グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
6月29日は映像・写真作家の山根晋さんの紹介で、映画監督の川上アチカさんが登場。人を描くことの喜びを経験した幼少期や、最新のドキュメンタリー映画に込めた思いを伺いました。
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寡黙な幼少期に経験した、人を描く喜び
Celeina(MC):まずはプロフィールご紹介させていただきます。横浜市立大学卒業後、日系アメリカ人の強制収容経験を題材にした初監督作品『Pilgrimage』で『キリンアートアワード2001』準優勝を受賞。以来フリーの映像作家としてドキュメンタリー映画、音楽家とのコラボレーション、Web CMそして映画メイキングなど幅広く制作されてます。そして川上さんの最新作『絶唱浪曲ストーリー』が7月1日から公開になるということです。
タカノ(MC):明後日ですね。
川上:そうなんですよ。初めての長編映画で、お客さんが本当に入ってくれるのかもの凄く緊張してます。
タカノ:そもそも川上さんが映画を撮りたい、作りたいと思ったきっかけは何だったんですか?
川上:元々は写真家になりたくて。写真学科のある大学に進みたかったんですけど、写真家って、本当に限られた人しか食べていけない世界なので、親に反対されて。学費も高くて自分ではちょっと行けなかったので、公立の大学に行きながら勉強しようと思ったんです。そうしたら日芸の写真学科じゃなくて映画学科の映画制作実習に入れてもらえて、写真とヘアメイクの勉強を担当させてもらいました。その映画はドラァグクイーンを題材にしていたので、ゲイバーに行ってメイクのやり方を教わって。その現場が映画と触れ合う最初のきっかけでした。
Celeina:先ほど写真家は狭き門だとおっしゃってましたけど、映画監督も狭き門ですよ。
川上:本当にそうだと思います。
タカノ:最初からドキュメンタリーをやりたかったんですか?
川上:そうですね。実は小さいときは友達がいなくて、でも人のことをじっと見てる子だったんですよね。それである時、おばさんの似顔絵をとても緻密に描いたらそのおばさんがものすごく喜んでくれて、それから、そこにあるものを写し取っていくことを生業にできないかなと思うようになったんです。
タカノ:なるほど。確かに、人を観察するっていうのは川上さんの作家性に溶け込んでる気がしますよね。
川上:ありがとうございます。
フランス人の友人のおかげで浪曲の魅力を知る
Celeina:そしてついに明後日、川上さん初の長編ドキュメンタリー映画『絶唱浪曲ストーリー』が公開になります。我々も見させていただきました。
川上:ありがとうございます。
Celeina:簡単にあらすじを紹介させてもらいますと、主人公は浪曲の世界に飛び込んだ港家小そめさん。伝説の芸豪である港家小柳さんに惚れ込み弟子入りした小そめさんが晴れて名披露目興行の日を迎えるまでの物語になっております。
タカノ:そもそも浪曲というものに全然触れてこなかったので、すごく新鮮でした。
川上:私もこの映画を撮るまでは浪曲の「ろ」の字も知らなかったんですよ。浪曲を知ってる若者がどれぐらいいるのかなっていう。
Celeina:浪曲に出会われたきっかけはなんだったんですか?
川上:友人にフランス人の映像作家でヴィンセント・ムーンという人がいて。彼は世界中を旅して魂を震わせるような音を探してる人で、「日本でも探したいから手伝ってくれないか」って話があったんですよ。自分もすぐには答えが見つからなかったんですけど、友川カズキさんのライブでファンの方にこの話をしたら、「港家小柳さんっていう浪曲師を観た方がいいよ」って教えてもらったのが最初のきっかけなんです。
Celeina:そこで港家小柳さんの舞台を実際に観てどう感じられましたか?
川上:本当に凄かったです。物語を30分間くらいで語られるんですけど、物語の世界にタイムスリップしちゃうような経験で。三味線と丁々発止を楽譜なしで演奏するので、ジャズのセッションみたいだし、ラップだと思うぐらい畳み掛けるような表現もあって。三味線を沢村豊子師匠が弾いていたんですけど、2人のエネルギーの渦に巻き込まれて、30分間が本当にあっという間で。一体どんな魔法にかかったんだっていうような感じでした。

