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蓮沼執太が「時代の申し子」たる所以。21世紀の音楽の停滞、その後を佐々木敦と語る

2025.11.19

#MUSIC

日本のカルチャーの新たな拡張、雑誌文化の低迷、震災

―ソロ名義の『POP OOGA』、蓮沼執太フィルの『時が奏でる』には約5年のインターバルがあります。その間、『wannapunch!』(2010年)や『CC OO』(2012年)といったコンセプトアルバム、EPを複数リリースし、2011年にはのちにフィルバージョンも発表されたシングル『Earphone & Headphone in my Head』をリリースしています。蓮沼さんのキャリアにおいてどのような時期でしたか?

蓮沼:どんどん外と接続していく感覚ですね。「イベントも作品だ!」ぐらいの感じでやっていました。どこかで音楽を音盤とかライブに落とし込むのに飽きてるというか、もっとエクスパンデッドしたいという思いはあった。時代的には本当にジャンルがわけわかんない状態で接続されている感じもありましたよね。あの感じって何だったんですかね。

佐々木:確かにね。2000年代後半は僕が演劇にハマって、蓮沼君が快快(ファイファイ)とやるとか、三浦康嗣(□□□)が劇団ままごとの『わが星』の音楽を作る流れもありましたよね。

音楽と他のジャンルとの関係性、ネットワークが生まれていく感じがすごく面白かったし、盛り上がった。その中で、やっぱり蓮沼君も本当にいろんな人とつながっていって、今に至ったところはあるよね。

蓮沼:間違いなくそうです。

蓮沼執太『シャンファイ/快快「Y時のはなし」O.S.T』(2010年)収録曲

佐々木:2001年に音楽のピークがあったって勝手に僕は言ってるけど、その10年後にカルチャーのピークがあったと思うんです。すごくローカルで、マイナーなカルチャーのミックスのピークが2010年ぐらいにあった。

その少し前からCDが売れなくなり、イベントも人が入らなくなり、『Snoozer』(2011年6月号で廃刊)や『STUDIO VOICE』(2009年9月号で休刊)がなくなり、雑誌文化も2000年代の後半ぐらいにひとつの限界を迎えて、いろんなことが起きましたね。

蓮沼:僕は結構鍛えられてるというか、全然潤ってないところでずっとやってるんで、かなりタフにはなってる自覚があるんです。

佐々木:なかなか重いね、その発言(笑)。重いし、頼もしい。

蓮沼:意外と大切なことだと思います。

佐々木:タフにならないと生きていけないよね。

蓮沼:そうですね。それって自分のやりたいことを実現していく純度を高めていくには大切なことで。体力的にもそうだし、メンタル的にも折れないことは僕の活動においては大きいです。

佐々木:そういう音楽や雑誌文化の状況の変化の中で、2011年3月の東日本大震災で断絶が起きたという。3.11は原発をはじめ、テクノロジーに対する不信を生むきっかけでもあったわけですし。

―震災は日本特有の転換点でもありながら、やや俯瞰してみると、ストリーミングが世界的に浸透する直前の時期で、これまでのテクノロジーの発展を背景にしてきた音楽文化がどこへ向かうのか、可能性を模索していたような感覚もあります。

佐々木:2000年代以降に激増したコンピュータで音楽を作る人たちの一部に、ラップトップを閉じて耳を澄まそう、みたいな感覚も生まれたような気がしますね。

蓮沼君は震災以前からフィールドレコーディングをやっていましたけど、主にエレクトロニックなミュージシャンが、アコースティックや生音的なもの、環境音に目を向ける動きが無意識レベルも含め、あったと思う。

蓮沼:自分の活動自体としては、この時期は表現をどう拡張していくかってことに意識的になっていましたね。もちろん、震災は怖かったし、何もできなかった思いがずっとありますが。

当時は快快をはじめ劇団やダンスと一緒にやるとか、その少しあとには古川日出男さんとのコラボレーションを経験しましたけど、それはジャンルをミックスしていたってこと以上の意味とか価値があったと思います。音楽以外のジャンルの世界に体系的に参加させてもらったことに意味があるなって。

空間現代、蓮沼執太、古川日出男によるコラボレーション音源。『空間現代 Remixes』(2015年)収録

―今の多彩な活動につながる土壌が形成された期間だったと。

蓮沼:そうですね。音楽の活動と並行して、例えば展示を作ったりっていう活動も同時にありましたし。

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