カリフォルニアで開催される世界最大級の音楽フェスティバル『コーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)』、そして、バルセロナで開催される音楽フェスティバル『プリマヴェーラ・サウンド(Primavera Sound Barcelona)』の2026年ラインナップが9月に発表された。藤井風、Creepy Nuts、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uなど、日本のアーティストの出演もアナウンスされている。今回のラインナップをどう見ているか、つやちゃん、伏見瞬、清家咲乃、3人の音楽ライター / 批評家に聞いた。座談会「What’s NiEW MUSIC」第4回。
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ライブミュージックとしてのロックへの回帰
—9月に『コーチェラ』『プリマヴェーラ』のラインナップが発表されました。みなさんはどうご覧になりましたか?
伏見:『コーチェラ』は時代に応じて選ぶアーティストも変わっていて、最初の頃はインディロックのアーティストが多かったのが、2010年代中盤頃からポップアクトやヒップホップのアクトが入ってきたんですけど、今回はヘッドライナーがサブリナ・カーペンター、ジャスティン・ビーバー、カロルGという、3組ともいまアメリカ及びラテンで非常に人気のあるポップのミュージシャンに振り切ったのが印象的ですね。


つやちゃん:『コーチェラ』はこの何年かどんどん巨大化していて、セレブリティやインフルエンサーが集まって、ポップアクトも出演する、そういうイメージがどんどん膨らんでいたかと思うんですけど、今回はちょっと変わりましたよね。The StrokesとかThe XXとか、ロック系が復活しています。その結果チケットも売れたというので、やっぱりそういうものを求めているお客さんが多いのかなと思いましたね。ライブの文化は生演奏文化という面があって、ライブで体感する音楽としては、ヒップホップやラテン系のダンスミュージックよりもロックの方が強い。そういうところをもう1回見直そうというフェーズが来ているのかなと思いました。
伏見:たしかにThe StrokesとかThe XXがサブヘッドライナー的な位置に置かれていて、『プリマヴェーラ』だとThe XXがヘッドライナーになっていますね。あと、いまいち何をやるかわからないRADIOHEAD KID A MNESIAというのがアナウンスされていて、RADIOHEADが出るのかまだわからないんですが、その辺も含めてインディロックの見直しみたいな感じはありますよね。
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Creepy Nutsに藤井風、日本人アーティストの参加
—日本からは藤井風、Creepy Nuts、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uがラインナップされていますね。
清家:そうですね。Creepy Nutsはアニメのタイアップ曲がTikTokでバズったので、ここ数年K-POPグループが呼ばれてるのと同じ流れっぽいな、そういうのを好きな人が見るのかなと思っていました。たぶん最初はアウェイだけど、ヒット曲のサビに入ると「なんか知ってるな」っていう空気になるような感じがありそうかと。
清家:Creepy Nutsって、ライブで歌詞を全部忠実に言うじゃないですか。かぶせとかじゃなくて。その場合、あんまりステージを動き回れないのかなと思います。トラップ系の人だと、飛び跳ねて花道の方に出て行ったりとか、歌わなくてもパフォーマンスで煽るタイミングがあると思うんですけど、しっかり歌詞を発音するタイプのライブだとどうなるんだろう、というのは気になりますね。
伏見:藤井風は、“死ぬのがいいわ”が2022年にタイを中心にグローバルヒットしたり、いまヨーロッパや北米・中米でライブをしているので、『コーチェラ』に出るのは自然な流れな感じがします。『Prema』という全部英語詞のアルバムを出したのも、北米圏でも注目されるような形で活動しようという藤井風チームの意向だろうと思うので、今後海外にもっと広げるぞというところが強いんじゃないかと思います。
つやちゃん:藤井風の場合、向こうのソウル / R&B系のアーティストと並列に聴けるところがあるんでしょうね。なので、Creepy NutsがJ-POPを代表するアクトとして呼ばれたのとは、ちょっと違うような印象もあります。

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¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uと『Boiler Room』の存在感
—なるほど。¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uは『コーチェラ』にも『プリマヴェーラ』にもラインナップされています。大活躍中のDJですが、国内ではご存知ない方も多いんじゃないかと思います。どういうアーティストなのか、少し解説いただけたらと思うのですが。
清家:まだ生では見たことがないんですけど、わりとバンドが出るようなイベントに出演されているイメージがあります。何かのイベントでBOREDOMSと一緒にラインナップされていましたよね。インタビューを読んだら、高3くらいまで(ハードロック / ヘヴィメタル専門誌の)『BURRN!』を買ってたと書いてあって、もともとわりとロックやメタルを聴いていたのかな? と。なので、バンドが中心のフェスみたいな、いろんなジャンルが混ざる場と親和性が高いのかなと思いましたね。
伏見:お父さんがDeep Purpleを大好きで、子どもの頃聴かされてた、みたいなインタビューがありましたよね。そこからSonic Youthとかを聴くようになってバンドを始めて、DJは20代後半で始めたそうで、たしかにバンド由来の感覚みたいなものを持っている人なんだろうなという感じはします。映画『HAPPYEND』(空音央監督、2024年)に本人役で出演していて、そこでかかっていた音楽がかっこよかった記憶があります。硬質な音を使っている人というイメージで、それもロック的なものと相性がいい。今回だとNine Inch Noizeとかとの相性はいいですよね。あと、ジャンルは違えど、どこかDJ KRUSHみたいな雰囲気もある方だなと思っていて、海外で人気があるのは、なにかつながっているような気がします。
つやちゃん:おそらく『Boiler Room』への出演で認知されて呼ばれたのではないかと思います。『Boiler Room』の世界に向けた発信力、ブランド力が相当高まっているんだろうなと感じますね。今回は¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uでしたけど、『Boiler Room』でプレイした日本人が今後どんどん出ていきそうな気配を感じます。
—例えばどういうアーティストが出てきそうでしょう?
