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OGRE YOU ASSHOLE×郡司ペギオ幸夫 人工知能と対極の創造性を司る「天然知能」の話

2024.9.18

#MUSIC

アートが本来持ち合わせる「穴」と「ダサカッコワルイ」感覚

―先ほどのライブ演奏の話を例に考えるならば、穴があるという不完全な状態を引き受けているからこそ、当事者として「いい演奏ができている」という実感を抱くことができるのかもしれないですね。

出戸:ああ、そうかもしれないですね。

郡司:ここでいう「穴」は、静止した造形物の場合はもちろん、音楽の演奏のような形態でも実現される何かだと思うんです。重要なのは、その「穴」は、言葉通り不在を表しているものなので、ないものをあたかもあるものかのように扱って操作的にあてがうことができるわけではなくて、あくまで当事者の中でのせめぎ合いや辻褄が合わなくなっている不完全な状態によって成されるものだということですね。

出戸:たしかに、僕らも「ここに穴を作ろう」という意識というよりは、曲の中にフリーな場所をとりあえず用意してみるという感覚が近いですね。外部の呼び水としてそういうパートを置いて、そこでとりあえずいろいろ試してみる、というか。実際、何が起きるかはバンド全体でそのフリーな状況に直面してみるまではわからないですし。

あらかじめ用意した設計図通りに演奏するのではなく、ノイズや辻褄のあわなさといった「穴」を引き受けながら演奏するバンドのイメージ

―勝浦さんはいかがですか?

勝浦:僕らの曲は反復的な構造のものが多いので、ともすると「機械的だ」と評されたりもするんですが、そう言い切ってしまうのも何かが違う感じがするんですよね。例えば、テクノミュージックの元祖であるKraftwerkにしても、機械的なイメージの反面、ズレとかモタリとか、かなり人間が演奏しているニュアンスが聴こえてくるんです。個人的に、そこにこそ魅力を感じてしまう。

ここ最近、OGRE YOU ASSHOLEは電子楽器の音に合わせて演奏することが多いんですけど、100%機械と同期しながら演奏するのは無理だし、そうしたいとも思っていなくて。機械との間にもグニョ〜ンっというズレが生じる瞬間こそが面白いと思っているんです。言ってしまえば、機械もメンバーの一員として考えて演奏しているというか。

―そういうズレ、ギャップにこそ音楽的なダイナミズム宿る、と。

勝浦:僕はそう思っています。

2021年に渋谷O-EASTで行われた『OGRE YOU ASSHOLE 15th Anniversary Live』のライブ映像

―郡司さんも、『やってくる』の中でPrince等を例に挙げて、音楽におけるギャップやズレについて書かれていますよね。その中で「ダサカッコワルイ」という表現を使ってその魅力を評されているのが印象的でした。

郡司:「ダサカッコワルイ」という字面だけみるとギョッとされるかもしれないんですが……(笑)。何といいますか、「カッコいい」というのが何らかの部品と部品がきっちりと整合的に配置されていて一部の隙もない状態を指しているのだとすると、その反対の「カッコワルイ」というのは、単にその配置がちぐはぐになっている状態ですね。

さらにいえば、全く無関係のこなれないものがただそこにポンと配置されているのが「ダサい」という状態。一方で、いわゆる「ダサカッコイイ」というのは、こなれないものが含まれているようでいて整合性が取れているもの。

かたや、本来的に無関係の存在によってズレが上手く外部から呼び込まれていて、よくわからない状態が作り出されているものが「ダサカッコワルイ」ということではないかと考えているんです。そしてそれは、創造という行為にとって非常に重要なものなんじゃないかなと思っているんです。

出戸:すごく面白いですし、直感的にも理解できる感覚です。

郡司:いわゆる純粋なエンターテイメントとアートというのを別のものとして考えた場合、ことさらに前者を批判するわけじゃないんですが、エンターテイメントというのは、閉じられた空間の中で過剰に異質なものを組み合わせつつも整合的な操作をしているだけであって、外部とつながりを持とうとはしていないように思うんです。

反面、アートというのは本来、そういう構造を脱色して外部とつながりを持ってしまうものじゃないかと考えているんですね。Princeの表現は一般的にエンターテイメントとして受け止められていると思うし、僕も当時友人から勧められてビデオクリップを見たとき、「なんてダサいんだ!」と思ってしまったわけですけど(笑)、繰り返し見ているうちに、これはスゴいかもしれない……と感動してしまって。

Prince『Purple Rain』(1984年)収録曲

―Princeもまさにそういう作品が多くありますが、機械とともに演奏することでむしろその「ズレ」が際立ってくるというもやはり重要な論点に思います。そう考えると、最近のOGRE YOU ASSHOLEの電子楽器の使い方には「ダサカッコワルサ」が滲んでいるような気もします(笑)

勝浦:そうだとしたら、嬉しいです(笑)。

―多様な音色を簡単に出せてコントロールのしやすいデジタル楽器ではなくて、モジュラーシンセサイザーのような、扱うのに手間のかかるアナログ式機材を積極的に使っているのには、どういった理由があるんでしょうか?

出戸:どうなんだろう。少なくとも感覚的な部分では、デジタルよりもアナログシンセサイザーのほうがいい音に思えるんですよね。

勝浦:アナログシンセの中でも、10分ごとに細かくチューニングしないとピッチがズレてきてしまうやつのほうが音がいいというのはあるよね。

出戸:そうそう。不思議なことに。

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