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おーたけ@じぇーむずを救った、「まあいいか」の美学

2023.7.13

一寸先闇バンド『良かれ』

#PR #MUSIC

ライブシーンを中心に活動する、シンガーソングライターのおーたけ@じぇーむず。ソロとしても活動を行いながら、今年のRISING★STAR FINALISTにも選出された、一寸先闇バンドに軸足を置いている。今回は、一寸先闇バンドとして、7月5日に『良かれ』を配信リリースしたばかりのおーたけ@じぇーむずに、彼女とゆかりの深い西荻窪のアートリオンでインタビューを行った。

「自分一人の満足のために何かをすることが、本当にないんです」と目を伏せて笑いながら、自分のことを聞かれたり、自身を顧みて話をすることに、どこかぎこちない様子を見せていた彼女。一時は月に25本もライブをしていたこともあったというほど、ひたむきに音楽活動に向かう理由や、日常の中のふとした瞬間に揺れ動く感情の断片を、ぽつりぽつりとこぼすような楽曲がどのように生まれるのかが、言葉の端々から垣間見えた。

苦しい時期を抜け出すキッカケをくれた、メンバーの優しさと、広告仕事

─今日は、いつも音楽制作のために使っているノートを持ってきていただいたんですよね。

おーたけ:iPhoneにもメモしているんですけど、「こういうことを歌いたいかも」という内容を断片的に書いていて。ギターを触っているときにいい感じにコードがつながったら、歌詞をパズルみたいにつなげていくんです。あとは一昨年ぐらいから、自分が出たライブのセトリも全部メモしていて。(ノートをめくりながら)……大丈夫かな。何かネガティブなこと書いてなかったかな(笑)。

─日記的なことも書いているんですか?

おーたけ:たまに書いてますね。「今日の私、声良くなかったわ」っていうちょっとした反省点だったり。

─楽曲のアレンジについてもメモ書きがありますね。

おーたけ:『知らんがな』(2021年11月)までは絶対に自分の編曲を曲げたくなくて、「こういうふうに音を出してほしい」という希望をバンドのメンバーに明確に伝えていたんです。でも、『ルーズ』(2022年7月)の時にまったく曲がつくれなくなって。何にもできない自分が本当に嫌になって、メンバーに相談したら、「口出ししてよかったんだね」って、アイデアを出してくれるようになったんです。それですごく気持ちが楽になりました。

─それまでは、おーたけさんが自分で編曲をやりたいと思っている気持ちを汲んでくれていたんですね。

おーたけ:きっとそれまでもアイデアは持っていて、意見を言いたいこともあったと思うんですけど、みんながやらせてくれていたんです。でも作曲やアレンジの中で、毎回同じことをやっているような気になっちゃって。回らなくなってきたところでメンバーが参加してくれました。ただ曲づくりだけはまだ譲りたくないです(笑)。

─“ルーズ”は、職業としてミュージシャンをやるうえでの態度について歌っているというお話をあるインタビューで読んで。おーたけさんの中で、音楽を仕事にすることへの思いというのは強いのでしょうか?

一寸先闇バンド(いっすんさきやみばんど)
シンガーソングライターとして活動をしているおーたけ@じぇーむずを中心に2019年に結成。ジャンルに囚われない自由度の高いサウンドでありながら、ブレる事のない歌詞の世界観と、感情的に訴えかけてくるおーたけ@じぇーむずの声によって、独自の音を奏でている。(オフィシャルサイト

おーたけ:すごく憧れがありますね。今年の3月に初めて「銀座ポエトグラフィー」というプロジェクトで作曲の依頼があって、「きた!」と思って。銀座の街に張り出される詩に対して曲でアンサーしてほしいという内容だったんです。

─初めて広告の音楽の仕事をやってみてどうでしたか?

おーたけ:すごく楽しかったんです。「開放的な空気感の曲がほしい」と言われたので、その言葉に忠実にやろうと思ってつくったら、ほぼ一発OKで。この依頼をくれた方が、「いい曲ですね、納品した後にずっと口ずさんでます!」って、そういうポーズじゃないかと思うぐらいに(笑)、褒めてくださって。クライアントがそんなふうに気に入ってくれたんだったら、自信を持って「私が書いた曲だ」と思おう、と。その案件を経て、自分の曲に対して前よりポジティブになれたんです。

─逆にそれまではおーたけさんの中でご自身の楽曲に対してどこか自信がなかったということでしょうか?

おーたけ:もちろん、最低限はあったんです。例えばライブの会場BGMとかで、ふとした瞬間に自分の曲を聴くと「あ、いい曲だな」って思ったり(笑)。でも「自惚れかな」っていう疑いもちょっとだけあったりして。「銀座ポエトグラフィー」の経験から、自分が持っているものを信じていいかもしれないと思えたんです。

私の「良かれ」も、もしかしたら嫌がられていることがあるのかも

─7月5日に配信された“良かれ”について伺いたいです。リリースコメントに「「良かれ」と思ってやったことが空回りしてしまった経験から書いた曲」とありましたが、どんなことがあったんですか?

