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クィアが抱える自己受容の苦難
シェーンブルンは本作で自身のパーソナルな体験を具体的に示すというよりは、ティーンエイジャーの悪夢的な記憶として立ちあげている。クィアの自己受容はひとそれぞれであることは間違いないのだが、本作を見る限りではきわめて苦難に満ちたものであり、やがてパニックに至るオーウェンの姿はあまりに痛ましい。これは1990年代に終わったことではけっしてなく、トランスジェンダーやノンバイナリーの人びとへの差別や攻撃が激化する現代において、よりシリアスなものとして受け止められるだろう。
それでも、『ピンク・オペーク』でイザベルとタラが力を合わせて「ミスター・憂鬱」に立ち向かっていったように、『テレビの中に入りたい』にはメランコリーをベースとした共感が宿っている。「ミスター・憂鬱」はクィアの子どもが抱く疎外感を象徴したものとも言えるし、もっと広く捉えて、感受性が豊かなティーンエイジャーが覚える孤独感を表したものとも言える。『テレビの中に入りたい』は非常にパーソナルなクィア映画であると同時に、古くから描かれ続けてきたサバービアの憂鬱を通して、観る者の感覚的な共鳴を呼び覚ます作品なのだ。

『テレビの中に入りたい』

原題:『I saw the TV glow』
9月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
監督&脚本:ジェーン・シェーンブルン(『We’re All Going to the World’s Fair(原題)』)
キャスト:ジャスティス・スミス(『名探偵ピカチュウ』)、ジャック・ヘヴン(『ダウンサイズ』)、ヘレナ・ハワード、リンジー・ジョーダン(スネイルメイル)
共同製作:Fruit Tree(エマ・ストーン制作会社、『リアル・ペイン〜心の旅〜』)
尺:100分 レーティング: PG12
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