つやちゃん:Peterparker69とかは可能性ありますよね。いまFrost Childrenと一緒に海外ツアーを回ってますけど、ああいうテクスチャー重視の音楽は、国境を越えて世界的に求められているというか、海外の音楽と並列に聴けるところがあると思うので、今後もしかしたら急に一気にビッグフェスに出演することもあり得るなと思っています。
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意外性があったハードコアパンク / ノイズ勢
—今回発表されたラインナップで、みなさんが注目しているアクトをそれぞれお伺いできますか?
清家:個人的には『コーチェラ』の3日目に好きなアーティストが多くて、ヘッドライナーがカロルGで、ヤング・サグ、BIGBANG、イギー・ポップ、FKAツイッグス、リトル・シムズ、そこにSuicidal TendenciesとBlack Flagがいるんですよね。Black Flagは、1976年から活動している、ハードコアパンクがグランジとかスラッシュメタルにつながっていく節目を作ったようなバンドなんですけど……これ本当にあのBlack Flagだよな? なんで呼ばれてるんだろう? と思って(笑)。文脈があんまり見えてこなくて、いま挙げたようなアーティストを一度に見れるのは面白いなと思います。
つやちゃん:サイコロを振って決めたんじゃないのかな? というような、わけわかんない並びですよね。Oklouとかジェーン・リムーヴァーとか、いま活きのいい人たちもちゃんと押さえているっていうのもポイントですね。
清家:『プリマヴェーラ』の方は、Agricultureは最近メタル界隈でもわりと注目されているバンドなんですけど、ブラックメタルっていう北欧のサブジャンル由来の音楽性で、南欧のフェスに呼ばれるのは意外でした。あと、MELT-BANANAとMerzbowは、もとから海外評価は高いんですけど、いまこんなところにも呼ばれるんだというのは、目を引かれた部分でした。
伏見:MELT-BANANAとMerzbowが海外で同じフェスに出ているのは面白いですよね。Einstürzende Neubautenもいるし、ノイズフェスか? みたいな。このあたりの名前でアディソン・レイと一緒に並んでいるのは、ちょっと笑います。
清家:MELT-BANANA、Merzbow、¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uって、日本でその3組でやってても違和感がない感じがしますよね。高円寺とかでやってそう。
つやちゃん:私はジャスティン・ビーバーが楽しみです。いまのジャスティンは、単にポップスターがヘッドライナーするのとも違う気がしていて。今年、『SWAG』『SWAG II』と立て続けにアルバムを出しましたけど、良いんですよね。プロデューサーにDijonが参加していて、元々の作風からガラッと変わって、アーティスティックでありながらやりたいことを自由にやってるような感じの印象を受けました。昔からパパラッチに追われたり、つらい時期もあったと思うんですけど、そういうところから全部振り切って「自由にやりたいことやるんだ」みたいな境地に行ったという印象があります。新たなフェーズに入ったジャスティンが『コーチェラ』の舞台でどんなショーをするのか、すごく興味深く、楽しみにしていますね。
伏見:『SWAG II』、めっちゃよかったですよね。今年一番ぐらい好きです。僕、ジャスティン・ビーバーと藤井風が同じ日に出るっていうのが面白いなと思って、『コーチェラ』の2日目に行くことを考えてたんですけれど、チケットが即完で売り切れてしまって。