おーたけ:普段からずっとそうなんですよね。よく言えばサービス精神がすごいんですけど、「そこまでしなくてもいいよ」って人から思われるようなところまで行き着いてしまったりして。自分でも「なんでこんなことしてるんだろう」って疲れてしまうんです。

おーたけ:あるときに叶姉妹のポッドキャスト(『叶姉妹のファビュラスワールド』)を聴いていたら、「彼氏からあまり必要じゃないものをプレゼントされて、喜ぶ演技をしなきゃいけない」という「良かれと思って」をされた側のお悩みが寄せられていて。私の「良かれ」ももしかしたら嫌がられていることがあるのかも、と思ったんですよね。そういうことにモヤモヤしながら歌詞を書いたら、<良かれと思って 満足できたら 曖昧でいいの どうせ忘れるなら>というサビのフレーズが生まれて。

─おーたけさんの楽曲からは、ネガティブな感情があってもあまりそちらに引っ張られ過ぎない軽みや、「それでもいつかは大丈夫になれるはず」という人間の素朴なパワーを信じようとしている印象を受けます。

おーたけ:“ルーズ”は、もともと「やればできる子」の略で「YDK」というタイトルだったんですけど、そうやって自分に言い聞かせてるんですよね。「私はできる、私はできる」って。自分の歌詞には、いつもそうやって自分に言い聞かせたり、俯瞰して自分をちょっと小馬鹿にするような感覚がある気がします。

─おーたけさんの歌詞には、どこかざわっとするような引っかかりのあるフレーズがたびたび出てくると感じますが、言葉の選び方はどこからきていますか?

おーたけ:どこかでパンチラインを入れたいと思っていて、強いもの、弱いもの、いろんな種類のパンチラインを用意して、組み合わせているような感覚です。あとはなるべく難しい言葉を使いたくないんです。3歳になる甥っ子がいて、それくらいの年齢の子でも口ずさめるような歌詞がいいなとずっと思ってきました。あるとき谷川俊太郎さんの詩集を読んだら、全部素朴な分かりやすい言葉で書いてあって。

─一つひとつの言葉は易しいですよね。

おーたけ:そう、それで「自分がやってきたことって正解だったんだ」と思えたんです。それからさらに、素朴さに磨きをかけたいというちょっとした信念が生まれました。

自分らしさってちょっとだけ無理があるんです

─“良かれ”の中に<自分らしさってちょっとだけ無理があるんです>という歌詞がありますが、「自分らしさ」についておーたけさんはどんなことを思いますか?

おーたけ:無理がある自分らしさって、頑張って出そうとしているものなんですよね。願望というより欲望に近いものを「無理がある自分らしさ」とこの歌では言っていて。そうじゃなくて、生きてきた時間の経過の中で得たものにフォーカスした方が、無理がないように思うんです。歌詞を書きながら「こんなに言っちゃって大丈夫かな?」って悩んだんですけどね。

─どこかブレーキをかけるような気持ちがあったんですか?

おーたけ:そういう気持ちを失うと、自分は本当にひどいことしか言わなくなっちゃうと思うんです。だから思っていることを純度100%で歌詞に書くことはないかもしれません。「この辺でやめときなよ。もう取り返しがつかないよ、喧嘩になっちゃう!」みたいなことをいつも思っていて。でも、曲の中に何かしらパンチラインはほしいので、その気持ちと折り合いをつけているんです。

─「折り合いをつける」ことによって、モヤモヤしたりはしないですか?

おーたけ:言わなかったことは必要なストックとして後に残しておきます。言い残したことがないと、満足してしまうような気がして、それは避けたい。「いったんもう終わり」っていう区切りをつけたくなくて。ずっと何かに追われていたいんでしょうね。

─制作をするうえで、感情に区切りをつけてしまうことが不安だという感覚もありますか?

おーたけ:そうかもしれません。それこそメンバーからは「考えすぎだから、山とかぼーっと見ながら書いた曲が1曲ぐらいあったほうがいいよ」って言われたことがあるんです。そういう意見にも耳を傾けて、この前リリースした“五月病”の中では<遊んで暮らそう>と歌っていて。

https://www.youtube.com/watch?v=LaVq2nKXZ9g

おーたけ:「これでもう考え過ぎとは言われまい」と思ったら、今度は「仕事辞めたいの?」って心配されたりして(笑)。この曲は仕事が嫌になってメンタルを病んだ友達に向けつつ、「無理するな!」っていうちょっとした希望みたいなものを乗っけて書いているので、自分のことというわけではないんですけどね。

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