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藤井風『Prema』論 世界を見据えた本作は、J-POPと洋楽の関係を更新する

2025.9.22

#MUSIC

本作は、日本のポップミュージックのあり方を更新するか

これまでの藤井風はそのJ-POPのルールの中で、(R&Bの素養を軸に据え)むしろ日本的な要素を積極的に楽曲に組み込むことを試みてきたが、今作ではそのアプローチから距離を取り、日本人だからこそ可能な本物の「洋楽」を作るという逆説的な試みを実践しているのではないか。

その試みがさほどの違和感なく受容されているのは、インターネットの普及に伴うメディア環境の更新と音楽の聴取形態の変化によってメインストリームとオルタナティヴの線引きが有効性を失いつつあり、シティポップリバイバルの逆輸入を経て蛸壺化したJ-POPの参照構造が半ば強制的に更新された状況が一因であろう。

そう考えるならば、『Prema』における英詞という言語選択とインスパイア元への敬愛を込めたアレンジはもはや制約ではなく、むしろ日本におけるポップミュージックのあり方それ自体を軽やかに更新する足掛かりとして機能しているといえる。

それを踏まえて注目すべきは、全曲にわたってプロデュースを務めた250(イオゴン)の存在であろう(驚きなのは、本作に250がプロデューサーとして携わった理由が偶発的な要因であったということだ。藤井風はテレビ出演時のインタビューにおいて、ロサンゼルスの山火事の影響でアジア圏での制作が中心になったことをオファーの理由として挙げている)。

特に“Hachikō”は250のサウンドメイキングの色が強く表れており、彼がこれまでの作品で実践してきたサンプリングを多用したコード展開を重視しないベースミュージックの手法と多言語的なアプローチは、これまでの強固に編成されてきたJ-POPのルールを完全に捨象しているといえるだろう。

付け加えるならば、NewJeans楽曲のプロデュースで知られるアーティストの全面的な起用は、「最新のアジア圏のポップミュージック」の象徴としての「K -POP」との連続性を内外のリスナーに感じさせ、アジア圏の音楽の西欧への輸出の新たな潮流、突破口になり得る力を本作は有しているかもしれない。

一方で今注意する必要があるのは、日本の音楽産業において英詞の採用や積極的な海外展開に打って出たミュージシャンは必ずしも珍しくはなく、それらは海外での成功を第一にねらったものではないという点だ。むしろ、これまで「海外で通用する日本人ミュージシャン」というレッテルをことさらに強調された日本人ミュージシャンらの表象は、欧米圏への文化的なコンプレックスを自家中毒的に利用した、日本人に向けたプロモーションの一環であった側面は否定できない。

そのような業界の思惑はともあれ、このアルバムが新たに照らし出し、世界中のリスナーの眼前にも開けつつある藤井風の目指す先をこれからも注視していきたいものである。

藤井風『Prema』

発売中
価格:3,520円(税込)
UMCK-1798
HEHN RECORDS / Republic Records / UNIVERSAL SIGMA
1. Forever Young
2. Casket Girl
3. I Need U Back
4. Hachikō
5. Love Like This
6. Prema
7. It Ain’t Over
8. You
9. Okay, Goodbye

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