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【2025年下半期振り返り・音楽編②】藤井風、ロザリア、梅井美咲など注目アルバム紹介

2025.12.18

#MUSIC

2025年下半期の音楽を、若手ライター3人が振り返る座談会。シーンを取り巻くトピックを総括した前回に続き、今回は下半期のオススメ音楽作品について語ってもらった。国内インディやブラジル音楽に詳しい風間一慶、DJとしても活動しインディペンデントな音楽に精通した松島広人(NordOst)、Podcast『コンテンツ過剰接続』ホストのキムラは、それぞれどんなアルバムに注目したのか。なお、PodcastYouTubeには、記事に入りきらなかった話題もフルサイズで収録しているので、あわせてチェックしてほしい。

気鋭ピアニストからさよポニまで、ブラジル音楽視点の注目作

—ここからは2025年下半期にリリースされた新譜について伺いたいと思います。まずは風間さんから注目した作品を紹介していただけますか。

風間:はい。自分はブラジル音楽周辺を定点観測的に掘っているんですけど、その文脈でまず紹介したいのは梅井美咲さんです。ピアニスト / コンポーザーとして活躍されていて、今年のはじめにはジョーディー・グリープ(Geordie Greep)のジャパンツアーにメンバーとして参加もしていました。なので、ご本人も、いうまでもなくバリバリの演奏をする方なんですが、『Asleep Above Creatures』というアルバムにはアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)が参加していたのが興味深かったです。

風間:ロウレイロは「ミナス新世代」のように日本では紹介されていて、ここ10年ぐらい影響力があるブラジルのミュージシャンですね。彼から人脈をつないでいくと、南米ジャズの盛り上がりも見えてきます。いま、ミナスの影響を受けた、ラプラタ川流域、ウルグアイやアルゼンチンのジャズが面白くなっていて、マテオ・オットネッロ(Mateo Ottonello)というドラマーのアルバムも下半期に見つけて面白かったです。

風間:もうひとつブラジル音楽関係で挙げたいのが、さよならポニーテールです。

松島:えっ、さよポニですか?

風間:はい。今年『水』というアルバムを出して、このアルバムがボサノバから影響を受けている作品だったんですよ。例えばコーネリアスの『Point』にその名も“Brazil”という曲があったり、テイ・トウワが“Technova”という曲で、ジョアン・ジルベルトの娘のベベウ・ジルベルトをフィーチャリングしていて、ブラジル音楽ファンの間では神格化されているんですけど、その辺りに近いような印象を受けました。ここのところ、渋谷系とかカフェミュージックの読み直しが多い気がするんですけど、そのまた新しいひとつが出たというか。

松島:なるほど。

風間:タイトルが『水』ですけど、「水」というのはブラジル音楽で象徴的な概念なんですね。アントニオ・カルロス・ジョビンの“三月の水(Águas De Março)”とか、名曲に象徴的に使われることが多いんです。そこに、さよならポニーテールがコミットしていったのは、ブラジル音楽を定点観測している身からすると面白かったです。

松島:へえ! それはチェックしてみようという気持ちになりますね。

エチオピアジャズのオリジネーターは健在

風間:日本に限らず、ここ2、3年のポップミュージックの中でボサノバ的な要素は結構目立っていて、有名どころだとピンク・パンサレスやビリー・アイリッシュもボサノバが入っている曲をやっていたりするし、上半期に挙げたメイ・シモネスとか、レイヴェイも意図的なボサノバからのオマージュを見せたりしていて。いろんな軸から盛り上がりが見えてくるんじゃないかなと思います。

もうひとつ、これはブラジルではないですが、ムラトゥ・アスタトゥケ(Mulatu Astatke)『Mulatu Plays Mulatu』が良かったですね。エチオピアジャズの巨匠といわれるミュージシャンなんですけど、自分のレパートリーを、カルロス・ニーニョ(Carlos Niño)やカブロン・ベリャナ(Kibrom Birhane)といったミュージシャンと一緒に、いまロンドンでもう1回録ったというアルバムです。現行のUKジャズあたりを聴いている人は難なく入れると思います。

