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「柴田さんの曲って、実際に同じような経験をしたことないはずなのに『わかるなあ』っていうラインだらけなんですよね」
―少し話題を変えます。個人的に、お二人の歌詞に共通する点だと思っているんですが、自分の「リアル」を投影するシンガーソングライター的なニュアンスと、かたや脚本家のように俯瞰して物語を語っているような感覚が絶妙なバランスで両立しているように感じるんです。そのあたりはどの程度意識して歌詞作りをしているんでしょうか?
柴田:たしかに、そう言われると自分でもそうかもなとは思うんですけど、(小声で)結構そこは適当にやっているかもしれない……。
―お二人とも、さだまさしさんのカバーをやられていますよね(筆者注:柴田は“案山子”を、夏目は“雨やどり”をカバーしている)。ああいうふうに濃密な物語性をもった歌詞を書こうと思ったりはしないんでしょうか?
柴田:さださんはすごく飛び抜けた才能だと思うんですけど、私はああいう短編小説的な世界を自分の歌でやれる自信はないですね。ストーリーテリングを上手くできてるっていう自覚はあまりないかなあ。
夏目:俺もないなあ。
柴田:ひとつの「お話」を作るっていうのはできるかもしれないんだけど、多分「物語」っていうのは「お話」より自由で大きなものだと思うんですよね。

―極端な例かもしれないですけど、「お話」というのが単なる「深イイ話」みたいなものだとすると、「物語」というのは本来的に別のものだと考えているってことですかね?
柴田:そうです、そうです。
夏目:めちゃくちゃわかる。「深イイ話」に陥らないようにする努力はすごくしているかも。ふと気づくと「深イイ話」になっちゃいがちなんだよね、歌詞って。
柴田:ただ起承転結を作るだけが「物語を作る」ということじゃない気がするし、プロの作家さんの小説を読んでいても、起承転結なんて通用しないくらい不思議なところで終ったりわったりするじゃないですか。けど、結果的にすごく豊かな物語になっているんですよね。
―一方で、お二人の歌詞に自分の姿を投影してみたり、なにがしかの物語性を見出している人はきっとたくさんいると思いますよ。
夏目:柴田さんの曲って、実際に同じような経験をしたことないはずなのに「わかるなあ」っていうラインだらけなんですよね。“後悔”っていう曲の<ああ、バッティングセンターでスウィング見て以来 実は抱きしめたくなってた>っていうのとか、そう思った経験はないのに、「めちゃくちゃわかる〜!」って(笑)。
しかも、ポイントは「実は」って付いているところで、つまりこの人物は相手に対してそのことを直接告げたわけじゃないんですよね。あくまで胸のうちで思っていたこと。それがまた「めちゃくちゃわかるわ〜」って(笑)。僕が歌詞の中の人物に憑依してしまっているっていうか、逆に憑依されているっていうか……存在しないはずの記憶をありありと思い出しちゃうんだよね。
柴田:それはすごく不思議だね。嬉しいなあ。