INDEX
失うことの多い人生で、取り零したものの痕跡が人生になる
―そういう部分も、楽曲を通して伝わってくる気がします。リュベンスは、ミュージックビデオのコメント欄には海外の方の書き込みも多いじゃないですか。海を越えて自分たちの音楽が届いている理由について感じることはありますか?
悦:音楽的な視点で見れば、海外の音楽から影響を受けているけど、メロディラインはいたって日本のポップス的っていう面白さを受け取ってくれているのかもしれないな、とは思うんですけど。ただ、言葉も違えば育った国も違う人たちが、日本のリスナーの人たちと同じような感想を抱いているのは不思議だなと自分でも思っていて。国によって文化や流行の変遷も絶対に違うじゃないですか。「1990年代っぽい」というひと言に込められている内容も、国によって違うと思う。それなのに、みんなが「懐かしい」と言ってくれる曲があったりするのは……表面的な要素を感じ取っているわけではないんだろうな、とは思います。
悦:もっと普遍的なものを感じ取ってくれているのかもしれない。懐かしさや郷愁を呼び起こすものが、言葉や音像に寄らない部分に表れているのかもしれないし、そこはセレナの声に寄るところも大きいのかもしれないし。自分たちで絶対的にこうと言い切れる理由はないけど、でも、「何かが伝わってるんだな」と感じる度に、自分はすごくいい表現の変換ができているのかもしれないと思えますね。
―歌詞については、どんなことを歌にしようという思いが根本にありますか?
悦:そもそも、自分はあまり人に共感したいとも思っていないし、共感されたいという欲求もあまりなくて。むしろ、最初から共感を求めてしまうと見失うものがあるような気がするんですよね。共感は、結果的に生まれればいいなと思うくらいで。ただ、ひとつ言えるのは、自分は前に進むことの楽しさや、変化が起こることの面白さを感じながら、同時に、本当はいろんなものを失うことが怖いし、寂しい気持ちもあって。そういう気持ちの全部を、歌にするくらい美しいものと感じているのかもしれないです。……言葉にするのは難しいんですけどね。こういうことって決めてやっていることでもないし、決めたくないので。
―そうですよね。
悦:平たく言えば、言いたいことを言っているだけですね。そこに変なブランディングもマーケティングもないです。

―でもおっしゃるように、“天使さん”にしても、“ハートの尾ひれ”にしても、物事は前に進んでいるんだけど、その根底に儚さや喪失感がある、という感じはしますね。
悦:大きかったのは、バンドを始めて1年経たないくらいの頃に、祖母が亡くなったんです。それが「自分は『失うこと』や『変わること』に凄く大きなインプレッションを受けるんだ」と自覚した体験で。歌詞の主語はリスナーに委ねることが多いけど、書いているときは、そういう喪失の体験を思い浮かべているような気もします。そういう体験に答えを出したいとも思わないんですけど、誰もそこに目を瞑ってほしくはない、という気持ちはあるんです。人生は失うことの方がいっぱいあるし、取り零していくものもたくさんあると思う。でも、取り零したものの痕跡が人生になるのかもしれない……そう思うと、こういう表現を人の耳に触れさせるのも、悪くないのかなと思うんですよね。
―セレナさんは、悦さんが書く歌詞はどんなふうに受け止めて歌っていますか?
セレナ:私の中で、悦の書く歌詞は「過去と今と未来が切り離されていない」という感覚があって。全部が繋がっているから、喪失を歌っている曲でも前向きになれる感覚があるし、逆に、前向きになることがしんどい状況で聴いても、時間が流れている感覚はある。それに「懐かしさを感じる」と言っても、「過去ばかり見て今を生きていない」という意味での懐古主義ではないと思うし。そういう感覚が、どの曲の歌詞にも共通して表れているものなのかなと思います。だからこそ歌っているときも、あまり重い感情にはならないよう、スッと入ってくることを意識していて。あと、全部を日本語で書いているのは「届けよう」という意志があることの表れだと思うんですよね。
悦:自分が言い足りなかったことを全部言ってくれた(笑)。確かに精神的な時間軸というか、1曲の中で特定の時間を超えるような書き方をしたいとは思っていますね。

 
           
           
           
           
           
           
       
           
       
           
       
           
       
           
       
           
       
           
       
           
       
           
           
           
           
           
           
           
          