堀込泰行のソロプロジェクト・馬の骨がファーストアルバム『馬の骨』から20周年を記念したベストアルバム『BEST OF UMA NO HONE 2005-2025』を発表した。キリンジとしての活動の一方で、自身のやりたい音楽性をよりダイレクトに反映し、遊び心を持って取り組んだ馬の骨は泰行にとって非常に重要なプロジェクトであり、この名義でリリースしたのはアルバム2枚ではあるものの、そこから厳選したベストを作ることは、20年越しの念願だったという。また、16年ぶりの新曲となる“Let’s get crazy”や、名曲“燃え殻”における作為性のなさ、必要最低限の音数でただただいい曲を作ろうとする泰行の姿勢からは、時代に左右されることのない普遍性の種が確かに感じられる。2000年代のキリンジの活動の中で抱えていたジレンマも振り返りながら、馬の骨の意義について語ってもらった。
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97年兄弟バンド「キリンジ」のVo/Gtとしてデビュー。2005年キリンジの在籍時にソロプロジェクト「馬の骨」を始動。2013年4月12日同バンドを脱退し、以後ソロアーティストとして活動を開始。ソロ名義の最新作は2025年8月にリリースした配信シングル「夏の罪人」。2025年、馬の骨デビュー20周年を迎え、16年振りの新曲を含むベストアルバム「BEST OF UMA NO HONE 2005-2025」をリリース。希代のメロディメーカーとして業界内外からの信頼も厚くポップなロックンロールから深みのあるバラードまで、その甘い歌声は聴くものを魅了し続けている。
ソロ活動ができないならもう辞めようかな。強い決意の産物だった「馬の骨」
ー2005年に馬の骨のファーストアルバムをリリースするに至った経緯を振り返っていただけますか?
堀込:キリンジは2003年に東芝EMIでアルバムを1枚、翌年2004年にシングルを何枚か作った後にコロムビアに移籍したんですけど、僕的には自分のソロプロジェクトをやってみたくて、移籍後の第一弾が馬の骨で、ほぼ同じ時期に第二弾として、兄(堀込高樹)の『Home Ground』(2005年)が出て。その後にキリンジで出したのが『DODECAGON』(2006年)で、ソロはそれに至る前の音楽的な遊びの場所というか、いろんなことを試してみる場所だったんです。
当時のキリンジはレコーディングは曲ごとにスタジオミュージシャンを、適材適所な感じでお願いしていたんですね。でもソロではレコーディングでもある程度メンバーを揃えて、よりバンド感のあるサウンドを作りたいなと思っていました。
ー「ソロをやりたい」と思ったのはどんな理由だったのでしょうか? 2000年に“エイリアンズ”が出て、その後はキリンジにとってどんな時期でしたか?
堀込:“エイリアンズ”もそうだし、僕の曲だったら“スウィートソウル”、兄の曲だったら“Drifter”とか、いわゆる「いい曲」みたいなものが求められる感じはあったというか、流れ的にそうなってるのは感じていました。ただ自分たちとしては、キリンジの持ち味はいわゆる「いい曲」と言われるものだけじゃない、面白みのある曲も大事だと思っていたので、この先ずっとキリンジとして、いわゆる「いい曲」みたいなものを作らなきゃいけないのかな? みたいな気分はあったかもしれないですね。
ーそこはちょっとしたジレンマがあったわけですね。
堀込:“エイリアンズ”も“スウィートソウル”も“Drifter”も、正直な気持ちから作られた音楽であるのは確かで、だけどそれらの楽曲の後に作為的にその路線を保ちながら活動していくのはちょっときついかもなって。兄はどう思っていたかわからないけど、僕はそういうふうに思っていて。
あとキリンジって、明確な目的地を定めて、そこに向かうというやり方ではなかったんです。例えば、キリンジという馬車があって、僕と兄が2頭の馬だったとして、でも馬を操る人はいない。その2頭の馬はそれぞれの方向を目指していて、必ずしも同じ方向を向いてはいないんだけど、でもそうやってキリンジという馬車が移動していくという形なんです。

ー結果的に行き着いた場所が、その時々のアルバムになっている。
堀込:そういうことです。なので、そこが結構難しいグループだなと感じていて、もうちょっと自分で方向性をコントロールしたい意思があって、ソロをやってみたいということを兄やスタッフに相談して。その当時は「ここでやらないと、もう嫌だな」っていう感じではありましたね。このタイミングでソロができないんだったら、もうちょっと辞めようかな、ぐらいの。
ーあの時点でキリンジを辞めていた可能性もあった?
堀込:それくらいの気持ちではありましたね。要するに「1人で自由に作ってみたかった」ということで、できあがったサウンド自体は全然緩いんですけど、「このタイミングでソロをやりたい」という気持ちはすごく強いものがあったと思います。