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『シュバックフェスティバル』の成り立ち
さて、ほかの演目の紹介を紹介していく前に、簡単に、『シュバックフェスティバル』の成り立ちについて説明していこう。
2011年、翌年に迫ったロンドン五輪に向けてさまざまな文化イベントが開催されており、『シュバックフェスティバル』もそのひとつとして、ロンドン市のサポートを受けて開始された。当初から、SWANA(South West Asia and North Africa)と呼ばれる中東・北アフリカ地域の文化を対象としてきたこのフェスティバルでは、これまで数多くのアーティストを紹介してきた。また、2011年といえば、アラブの春が起こり、中東地域で民主化の動きが広がっていた時代。激変する状況の中で、アラブ地域における芸術性の高さを伝えていくことや、アラブ地域における表現の自由を守っていくといった柱の上に生まれたのがこの『シュバックフェスティバル』であった。
前芸術監督であるエックハルト・ティーマン(Eckhard Thiemann)は、前者の芸術性の高さの伝達に注力し、ハイアートをメインとする演目を招聘していた。しかし、2021年のフェスティバルから芸術監督に就任したアリア・アルゾウグビはそのコンセプトを少しずつ変えていく。今回のフェスティバルでも、フランスの『アヴィニョン演劇祭』にも招聘されたパレスチナの劇団、カシャービ劇場(Khashabi Theatre)による大規模な演目『MILK مِلْك』を、客席数1000席あまりの大劇場に招聘しているように、芸術路線を一部受け継ぎつつも、彼女は、フェスティバルセンターとして用意された「Shubbak Corner」を拠点としながら、コミュニティに向けてZINEをつくる少人数ワークショップなども積極的に展開するようになっていった。

彼女にとってフェスティバルを実行する大きなモチベーションとなるのが、コミュニティとの対話であるという。
アリア:アラブやSWANAといった多様で異質性に富むコミュニティのニーズはさまざまであり、変化も多い。『シュバックフェスティバル』は、そうした多様性を誠実に受けとめ、コミュニティを構成するさまざまな人々との継続的な対話を通じて活動を行っています。
そして現在、アラブ系コミュニティの人々にとって、特に喫緊のトピックとなっているのが、2023年からイスラエルによって大規模な破壊行為が行われているガザの問題である。