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凄まじい規模のロケ、セット、エキストラが生む「空気」
本作では、総製作費が25億円にのぼるのも納得の、沖縄ロケを中心に、南紀白浜でのロケ、東宝スタジオでのセット撮影、関東近郊でのロケなど、多岐に渡る試みがなされている。さらにエキストラの規模も凄まじい。だからこそ「この場所が本当に存在する」「この出来事の渦中にいる」という感覚を、スクリーンで体感できるし、そのことには大きな意義がある。
何しろ、通常の映画ならメインとなるようなセットが、いくつも制作されているのだ。たとえば辺野古アップルタウンに設けられた特飲街のオープンセットは、約2ヶ月半かけて制作された。現在はコンクリートやアスファルトで舗装されている道路に土を敷きつめ、既存の建物を利用しつつも、看板やポスターは手書きにこだわり、装飾品も全国各地から集められたという。他のロケ地やロケセットでも、コンクリートの壁を石垣に変えたり、木製の塀や椰子の木を植えたりするなど、徹底した工夫が施されている。

もちろん、リサーチにも余念はない。装飾を担当した渡辺大智は、3〜4年をかけて、戦後沖縄の公文書や写真を収集し、実際に現地を訪れて当時を知る人々から話を聞いたという。さらに、1950〜70年代にかけての時代の変遷も段階的に再現している。たとえば「1960年代以降に靴を履き始めた」ことを反映し、物語冒頭の1950年代では主人公たちは裸足で登場。俳優たちは「特殊造形」による肉足袋をつけて撮影に臨んだ。
劇中でたびたび描かれるデモシーンでは、100人単位のエキストラが参加し、多い日には300〜500人が出演。総人数は延べ5000人を超えたという。何百人ものエキストラが集まっても、大雨のため撮影が中止となった日もあったそうだ。
そして、中でも圧巻なのは、約20分という長尺で描かれる、民衆の感情が爆発した「コザ暴動」だ。このシーンを描いた意図について、監督補の田中諭はこう語っている。
この映画は、沖縄史の一大クロニクル的な作品ですが、実はそのなかに、一人一人の正義や息づかい、未来が見えないなかで生きることに必死だった人それぞれが信じたものがある。コザ暴動は一夜の出来事ですが、沖縄で起きたその暴動をしっかり伝えたいし、描きたいと思いました
このコザ暴動のシーンは、東宝スタジオにアスファルトを敷き詰め車道を再現し、当初オープンセット用に準備されていたセットの一部を組み合わせ、ブルーバックで撮影している。VFXの作業を行ったカット数は最終的に615にのぼり、約50人のスタッフが稼動。そこに400〜500人の民衆が動き回る――数字を見ているだけで気が遠くなるような規模だ。しかも、VFXだけに頼るのではなく、沖縄から大量に島バナナを取り寄せてセットの通りに散らしたり、街の臭いやゴミにまで力を注いでいる。その徹底ぶりによって、単なる再現という言葉にとどまらず、当時の暴動の「空気」そのものがスクリーンに立ち上がってくるように感じられるのだ。
