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NEWS EVENT SPECIAL SERIES

『シュバックフェスティバル』体験記。ガザの現実と日常の物語を描くアラブ系芸術祭

2025.9.16

#ART

生きるに値する身体

『シュバックフェスティバル』は、コミュニティによって、あるいはコミュニティに向けて行われるシンプルな意味での「祭り」であるのみならず、現在主流的な語りに対して抵抗し、自分たちで「物語」をつくっていくためのフェスティバルだ。

演劇作品のように文字通りの意味での「物語」をつくるのみならず、彼らは、別の形でもそれをつくっている。その一端が垣間見えるのが、フェスティバルのオープニングで開催された『The People’s Catwalk』と名付けられたファッションショーだった。残念ながら筆者は見逃してしまったものの、ここでは、SWANA地域のインディペンデントなファッションブランドによる、ポップアップショップがオープン。普段、アートとはやや距離がある人々もフェスティバルを訪れた。

『The People’s Catwalk』舞台写真

ここで行われるのは、SWANAの人々の持つ優れたファッションセンスだけではない。アリアは、このファッションショーを、一つのイベントという意味を大きく超えて、一つの身体論として捉えているようだ。

アリア:メディアでは、私たちの身体が、あたかも「使い捨て可能なもの」であるように語られています。どうすれば、こうした非人間化された語りに対抗できるのか? どうすれば、私たち、SWANA系の人々の身体が「生きるに値する」ものであり、「他の身体と同様に美しく、神聖な存在である」と主張できるのか? そこで、一般的なファッションショーのように、特定の身体をランウェイに乗せるのではなく、アラブ系をはじめ、あらゆる体型、年齢、能力の「モデル」たちを集めました。ステージに立ったSWANAの身体を通じて、私たちの尊厳はかけがえのないものであることを伝えていきたいんです。

『The People’s Catwalk』舞台写真

これまでのアートフェスティバルは、華やかな雰囲気で外部の人々を呼び込んだり、地域の観光産業と結びついたり、最先端の作品を見せることといった役割を担いながら多くの人々を魅了してきた。けれども、コロナ禍以降、各国で文化予算が削減されるなか、あらためてフェスティバルの意味が厳しく問われている。

『シュバックフェスティバル』は、イギリスの白人のみならず、わたしのようなアジア人にも開かれている。けれども、彼らの眼差しは、目の前にある具体的なアラブ系コミュニティへと向けられていて、フェスティバルはこのコミュニティを活性化するために行われる。個々のプログラムの豊かさのみならず、フェスティバルを行う意味を思考し、その可能性を切り開いている『シュバックフェスティバル』の姿は、ロンドンや中東から遠く離れた日本のアートシーンにとっても、参考になるものではないかと思う。

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