INDEX
蓮沼執太フィルがそのキャリアにもたらしたもの
―2013年の『時が奏でる』やフィルで蓮沼さんの活動に出会った人も多いんじゃないでしょうか。
蓮沼:そう思います。『時が奏でる』は僕が主導して作ったというより、エンジニアでフィルのメンバーの葛西敏彦さんが「そろそろまとめたほうがいいんじゃない?」って言ってくれたんですよ。僕自身、そんなに自分の意志で突き進んできたというより、周りが言ってくれるんだったらっていうことが性格としても大きくて。だからフィルも自然とライブで育んでいった感じです。
佐々木:フィルを続けていくつもりは最初はなかったんじゃない?
蓮沼:そうですね。新しいチャレンジだなってくらい。やっぱり佐々木さんみたいに外から「面白いんじゃない?」って提案してくれる人がいるっていうのは、すごく大きいんです。そうやってチャレンジをしていくなかで出会った仲間から学ぶことも多いし、その連鎖が活動になっていく。だからフィルは完全に佐々木さんだからなせるチャンスオペレーションです。
佐々木:フィルって、もともとラップトップを使って1人で音楽を作っていた蓮沼君が、ある種の共同体的なものに身を置いて創作するという挑戦でもあったわけじゃない?
蓮沼:そうですね。僕自身、自分が思う通りにしたいというタイプじゃないし、ゴールとか目的があって生きてるわけじゃない感覚が強いので。
佐々木:力強いリーダー感は出したくないってことだよね。でもこれだけの人数の音楽家たちと一緒にやる、しかも自分より年上の人もいれば、もともとの活動領域が全然違う人もいたり、アンサンブル全体の中では個別の人間関係もあるだろうし、これは大変だろうなって思う。それを長く維持してきているのは、やっぱり並大抵のことではないですよね。
―蓮沼さんのキャリアを見ていくときに、「個」と「集団」という創作手法の違いは重要な要素ですよね。あるいは「家」で自ら録音するというのと、バンドやフィルでスタジオなど「外」で録音するということも各々の作品性に大きく関わっているように思います。そう捉えたときに、『時が奏でる』であり、フィルは活動の大きな転換点だったんじゃないでしょうか?
蓮沼:フィルはおっしゃるとおり、人とやるっていう集合と離散を繰り返すもので。フィルは集合知で曲を作るとか、集団性をもとにした挑戦のきっかけになったし、自分と他者というものをクリエーション面で考えていく発想も生まれました。
間違いなく新しいアウトプットになっていきましたね。フィルでの経験を別の美術の作品に転換するであったり、音を通して関係性を築くという視点が生まれたのは大きかったです。
