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墨田区ゆかりのディレクター、青木彬 / 清宮陵一 / 三田大介も参加
―徹底した伴走支援が「公募プロジェクト」のベースになっているんですね。芸術祭でも市民参加の機会が多くなると思いますが、今回いわば「外」から来た神野さんは、いまの墨田の地域性をどう感じていますか?
神野:インサイドで活動してきた人たちはよくご存知だと思いますが、僕から見ても墨田はすごくおもしろい場所だなと。ただ、いろんな団体と話をしたりスペースを見に行ったりして感じるのは、実は地域内で横のつながりが意外と広がってないということです。「芸術祭で何か一緒にやりませんか?」と声をかけたところもたくさんあるんですが、自分たちがやってきたことを変えたくない人が少なくない。
もちろんそういったスタンスを否定するつもりは一切ありません。が、せっかく芸術祭をやるからには、新たなトライができたらいいと考えているので、いろんな人たちと対話しながら準備を進めているところです。
僕はある意味でよそ者なので、4名のディレクター陣(※)は墨田と深い関わりを持っている方々に就いてもらいました。ディレクターがそれぞれ立てている企画は、パッチワークみたいに並んでいるわけじゃなくて、意見を出し合うことで相互に混ざり合っていく。インサイドとアウトサイドを有機的にかけ合わせることで、何らかの化学変化を期待したいですね。
※神野がエグゼクティブディレクターを務め、ディレクターは荻原のほか、青木彬、清宮陵一、三田大介の3名が務める。

1989年生まれ。現在は東京、京都を拠点に活動。首都大学東京インダストリアルアートコース卒業。アートを「よりよく生きるための術」と捉え、アーティストや企業、自治体と協働して様々なアートプロジェクトを企画している。主な活動に『SENSE ISLAND/LAND|感覚の島と感覚の地 2024』ゲストキュレーター(横須賀市,2024)、『三島満願芸術祭2024』ゲストキュレーター(三島市,2024)、まちを学びの場に見立てる『ファンタジア!ファンタジア!─生き方がかたちになったまち─』ディレクター(墨田区,2018~)などがある。『幻肢痛日記』(河出書房新社)著。

1974年東東京生まれ。21世紀初日にアナログ専門レーベルvinylsoyuzをスタート。坂本龍一氏のcommmonsに参画後、音楽プロダクション合同会社ヴァイナルソユーズを立ち上げ、様々なアーティストのサポートや特別なヴェニューでのパフォーマンスをプロデュース。『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS』『ELECTRONICOS FANTASTICOS!』を主宰。2014年設立のNPO法人トッピングイーストでは、参加型のアートプログラムを東東京で実践。2021年より『隅田川怒涛』シリーズを展開中。『すみゆめ』の名付け親でもあり「すみゆめ踊行列」の企画制作も担当。

1972年東京都墨田区生まれ。東京工業大学(現東京科学大学)大学院人間環境システム専攻修了。建設コンサルタント会社、都市デザイン事務所勤務を経て独立。2013年に共同で立ち上げた地域のクリエイターのグループ「すみだクリエイターズクラブ」のメンバーと共に、地元墨田区を拠点に福祉・産業・文化などの分野で地域コミュニティをつなぐコーディネーターとして活動している。主な活動に、障害者福祉事業所工賃UPプロジェクト「すみのわ」(2014年〜)、墨田区発の福祉アートプロジェクト「みんな北斎」(2016年〜)、地域の個店の課題解決をサポートする「墨田区商業コーディネーター」(2017年〜)、『すみだ3M運動40周年祭』(2024年)副実行委員長など。
―これまでつながれていなかった人や場所もできる範囲で開いてもらい、芸術祭のネットワークを少しでも拡張できればと。
荻原:墨田の人たちは自分たちの仕事やまちにすごくプライドを持っています。そこは最大限にリスペクトしながら、地域と向き合っているつもりです。むしろ地域の人たちも「芸術祭って何をするんだろう?」と興味を持ってくださってると思うので、いろんな壁をほぐしながらご一緒したいと考えています。いま芸術祭では「地域コーディネーター」というポジションを設けて、地域の人たちと結びつく仕組みをつくっているところです。幅広いテーマのラーニングや、まち歩きツアーなどを絡めていく必要があると考えています。
神野:千葉から来た僕からすれば、長く続く個性的な個人商店が多いし、みんなそういう店を積極的に利用していて、やっぱり墨田区はすごい。同時に区の課題としてあるのは、たくさんマンションが建って増加した新しい住民の方たちが、まだあまり地元の魅力に気づいていないこと。芸術祭がそういった部分をつなぐ機会にもなれば嬉しいですね。

神野:あるいは、僕は地元の千葉と東京都の移動で錦糸町を通りますけど、途中下車して軽く居酒屋で飲んで帰るのは、駅前のわかりやすいチェーン店だったりします。でも墨田のことを知っていくと、その先にもっといろんな面白いお店がたくさんある。京成線も千葉から通っているし、千葉と墨田は実はかなり接点がある。そういう近郊の人たちも芸術祭をきっかけに墨田を訪れ、まちの魅力に気づいてくれて、墨田での途中下車が起きていくよう期待しています。