で物語に全然触れてきてないんです。最近『こち亀』にはまってアニメを全話見たんですけど、その影響は今回の歌詞には出てないし(笑)。人の歌詞も全く参考にしてないですね。
ーじゃあインスピレーション源はどこから?
アカツカ:それでいうと、ドキュメンタリーが大好きなんですよ。『家、ついて行ってイイですか?』とか『ザ・ノンフィクション』とか。あと、最近はテレビ局が過去の名作ドキュメンタリーをYouTubeに上げてて、そういうのもよく見ます。「俺がこの人の立場だったらどう思うだろう?」みたいなことを見ながらよく考えるので、そこからの影響はすごくありますね。
今回のアルバムでも、例えば“万祝”だったら、結婚式当日を迎えて、過去の恋人のことが忘れられない女性の気持ちを歌ってるんですけど、別にモデルがいるわけじゃないし、もちろん僕の実体験でもない。ドキュメンタリーを見ることによっていろんなシチュエーションを妄想しているので、そういうプロセスが曲作りに反映されているんだと思います。
ーなるほど。3分間のポップスでも主人公が置かれた状況や心情が臨場感を持って伝わるのは、そこが背景になってるんですね。
アカツカ:あと僕はスポーツにおける選手のドラマとかもすごく好きで。ボクシングがめちゃくちゃ好きなんですけど、ボクシングもドキュメンタリーなんですよ。どういうバックグラウンドを抱えてて、なぜ今このリング上で戦っているのか、そういう情報を知ることによってより熱中できる。作り物じゃない生のものがすごく好きなんですよね。そこは歌詞においてもかなり影響があると思います。僕のドキュメンタリーではないというだけで、架空のドキュメンタリー、モキュメンタリーみたいなことを書いてるのかなと、今思いました。
