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なぜ曽我部恵一の言葉は、シンプルなのに情感豊かに響くのか。小説家・桜井鈴茂が語る

2025.11.26

#MUSIC

「ただ生活の実感と自分の見えてることだけを歌っていていいのか」

桜井:ちょっと脱線しますけど、若いミュージシャンから「歌詞を書くのに行き詰まってるんです」と相談されることがあるんですよ。でね、行き詰まるのは自分のことをひたすら書こうとするからだと思うんです。

だから僕は「三人称で書いてみたら?」って言うんですよ。そしたらみんなハッとするのね。自分のことを歌わないといけないと思い込んでるけど、そんなことないんですよ。

―曽我部さんの場合、時期や作品によって私小説的な部分が増えることがありますよね。バランスが変わるというか。

桜井:ああ、ありますね。

バカばっかり バカばっかり

バカやろうがまた言葉に火をつけ燃やしてる

ぼくもきみもあのこもあいつも

歌手も客も店員もオーナーも

親も恋人も先生も親友も

妻も夫も子供も

バカバカバカバカバカバカバカばっかり

曽我部恵一“バカばっかり”
曽我部恵一“バカばっかり”を聴く

―先ほど話に出た『超越的漫画』のころの曽我部さんは、私小説の部分が増えた時期だったのかもしれないですね。

桜井:そうかもしれない。それでいて同じ時期に出た“街の冬”は男性の一人称が出てこないですもんね。“街の冬”という曲は生活保護を受けられなかった北海道の姉妹が餓死した事件を基にしていて、まさに社会の隅っこで生きている声の小さな人たちのことを歌っているんです。

プロの表現者ってなんだかんだ特権的なところにいるわけで、その人たちがただ生活の実感と自分の見えてることだけを歌っていていいのかなとは思うんですよ。世界には声なき人とか声の小さな人がいて、そういう人たちの声をすくい取るというのは、表現者のひとつの責務なんじゃないかなと僕は思う。

こういう表現をするとちょっと口幅たいけど、政治とは違う形で世の中にコミットしていく責務があるんじゃないかなと思ってるんです。

この街の冬はきびしいから

どこの家も暖房であったかです

だけどうちはあたしがこんなだから

お金もなくて冷たいまま

お姉ちゃんは何度も区役所へ

生活保護のお願いに

だけど区役所のおじさんが言うには

「まあ、こういうことはそう簡単にいかんのです。

上にもちゃんと伝えておりますので」

とっても仲のいい姉妹です

とっても仲のいい姉妹です

曽我部恵一BAND“街の冬”
曽我部恵一BAND“街の冬”を聴く

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