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『すみだ五彩の芸術祭』初開催。墨田区とアートの深い関係をディレクター陣が解説

2025.12.17

『すみだ五彩の芸術祭』

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「総合的芸術祭」と銘打ったアートフェスティバル『すみだ五彩の芸術祭』が、2026年9月から墨田区主催で開催される。「すべての人が真ん中」というキャッチコピーを掲げ、墨田区各所で展開される新たな地域芸術祭だ。

タイトルの「五彩」とは、「墨に五彩あり」という水墨画の言い回しから取られたもの。一見黒に見える墨も、よく見るとさまざまな彩りがある。それにちなんで、「すみだ」という地域や人の魅力を表すものとして名付けられた。コンセプトの「発気揚々」(はっきようよう)は相撲の「はっきよい」というかけ声の元になった言葉で、墨田区の活力や人々のつながりを表現。芸術祭を通して、シビックプライドの醸成や地域資源の活用を目的に据えている。

もちろん、墨田には分厚いアート実践の蓄積がある。墨田区に本社を置くアサヒビールのメセナ活動や、若いアーティストたちによるオルタナティブなスペース運営、2016年から毎年開催されている『隅田川 森羅万象 墨に夢』(通称:『すみゆめ』)など、いくつものレイヤーで文化芸術活動が行われてきた。とくに上記アサヒのプロジェクトや『すみゆめ』を推進してきたのが本芸術祭のディレクターの一人、荻原康子である。

それらを踏まえて実施されるのが、『すみだ五彩の芸術祭〈公募プロジェクト〉』。墨田の地域資源にアプローチする多彩な表現を募集する。対象を幅広く取っているため、実験的なプロジェクトにもチャレンジすることができそうだ。

芸術祭全体のエグゼクティブディレクターは、千葉大学准教授で千葉を拠点に数々のアートプロジェクトを手掛けてきた神野真吾。では、今回のアートと地域の関わり方や、墨田の地域特性はどのようなものなのだろうか。神野と荻原を迎え、『すみだ五彩の芸術祭』を掘り下げた。

墨田区には元々アートの地盤があった

―墨田区主催の総合的芸術祭として2026年に誕生する『すみだ五彩の芸術祭』ですが、どのような経緯で開催する運びとなったのでしょう?

神野:まず前提の話をすると、法律の点では2001年に施行された「文化芸術振興基本法」で芸術祭の支援が明記されました。ただしこの頃は文化芸術の捉え方がまだ古典的なものに縛られていたように思います。2000年に新潟県で始まった『大地の芸術祭』やその後に続いた『瀬戸内国際芸術祭』の成功などに伴い、文化芸術の捉え方、特に芸術(アート)が社会の中で果たしうる役割についての考え方に変化が起こっていきます。

2017年に施行された「文化芸術基本法」で、文化芸術の範囲及び期待される領域が、単に文化芸術の専門領域においてだけでなく、まちづくりや観光、福祉、教育、産業の分野とも関わることにより、社会に新しい価値を創造することが期待されるようになっています。その流れで日本各地に芸術祭が立ち上がります。それまでアートはよそ行きの高級な趣味のようなポジションでしたが、地域芸術祭によって自分たちの生活の延長線上で作品を観るという経験が広がりました。

また、墨田区では長年アサヒビールがメセナ活動として文化芸術を支えてきました。それが「墨田の核にはアートがある」という空気感をつくってきたし、その流れが『すみゆめ』に引き継がれていくわけです。その成果の一つが、いわゆる文化芸術に携わる人たち以外も巻き込んでいること。区長をはじめ墨田区の職員たちも『すみゆめ』は墨田の財産だという認識がすごく強かった。そこで「墨田区主催で総合的な芸術祭をやりましょう」という話が、いろいろなところから出てきたんですね。

