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蓮沼執太が向き合った、音と音色と音楽のグラデーション
―ではそんな「ムジカな」蓮沼さん(笑)、さまざまな角度からアプローチしていく創作になりそうですが、今はどんなことを構想されていますか?
蓮沼:要素がものすごく多い作品なんですよ。でも僕、そういった創作活動が普段から多い方なので、個人的な感覚で言うと、いつも通りと言ったらいつも通り(笑)。「こういうシーンだからこういうテイストの音楽が必要です」という劇伴の作り方も当然のようにありますが、それは当たり前で、今はむしろ「そうじゃない要素にどれだけ尽力できるか」、みたいなことをすごく頑張っています。
―今回は生演奏もあります。
蓮沼:はい。バンド4人で生演奏する音楽(蓮沼、イトケン、三浦千明、宮坂遼太郎)に加えて、栗栖さんがおっしゃったような、サインミュージックの概念に呼応する表現もありますし、音楽と音の境目、たとえば物を叩いて生まれるリズム、それがどうやって音楽になっていくのか? みたいなことを、観客の前でつくり上げていくことも構想しています。

蓮沼:たとえば蒸気というモチーフ一つをとってみても、ユーフォニアムから蒸気が出ていれば、それはやっぱり「音色」になる。じゃあその「音色」は、音楽なのか音なのか? とか、そうしたグラデーションをかなり丁寧に、レイヤーを細かく考えていきたい。ただこれって、普通の音楽のつくり方だと難しいんですね。だから今回は、五線譜にとらわれないクリエーションになっています。
―創作スタイルから、いわゆる「普通の音楽」の概念から外れているんですね。
蓮沼:稽古場での皆さんの声など、実は全く音楽的ではないところに音楽のヒントが詰まっているので、かなり敏感に耳をすましていて。よくアーティストが「誰も聴いたことがない音楽をつくりたい」というような表現をしますが、サインミュージックに出会ったら「そもそも、そんな発想が新しいのか?」と思ってしまったんですね。つまり「音になっていなくても、それも音楽かもしれない」なんてことを考え始めているんです。新しい創作の扉をトントンとノックしてくれるような、刺激的な現場です。