2025年の秋ドラマが最終回の放送を終えた。オリジナル脚本作も光り、豊作と言われた今期のドラマについて、NiEWでレビューを担当するライター陣にそれぞれの魅力を語り合ってもらった。
『べらぼう』『ばけばけ』『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が話題に上った前半に引き続き、後半となる本記事では『ちょっとだけエスパー』『ザ・ロイヤルファミリー』『フェイクマミー』『シナントロープ』についての話題をお届けする。
※座談会は2025年11月4日(火)に開催されました。また、本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
野木亜紀子脚本の魅力が発揮された『ちょっとだけエスパー』
—前半の記事で、皆さんに今期のお気に入りドラマベスト5を挙げて頂きました。今回は、まず、藤原さんが2位にあげた『ちょっとだけエスパー』についてお聞かせください。

藤原:引き込まれずにいられないと思ったのが、文太さん(大泉洋)が、人の心を読めることが分かったときに、横断歩道でスキップするんですね。心に芽生えた小さな優越感とか、誰かのささやかな幸せを知ることができる楽しみみたいなものが、このスキップ一つに凝縮されていてました。でも、その次の場面では、社会中に散らばっている絶望の声みたいなのも聞き取ってしまって、愕然とする。そのひとつながりの場面が、社会そのものも描きつつ、文太さんの気持ちを想像させるすごい場面だなと思いまして、それから一気に夢中になりました。
古澤:キャラクターの面白さとかセリフの面白さとか、野木亜紀子さん脚本の魅力が出ていますよね。あとは、野木さんが、すごく大泉さんに合わせたセリフを書いていると感じます。野木さん脚本のセリフって、いつもは一つ一つが短い印象があるんですけど、本作は、しっかり大泉さんに語らせる、大泉さんが語るからこそ説得力があるセリフを書かれている印象があります。あと、野木さんは、社会的なメッセージを込めた作品が得意という評価を受けがちですが、私個人としては、野木さんの作品は、周りからもらった題材をどう料理するかとか、その題材にどう社会性を持たせるかが上手な脚本家さんだなと思っていて。今回は、野木さんがやりたかったSFというところからスタートしていそうなので、この設定で何を描くかを楽しみに見ていました。
明日菜子:やっぱり最初は、もうメガネの岡田将生さん、すごくありがとうと思いました(笑)岡田さん演じる兆から宮﨑あおいさん演じる四季に向けてデカい矢印が向いてるんじゃないかなと勝手に期待してます(笑)。文太が、ヒーローになるという設定でありながら、ちょっとだけ会社の金を横領してて、社会を斜めに見ているというのが、野木さんらしい今っぽさですよね。
INDEX
大人が夢を追う物語『ザ・ロイヤルファミリー』の革新性
—続いて、古澤さんが1位にあげた『ザ・ロイヤルファミリー』についてはいかがでしょうか。
古澤:枠組は日曜劇場っぽい王道感がありつつ、ここ数年の「大人が夢を追う物語」というトレンドの流れで見ると、そこにビジネス要素が入っていることで新鮮さを感じます。北海道の開放的な画も真新しさがあります。あと、各話の目的が明確で、どこに向かっていくかが分かりやすいのに、最終的には「馬」という、人がコントロールできない存在に人の思いを託すしかないというところに、どうしても夢の熱さを感じてしまって……。思わず泣いているので、これはもう1位に選ぶしかないなと思いました。トレンドを追いながらオリジナル要素もあるという点で、時代にフィットした作品になっていたと思います。
明日菜子:言ってしまえば、レースの結果は途中で何となく分かるじゃないですか。それでも、ラスト15分で「頑張れー!」みたいな気持ちに持っていけるのは、TBSドラマの作りの巧さが光ってますよね。あと、妻夫木さんがいつまでも「ウチらの妻夫木くん」なのが本当にすごい。前のクールは朝ドラ『あんぱん』で八木さんみたいなシリアスな役もやられてますけど、みんなが感情移入できる王道の主人公を、年齢を重ねても演じられる人は限られていると思います。
藤原:私も最後の15分ぐらい大体、泣きながら見ているんですけど、馬の迫力でもありますよね。もちろん俳優さんもすごいんですけど、馬が走ってるだけで物語を感じてしまいます。さらに、佐藤浩市さんとかベテランの俳優さんたちがとても生き生きと演じていらっしゃるのがとても素敵で、ワクワクしながら見ていました。
INDEX
子持ち女性と独身女性の連帯を描いた『フェイクマミー』の挑戦
—では次に、明日菜子さんが2位にあげていただいた『フェイクマミー』について、お願いします。
明日菜子:TBSのシナリオコンクール受賞作品を連ドラ化したという、異例のドラマなんですよね。プライム帯で連ドラ化すると決めたのはビビっとくるものがあったんだなと。本作の何がすごいって、2025年の主要ドラマが扱っていたテーマの多くを、この一作で扱っているんですね。つまり、それは今を反映しているということでもあって。
今年、『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』という、様々な家庭環境の人たちが家事という一つの共通項で連帯したり、共闘したりというドラマがあったんですが、『フェイクマミー』は『対岸の家事』のいわばエキシビジョンマッチのように感じます。子持ち女性と独身女性の連帯って、現実でも本当に難しいと思うんですよ。どれだけ仲が良くても、結婚して、特にお子さんが生まれたら、ライフステージがガラッと変わって、連絡を取らなくなることもある中で、『フェイクマミー』は子持ち女性と独身女性のストーリーをこんなに軽やかにできるんだとまず驚かされました。
あと、東大卒のお母さんで替え玉受験するっていう、やっちゃいけないことをやってるんですけど、極端なことを言うと、今の社会って、他人とスクラム組んで連帯してやっていかないと乗り越えられない社会なのかなと思ったりもするんですよね。そうした自分の人生では体験できないことを辿れるのは、フィクションの醍醐味だと思いました。展開も速くて、視聴者の予想の二歩先三歩先を行くので、読めないんですよね。その速さは、NHKのドラマ『3000万』(2024年)なども彷彿とさせられました。
藤原:一人で抱えきれないものを分け合う、女性2人による社会実験みたいなことをやっている話でありながら、恋愛あり、友情あり、ママ友バトルもありで、バランスがすごく良いですね。
古澤:明日菜子さんが仰った通り、「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」という連ドラ化を前提としたコンクールの2023年の大賞受賞作品で、受賞した時のインタビュー記事も読んでいたのですが、そこで紹介されていた企画内容が今、放送されているものとほぼ同じなんですよね。既に、違う立場の女性の連帯、ニセママがバレてはならないというエンタメ性の掛け算といったところが含まれていて、これはコンクールで評価されるよなと思いました。ただ、勿体ないと思うのが、中盤まで、メインの2人以外の人物が2人を追い詰める役割しかしてなくて。田中みな実さんの役がどう動くかで、テーマの見え方が変わるのではないかと思います。
明日菜子:でも、笠松将さんには、一切の悪を背負って、コテンパンにやられてほしい(笑)。