だから、何もないところにいきなり芸術祭を持ってきたわけじゃない。墨田はもともとアートの地盤があるところなんです。それから僕に声をかけてもらいました。

神野真吾(じんの しんご)
エグゼクティブディレクター。東京藝術大学大学院美術研究科修了(現代芸術論)。山梨県立美術館学芸員を経て2006年より千葉大学教育学部。アートの社会的価値についての理論的および実践的研究に取り組む。千葉市文化芸術振興会議委員長、千葉アートネットワーク・プロジェクト(WiCAN)代表。

―芸術祭は行政がトップダウンで持ってきたのではなく、すでにさまざまなアート実践がある地域から自然発生的に立ち上がったものだと。荻原さんは長年墨田のアートプロジェクトに携わってきたんですよね。

荻原:気づけば25年も関わってます(笑)。もともと私は企業メセナ協議会にいて、当時、ロビーコンサートをやっていたアサヒビールさんに「現代美術も扱ってはどうですか?」と提案させてもらったんです。同社のメセナ担当の方が「せっかくなら墨田でやる意味を持ちたい」とおっしゃるので、墨田の地域資源と結びつくことをやりましょうという話になって。そこで伝統工芸とアートがコラボした福田美蘭の展覧会『たくみなたくらみ』(2000年)を墨田区役所1階のギャラリーで開催しました。

一度の試みのはずが好評で、それから毎年「アサヒ・アート・コラボレーション」と称して継続します。町工場、おみくじ、ビール、森、そして隅田川が度々テーマになって。なので、2009年からは「すみだ川アートプロジェクト」とシリーズ名を変えました。その年に迎えたアートコレクティブ「wah(ワウ)」は、「隅田川でこんなことがあったらおもしろい」という声を地域の人たちから集めて、「川の上でゴルフをする」「湯舟」など5つのアイデアを実現しました。

そのあとアサヒビールさんがメセナの方針を検討することになって、バトンが墨田区に渡ります。同時期「すみだ北斎美術館」の開設を控えていたこともあり、地域の方々に賛同いただけるような活動をしたいとの意向で、「すみだ川アートプロジェクト」の要素を引き継ぎつつ「葛飾北斎」も掘り下げようと。こうして2016年から、「隅田川」と「北斎」という2大地域資源をテーマに『すみゆめ』がスタートします。当初は2020年の東京五輪までを一つの区切りと考えていましたが、継続する方向性の中で「総合的芸術祭」というワードが出てきて『すみだ五彩の芸術祭』構想に至ったんです。

荻原康子(おぎわら やすこ)ディレクター
複数のアーティスト・イン・レジデンスに関わった後、INAX文化推進部、キュレーター・オフィスに所属。2001年、企業メセナ協議会入局。顕彰事業と機関誌等を担当し、延べ500件ほどのメセナ(芸術文化支援)活動を取材する。アサヒビールのメセナ活動のコーディネート、「東日本大震災 文化・芸術による復興支援ファンド」の設立等にも携わる。2011年に事務局長就任。2017年、墨田区文化振興財団で常務理事を一期務めた後、2019年よりアートプロジェクト「隅田川 森羅万象 墨に夢」統括ディレクター。2020年、上田市交流文化芸術センター(サントミューゼ)総合プロデューサー、2025年より館長を兼務する。

―なるほど、「アサヒ・アート・コラボレーション」と「すみだ川アートプロジェクト」にはじまり、「すみだ北斎美術館」の開設にあわせた『すみゆめ』を経て、2026年の『すみだ五彩の芸術祭が準備されているんですね。ちなみに、「総合的芸術祭」というのはあまり聞かない言葉ですが、どんな意味なのでしょう?

神野:明確な定義はありませんが、たとえば先ほど話した文化芸術基本法では、「文化芸術」の範囲が大まかにしか決められていません。美術とか音楽とか。2017年の基本法では、食文化など新たに範囲が広げられたことに加え、先述のように、社会の様々なシステムとも関わりながら文化芸術を「総合的」に推進、発展させていこうという意味だと考えています。

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