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洋楽への敬愛とそのアップデートというコンセプト
『Prema』の参加アーティスト陣やサウンドのスタイルを見れば、こうした近年の活動のいわば集大成的な作品として本作が制作されたのが見えてくる。
1曲目に収録されている“Casket Girl”はロブ・バイゼルのプロデュースのもと英米圏のミュージシャンが多く起用され、ともすれば整然とした佇まいすら感じるポップナンバーだ。ギターにDURANが参加しているのが興味深く、彼のロック然としたアプローチによって万人にとって親しみやすいオープニングナンバーに仕上がっている。
1980年代末のニュージャックスウィングの熱気をそのまま再現したような“I Need U Back”は、ディスコの狂騒を体現する情熱的な歌唱と対照的にざらついた都会的なサウンドが印象的だ。この音像はギター / ベース / シンセでクレジットされているフランスの電子音楽レーベル「エド・バンガー・レコード」(レーベル創設者のペドロ・ウィンターはDaft Punkのマネージャーとしても知られる)所属のブレイクボットの手腕によるものに他ならず、アルバム全体の方向性をより明確なものにさせている。
アルバム全体の方向性——それはおそらく、藤井風個人のバックグラウンドに存在する幾重にも折り重なった洋楽への敬愛を、丁寧に紐解き分解し、可能な限りルーツに忠実な編曲でパッケージングしつつ、最新の環境と人員をもってアップデートするというコンセプトだろう(『MUSICA』2025年10月号収録のロングインタビューにも、「このアルバムがそもそも1980年代、1990年代、あるいは1970年代のクラシックな楽曲達からのインスパイアを隠すことなく表したいと思って作っていった」とある)。

そしてそのコンセプトは、「黄金時代」の洋楽を憧憬とともに受容してきた「周縁」としてのアジア圏のミュージシャンだからこそ可能なものに違いない。
“Prema”は、そのコンセプトを引き継ぎ、比較的シンプルで硬めのヒップホップビートにジャジーなベースとピアノが加わることで生じる独特のグルーヴ感が心地よい表題曲だ。アルバムに付属する湯川れい子によるライナーノーツ(!)では“Prema”における愛とは高次元に存在する自己の魂に対するものであることが明らかにされており、それこそが「愛」であり「神」そのものだと歌い上げる、日本的な感覚とはどこか遊離したスピリチュアリティが本曲にストレートなラブソングとは違った質感をもたらしている。