2025年11月に、三谷幸喜が脚本 / 演出を手掛ける歌舞伎、通称「三谷かぶき」の最新作『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン)幕を閉めるな』が歌舞伎座で上演される。
映画や舞台はもちろんのこと、大河ドラマ『新選組!』(2004年)、『真田丸』(2016年)、『鎌倉殿の13人』(2022年)の印象も強く現在放映中のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』も話題の三谷だが、歌舞伎ではどんな三谷節が感じられるのだろうか。都内の稽古場に集まった主演の松本幸四郎、中村獅童、片岡愛之助、坂東彌十郎、中村鴈治郎らと一緒に、話を聞いた。
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三谷幸喜の歌舞伎最新作は『ショウ・マスト・ゴー・オン』が原作
三谷が手掛ける歌舞伎は、6年ぶり2作目。前作の三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』は、みなもと太郎の人気歴史ギャグ漫画を原作にしたロードムービーのような内容で、当時大きな話題に。笑いあり涙あり、歌舞伎役者たちの至芸とあいまって、記憶に残る芝居となった。
そして今回は、三谷が主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」に書き下ろした伝説的なコメディー『ショウ・マスト・ゴー・オン 幕を降ろすな』(1991年初演)を原作としている。あらすじは、シェイクスピア『マクベス』を上演する劇場の裏側で、どんなことが起ころうとも「The Show Must Go On(一度開いた幕は何があっても、途中で降ろしてはいけない)」の精神で格闘する裏方たちの姿を描く、傑作「バックステージもの」だ。
三谷が脚本を手掛ける現在放映中のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ)も劇場を舞台にしつつ、若者たちの夢、挫折、恋と笑いを描くバックステージ青春ものだが、こちらの歌舞伎も、随所に芝居愛をたっぷりまぶした群像劇。ドラマを夢中で観ている方にもぜひオススメしたい1本、「初めての歌舞伎」にもぴったりな作品だ。三谷にドラマも含めバックステージものの魅力について尋ねた。
三谷:今でこそ映像で仕事もしていますが、僕自身、(芯は)舞台人だと思っています。舞台で頑張っている裏方たちへのリスペクトが常にありますし、そういった人たちの存在を世間の人たちに知ってもらいたいという気持ちがある。例えば上演を取り仕切る舞台監督、歌舞伎でいう「狂言作者」と呼ばれる人たちは、世間の脚光を浴びない立場ですから。
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松本幸四郎や中村獅童。縁のある役者たちとの想い出
とはいえ、なにしろもとは現代劇。三谷が「ほぼ原型をとどめていません。執筆には苦労した」と語るだけあって、歌舞伎化にあたって、さまざまな点でアダプテーションが必要となったとか。舞台は江戸時代、伊勢の芝居小屋「蓬莱座」。狂言作者の花桐冬五郎(松本幸四郎)や座元の藤川半蔵(片岡愛之助)が、人形浄瑠璃で人気となった『義経千本桜』を、山本小平次(中村獅童)が演じる歌舞伎として上演しようとするが、その上演をめぐって大騒動が巻き起こる……という設定に書き直されている。
三谷:歌舞伎座始まって以来、割れんばかりの拍手と、ガラスが割れるぐらいの笑いが巻き起こるコメディをやりたい。僕がやるべきことは、笑いに特化した歌舞伎……これって、そもそも歌舞伎なのかな?
幸四郎:ど真ん中の歌舞伎です! 芝居を愛している人たちばかりが登場する芝居ですから、僕自身、幸せを感じながら勤めたいですね。三谷さんは100%信頼している方ですから出来は役者次第。緊張はありますが、傑作にしたいです。
今回の公演には松本幸四郎をはじめ、過去に舞台やドラマに出演するなど、三谷作品と縁ある歌舞伎役者が揃う。
三谷:僕が知っている歌舞伎役者の皆さんは、笑いが得意な方ばかり。こんなに笑いのセンスにあふれたコメディアンばかりの集団もありません。幸四郎さんと初めてお会いしたのは、(幸四郎の息子である)市川染五郎さんぐらいの年頃の時なので、今回お2人とご一緒するのが感慨深くて。あと幸四郎さんと(中村)獅童さんの仲がすごく良くて、稽古してるとすぐふざけて脱線していくんですよ!(笑) お2人が率先していい雰囲気にしてくださっています。


三谷:(片岡)愛之助さんは映像でも舞台でもお仕事していますが、いつもは『立派な人を演じさせたい』という思いがあるんですね。でも今回は頼りない、いい加減なキャラクターを演じてもらいます。坂東彌十郎さんとはここ数年さまざまな作品でご一緒しています。今回の歌舞伎化に関しては、いろいろな相談に乗っていただきました。

一人ひとりとの思い出を笑顔でコメントしたが、中村鴈治郎に関しては初顔合わせとなる。
三谷:なんでこんな面白い生き物を今まで知らなかったのか、悔やまれてなりません。もっと早く出会っていたかった。
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三谷幸喜が手掛ける、珠玉の喜劇がここに
てんやわんや、あらゆるハプニングがドミノ倒しのように巻き起こる、爆笑につぐ爆笑。それを舞台のプロたちが、どうにか成立させようと奮闘する人間ドラマ……。三谷が「昨日通してみたら、あっという間だった。体感10分ぐらいじゃないですか?」と役者陣に聞くと、「いやいや、さすがに10分じゃ……」「でも1時間ぐらいの感覚でしたね」とのお答え。秋の夜長は、笑って笑ってホロリとできて、「芝居ってやっぱりいいなあ」という気持ちになる珠玉の喜劇で、心をぬくぬくに温めるのはいかがだろう。

作品解説
伊勢の芝居小屋「蓬莱座」では、狂言作者の花桐冬五郎(松本幸四郎)や座元の藤川半蔵(片岡愛之助)が、人形浄瑠璃で人気となった『義経千本桜』を、山本小平次(中村獅童)が演じる歌舞伎として上演しようとしている。その上演をめぐって大騒動が巻き起こり……。2006年3月『決闘!高田馬場』に続き、2019年6月、三谷幸喜の作 / 演出の作品が初めて「三谷かぶき」として歌舞伎座に登場。その第1弾『月光露針路日本 風雲児たち』は大きな話題となり、その後、三谷自身の監督によりシネマ歌舞伎としても上映された。この度、6年の時を経て、待望の「三谷かぶき」の新作が歌舞伎座に登場。題材となるのは、1991年に自身の主宰する劇団「東京サンシャインボーイズ」に書き下ろし上演された伝説のコメディ『ショウ・マスト・ゴー・オン 幕を降ろすな』。とある劇場の裏側を描いた「バックステージもの」の傑作として名高い、舞台愛に満ちた群像劇で、再演の度に話題を呼んだ人気作を、新作歌舞伎として上演する。延享五(1748)年に伊勢で初めて歌舞伎として上演された『義経千本桜』。その上演中に個性豊かな登場人物たちが舞台袖と舞台上で錯綜する、三谷幸喜ならではの笑いを交えた予測不可能な展開が繰り広げられる!
松竹創業百三十周年「吉例顔見世大歌舞伎」

会場:歌舞伎座(東京都中央区銀座4-12-15)
日程:2025年11月2日(日)〜26日(水) *休演10日・18日(火)
◉昼の部(11時開演)
『御摂勧進帳』『道行雪故郷 新口村』『鳥獣戯画絵巻』『曽我綉俠御所染 御所五郎蔵』
◉夜の部(17時開演)
『當年祝春駒』『歌舞伎絶対続魂 幕を閉めるな』