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トム・クルーズ40年の歩み。映画研究者・南波克行が語る

2023.7.19

#MOVIE

©2023 PARAMOUNT PICTURES.
"Jack Reacher- Never Go Back Japan Premiere Red Carpet- Tom Cruise (35338493152) (cropped)" byDick Thomas Johnson from Tokyo, Japanis licensed underCC BY 2.0.

「筋肉の時代」から「知恵と技の時代」に。アクション映画史の中のトム・クルーズ

ー『スティーブン・スピルバーグ論』(南波克行編著、2013年、フィルムアート社)の「二人のトム」(トム・ハンクスとトム・クルーズ)という論考において、スピルバーグ映画におけるトム・クルーズの「逃げる人」というイメージをバスター・キートン(アメリカのスラップスティックコメディー俳優、1966年没)の身体性に重ねて南波さんは論じていました。そういったキートン的な身体性はスピルバーグの映画だけではなく、トム・クルーズの身体へと潜在的に秘められているものなのでしょうか。

南波:『ミッション:インポッシブル』シリーズ以前にもトム・クルーズはよく走っていたので、もともとアクションを目指していたという気はしています。特に『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年、シドニー・ポラック)のラストの疾走ぶりは印象深いですね。

それ以前にも『カクテル』などで、誰もできないような曲芸をあれほど見事にできる俳優が過去にいただろうかと思っていました。『ハスラー2』のビリヤードもそうですが、吹き替え・スタントを使わず、バスター・キートン的に自分でアクションを行うことを当初から目指していたんでしょうね。それは『トップガン』で実際に戦闘機を操縦しようとした頃からブレていないように思います。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』場面写真 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

南波:またキャリアとして面白いのが、『トップガン』から『ミッション:インポッシブル』までの10年間はアクション映画を封印しているところです。そのあいだにカーレーサーを演じた『デイズ・オブ・サンダー』もありましたが、本格的なアクション映画はやっていません。

これは私の見解ですが、1980年代後半はいわゆる筋肉アクションブームの真っ只中で、シルヴェスター・スタローンとアーノルド・シュワルツェネッガーがアクションスターの頂点の座を二分していました。そこに後続するのがスティーヴン・セガールやジャン=クロード・ヴァン・ダムたちで、言わば「筋肉スターの時代」だったわけです。つまり華麗なアクションを見せる時代ではなく、『ランボー/怒りの脱出』(1985年、ジョージ・P・コスマトス)や『コマンドー』(1985年、マーク・L・レスター)といった巨大な筋肉で、マシンガンなど巨大兵器を半裸で扱うアクションの時代だった。

『コマンドー』予告編

南波:その点トム・クルーズにとっては分が悪いわけです。たしかにいい身体はしていますが、ボディビルディングで作った身体ではなく、身長もけっして高いわけではない。おそらくそのことをトム・クルーズは当時から正確に見極めていたんですね。だからこそ1990年代初めまでは巨匠監督と組むことで映画作りを学ぶことに力を注いでいた。これは彼のキャリアメイキングにおいて最もすごいところなんじゃないかと思っています。

その後十分に機が熟すと、自分のプロダクションを作り、その第1作目として1996年に『ミッション:インポッシブル』を制作します。いよいよここでアクションを解禁するわけです。1996年だとスタローンもシュワルツェネッガーも第一線から完全に退いていましたし、こうして『ミッション:インポッシブル』シリーズのような「知恵と技で勝負するアクションの時代」が訪れることを見極めていたんだと思います。

ー作品のクオリティーを身体によって担保しつつも、トム・クルーズが映画における「本当らしさ」にこだわる意味とはいったい何なのでしょうか。

南波:「これは本当にやっているんだ」と思って観ているのと、「これはCGだよね」と思って観ているのとでは映画の印象が全く違いますよね。たしかにトム・クルーズも嘘を付くことはあるんですが(笑)、お客さんが嘘と思わない限り、気持ちの入り方が違ってくるのではないかと思います。

トム・クルーズのスタントアクションの様子が見られる「トム・クルーズ骨折の瞬間も『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』メイキング映像」

南波:例えば『トップガン マーヴェリック』の冒頭で最高速度のマッハ10を突破していましたが、実際の出来事ならアメリカ空軍の大金星なのであれは嘘に決まってますよね。だけど何でも自分でやってのけてしまうトム・クルーズのイメージが完全に私たちの中にインプットされているので、本当にやっているように思えてしまう。

つまり「全部トムがやってるんだ」と観客にインプットさせてしまえば、ときどき本当はやっていなくてもやっていると思わせてしまえる。ある意味そこはトム・クルーズの巧さですよね。そうやって観客と俳優との理想的な関係、絆を結び付けるのがトム・クルーズだなと感じます。

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』メイキング写真 ©2023 PARAMOUNT PICTURES.

ーたしかにトム・クルーズの映画を観ることへの欲望と同時に、それがフィクションを超えていくかのような力を画面から強く感じます。『トップガン マーヴェリック』の冒頭もそうですが、「トム、君ならできる!」って勝手に観ながら思ってしまうんですよね。

南波:そうなんですよ! 「トムならできるかもしれない」と思う。そういったファンタジーを私たちも期待し、実際に画面の中でそれに応えてくれるのがトム・クルーズなんです。

セスナ機の上に乗った映像が衝撃を与えた「映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』トム・クルーズ衝撃メッセージ映像」

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