タカノ:川上さんの映像って、演出が全然入っていないじゃないですか。先ほども言ってましたけど、観察者の目線みたいなところがすごくいいなと思ったんですよ。生々しさというか、小柳さんと小そめさんの会話をめちゃくちゃ近くで聞いてるような感覚で、没入感がすごいなと思いました。
川上:浪曲の世界って、人と人との境界線が淡くて疑似家族のような関係性なんですけど、同じ浪曲を目指す者同士で尊敬の念も持っていて。この淡い関係性を表現するために、自分もそばに行って撮ることにしたんです。だから対象者への近づき方っていうのは、一般的なテレビで見るドキュメンタリーとは違うんじゃないかなと思います。


タカノ:途中で掛け布団のアップを写すシーンが何秒間かあったり。
川上:あのシーンを良いって言ってくださってもの凄く嬉しいですね。凄く大事にしているシーンなんです。整音を川上拓也さんがしてくださってるんですけども、5.1チャンネルで自分たちが音に囲まれるという作りをしているので、ぜひ劇場でも体験してほしいですね。
Celeina:川上さんがこのドキュメンタリーを作る上で苦戦したタイミングはありましたか?
川上:小柳師匠は40年間旅芸人をされていた方で、ほとんど記録が残ってなかったので、彼女の芸を一つでも残せたらっていうのが自分の最初の目的だったんですね。でも、自分が記録を始めてすぐに師匠が倒れられて状況が変わっていって。ドキュメンタリーって、自分ではコントロールできない世界なんです。その物語が私に訴えてくることをどういうふうに拾っていけるのか、それが自分にとっては挑戦でした。
Celeina:なるほど。ここまでお話を聞くと、浪曲を生で見たいなって思いますよね。
川上:是非ぜひ。浅草に木馬亭という寄席があって、東京で唯一浪曲を常打ちでやっています。Netflixの『浅草キッド』の撮影にも使われた凄く雰囲気のある場所で、そこに身を置いていただくことで、都会という東京のイメージとは対照的な面白い世界が発見できますので、ぜひ行っていただきたいなと思いますね。
Celeina:ここで、川上さんにこの時間にラジオでみんなで一緒に聴きたい曲を選んでもらったんですけれども、どんな曲でしょうか?
川上:スティービー・ワンダーの“Isn’t She Lovely”です。今日の朝4時ぐらいに映画関係の友人カップルに子供が生まれまして。その赤ちゃん、こころさんに最初の誕生日プレゼントとしてこの曲を贈れたらなと。
Celeina:素敵! それではお送りしましょう。
ドキュメンタリー制作は業の深い仕事
Celeina:川上さんがドキュメンタリー作品を撮られる上で大事にしているポリシーってありますか?
川上:ドキュメンタリーを作ることは業の深い仕事だと思うんですよ。個人の生活をさらしていくことになるわけですよね。それによってどんな影響が出るかわからない。それを自分が責任を負って、覚悟をして作っていかないといけない。撮影のときも編集のときも、そのことを常に考えながらやっていますね。
Celeina:確かに。ナレーションを付ける、付けないでリアルに伝えることもできるし、お客さんを引きつけるような演出をして届けるっていうこともできるじゃないですか。そういう中で今回の『絶唱浪曲ストーリー』っていうのはストレートに心に来るような。
川上:浪曲はストレートに感情に訴えてくる芸能なんですよ。そもそもがストリートから出てきた芸能で、門付芸から始まって大道芸、そして寄席演芸に変わって行った流れがあって。人情もので大衆に寄り添ってきた芸能なんですよね。だから大衆の心に訴えるような温かい話が多かったり。この映画を撮り終わったときに、この映画自体がまるで浪曲のストーリーのようだったなって思ってるんですよね。

タカノ:是非みなさんに見ていただきたいですね。
Celeina:「FIST BUMP」本日は映画監督の川上アチカさんをお迎えしました。ありがとうございました。
川上:ありがとうございました。

GRAND MARQUEE

J-WAVE (81.3FM) Mon-Thu 16:00 – 18:50
ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann