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「築地本願寺には時間や記憶を包み込むような静けさがある」
そして、アンビエント / 環境音楽のパイオニアである尾島由郎が登壇したトーク&リスニング企画「テープで聴く、日本の環境音楽」は、本イベント屈指の豊潤な体験となった。1980年代から建築空間での音環境デザインを手がけ、近年その過去作品が海外で再評価されている尾島は、自身が環境音楽を再生するのに最もふさわしいと考えるメディア、カセットテープで日本の環境音楽の名曲を再生し、それらが生まれた背景やシーンでの位置付けを語る。
この日、尾島が持参したカセット再生機は、1980年発売のSONY製ポータブルカセットデッキ「TC-D5M」。プログラム冒頭では、環境音楽の原点の一つであるブライアン・イーノの『Ambient 1: Music for Airports』(1978年)A面曲“1/1”をカセットで流し、イーノが複数のテープループを同時再生しながらこの楽曲を構成したことを紹介。アナログ時代ならではの「物理的な反復」が生み出す時間の流れを体感できるこの曲をあえてテープで聴く意義を示した。
トークの中で尾島は、「カセットテープのヒスノイズは音楽に自然に溶け込み、レコードのような埃や傷由来のノイズがないので、音楽の一部として聴こえる」と語り、環境音楽とカセットの親和性の高さを指摘した。さらに、「カセットは曲頭出しや途中再生が難しく、最初から最後まで通して聴くことをある意味では“強いる”メディア。音の流れに身を委ねる連続的な体験は、環境音楽にとてもマッチする。そして何よりカセットには、どこへでも音楽を持ち運べる手軽さがある。私たちもその自由に刺激を受けて様々な実験を行いました。不便だけれど、その不便さが時間と空間の感覚を拡張してくれる──私はカセットテープを非常に創造的なメディアだと思っています」と熱弁する。
YMOや細野晴臣ら日本の名盤カセット音源を次々とかけ、最後は自身のスパイラル環境音楽カセットシリーズから『DAYLIGHT STARS』(1987年)収録曲“Glass Chattering”を再生した尾島は、深い感慨を滲ませながらこう語った。
「今、こうして築地本願寺という場所で、数10年前の録音をOMAのスピーカーで聴けることに胸がいっぱいです。僕らが作ってきた音楽が時を超えてまた流れ出していく──まるで時間そのものがアナログテープのように少し揺れながらも回り続けているように感じます。今日お話の中で紹介した仲間たちの何人かは既にこの世にいません。でも音を流していると、みんなが祭壇の後ろからそっと降りてきている気さえします。築地本願寺には時間や記憶を包み込むような静けさがあり、この空間で音楽を聴くことは貴重な体験となりました」