INDEX
佐藤二朗のイメージを逆手に取ったような「挑発的で不気味」な役
物語は、酔った勢いで暴行を働いて警察に連行された中年男・スズキタゴサクが「霊感が働く」とうそぶいて、秋葉原のビルでの爆弾の爆発を予言したことから始まる。それは日本を震撼させる連続爆発事件へと発展し、当然スズキは被疑者として取調べを受けるのだが、あろうことかクイズのように次の爆弾の場所を出題するようなそぶりを見せていく。
そのスズキを演じるのが佐藤二朗。多くの人にとっての佐藤二朗は、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズや映画『新解釈・三國志』(2020年)などの福田雄一監督作品での、アドリブを入れこむキャラクターの印象が強いだろう。だが、今回の『爆弾』ではそれらの佐藤二朗のコミカルな印象を覆す、いやそのイメージを逆手に取ったような「挑発的で不気味なキャラクター」となっている。
たとえば、スズキは初めこそ慇懃無礼で自虐的な「(暴行を働いた被害者へ払う)10万は逆立ちしたって出てきません」「なんの役にもタゴサクです」といった語り方をしているのだが、やがて「でも、爆発したって別によくないですか?」という人を人とも思わないような発言へと発展していく。
顔中のシワが全て曲がりくねったような笑顔と、敬語を使いながらも人を食ったような態度それぞれは、これまでの「コミカルな役の時の佐藤二朗らしさ」の延長線上にあるものだが、今回は醜悪とさえいえる発言や笑い声のおかげで、良い意味で生理的な嫌悪感まで呼び起こすことに成功している。精神を逆撫でされてもなお、それでも「霊感」とやらを根拠に爆弾の場所を探さなければいけない劇中の捜査官たちのジレンマは、観る側もまた胃が痛くなってくるほどに伝わるだろう。
