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まばたきや話し方に注目。トム・クルーズの演技の醍醐味
ー俳優として、あるいはプロデューサーとして映画の最前線を突き進んでいるトム・クルーズですが、俳優としての素晴らしさを感じる瞬間はありますか。
南波:かねがね申し上げているのは、トム・クルーズってまばたきをしないんですよね。もちろんセリフを喋っているあいだに何となくすることはあります。でもキメ顔のカットや、指令情報を得るとき、あるいは敵と向かい合っているときはまばたきをしません。どの作品でも良いのですが、『ミッション:インポッシブル』シリーズを観るときのコツとしてはストップウォッチを片手にご覧になると面白いですよ(笑)。「この人は何秒まばたきしないで耐えているのか?」を一度やってみていただくと楽しいと思います。

南波:例えばこれがリチャード・ギアやジョージ・クルーニーならば、目をパチパチパチとさせる。それはキュートかつセクシーさを醸し出す、彼らの必殺の演技になるわけですが、トム・クルーズは女性を前にしてもまばたきしないんですね。ギラッと見据えることで「この目には勝てないな」という雰囲気を作る。それが彼の眼力の秘密です。また『レインマン』ではあえて目を合わせない演技をしています。相手から目を逸らしながらも、雄弁に手を動かしながら語り続ける。
こうしてトム・クルーズは自分の眼力をときに威圧的に、ときに説得力を持たせるために使っています。走ることと同じくらい、「まばたきをしないこと」はトムにとっての演技の必勝パターンとも言えます。
ー『トップガン マーヴェリック』によって初めてトム・クルーズに関心を抱いた人もいるかと思います。そういった人にこれからトム・クルーズ映画を紹介する上で、何を最初にオススメしますか。
南波:まずは『卒業白書』を見てほしいですね。トム・クルーズも還暦ですし、ついに今年『ハスラー2』のポール・ニューマンと同じ61歳を迎えます。そういった俳優たちも若い頃はこんなにヤンチャで、トムもここから始まっているんだということですね。
改めて『卒業白書』を見返すと、ありがちな初体験モノのコメディーではないことがわかります。青春映画のジャンルでは語り尽くせない社会問題を真っ向から描いた映画だなと。何しろ当時はレーガン政権ですから、資本主義の問題点にも深く踏み込もうとしていることがわかる。一口に青春映画、あるいはラブコメとして語り尽くせない内容が語られています。社会に対する意識が高いことはけっして恥ずかしくないんだというメッセージとしても、『卒業白書』を受け止めてもらいたいと思います。

南波:もし『卒業白書』を見るハードルが高ければ、『ミッション:インポッシブル』シリーズを1作目から通してご覧になるといいかもしれません。そこでトム・クルーズの髪型もそうですが、彼の演技パターンもだんだん変わっていくことがわかると思います。
例えば1作目は若さゆえに声を張り上げて仲間に指示を出していて、相手を恫喝している演技が目立ちます。ところがシリーズを重ねていくにつれて、ささやくような喋り方に演技パターンを変えていっている。ヒソヒソと喋ることで説得力が増し、相手に何かしらの言葉を含ませたような語りかけになる演技にシフトさせているわけですね。そのあたりの転換点は『ナイト&デイ』(2010年、ジェームズ・マンゴールド)あたりからだと思うんですが、『ミッション:インポッシブル』シリーズを通じてもよくわかります。
まもなく7作目の新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が公開されますが、過去作をまとめて見ることができるのは配信サービスが整う今だからこそ可能なことです。そうした変化は私たち世代のように1作目から全部リアルタイムで観ていると、意外と気づかないんです。そうした特権を今の時代の中で十分に生かすことはとても良いことだと思っています。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』

公開日:2023年7月21日(金)全国公開
監督・脚本:クリストファー・マッカリー(『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』)
出演:
トム・クルーズ
ヘイリー・アトウェル
ヴィング・レイムス
サイモン・ペッグ
レベッカ・ファーガソン
ヴァネッサ・カービー
イーサイ・モラレス
ポム・クレメンティエフ
ヘンリー・ツェニー
配給:東和ピクチャーズ
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
https://missionimpossible.jp/