風間:ムラトゥ・アスタトゥケは去年も『FESTIVAL FRUEZINHO』で来日してたりして、まだ全然元気なんですけど、ジャンル自体のオリジネーターが存命でバリバリ活躍しているジャンルって、もうほぼないと思うんです。簡単にいえば、レゲエでボブ・マーリーがまだ生きてるようなことなんですよ。すごいですよね。ブラジルで言うと、今年は本当に残念ながらエルメート・パスコアル、ロー・ボルジェスが亡くなりましたし……。

松島:なるほど、たしかにそうですね。

クラブミュージックの2020年代インディ的要素が詰まった2作

松島:僕はearという2人組の『The Most Dear and The Future』というアルバムにハマって。いっぱい聴いたし、DJの現場でもかけたりしていましたね。インディートロニカとかフォークトロニカとまとめられそうな、ローファイな宅録なんですけど、そこにサブベースがしっかり入ってたり、コラージュ的にジャングルのパーツが使われていたり、でも歌モノに関してはエモ感があって。2020年代的な要素の集合体みたいな作品だし、ゾッとするぐらい自分の個人的な好みを正確に射抜かれた作品でした。

https://open.spotify.com/intl-ja/track/2LLLBCUedFQyAuYVpAIrIU

風間:僕もearはめちゃくちゃ感銘を受けました。ちょっとDijonのアルバムにも近いというか、パンニングとかを多用するんだけど歌モノとして聴けて、いわゆる歌モノとしての聴きやすさのラインが変わったような感じを受けました。メカトック(Mechatok)の『Wide Awake』もそうで。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/0zXkNrPiubPQ6xuBBN0ssu

松島:メカトックは僕も聴いていたんですけど、クラブというよりは「クラブからの帰り」だったり、ちょっと疲れて家で聴くような感覚でしたね。ブリアル(Burial)とかもそうですけど、クラブの狂乱を抜けたあとの、どよんとしているムードみたいな。

風間:そうなんですね。僕はけっこうテンションMAXのときの感じでした……。

松島:最後にシンプルなアンビエントトランスが入ってたりする感じも、めちゃめちゃクラブ明けに合うと思いました。メカトック本人もインタビューで「ワールドツアーをガンガンやりながら、それ以外は家で携帯見てます」みたいな、その双極的なところを投影したアルバムだというようなことを言っていましたね。

ラップ関連で言うと、Surf Gang Recordsというレーベルから出た、jackzebraというクラウドラップのアーティストの『Hunched Jack Mixtape』がすごく良かったです。中国語でラップをしている郊外の青年で、世界に発見されて逆輸入的にデビューを飾ったんですけど、そこにvaporwave的な背景を持つジェームズ・フェラーロが参加していたり、mentalとblxtyというSoundCloudで活動する人たちが共作で入っていたり。それらが交差して、その軸にエクスペリメントラップとかアンダーグランドラップがあるというのは、2010年代から続く「インターネット的なもの」の結実だなと思いました。単純に作品としての完成度も素晴らしかったです。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/2VDLVPQjv9XmKBkFGNdYBN

松島:あと、下半期のリリースではないんですけど、Karavi Roushiというラッパーがいて、その人がビートメーカーのAquadabと組んで出した『BLADE N』というアルバムがあって、これはスルメというか、聴けば聴くほどヤバいことが分かってきて、国内リリースだと僕の今年ベストはこのアルバムだったかなと思います。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/682D3ZYsex5oR7SXfLQy1x?si=Cn5dAhDvSRSms-_T6G4c0w

個人の内面を表出させた藤井風、RADWIMPS

キムラ:下半期だと、やはり藤井風の話はしなくちゃいけないと思っていて。上半期の座談会で「日本のメインシーンにようやく作家の私的な感情を吐露する作品が出てきた感じがする」という話をしていて、それは星野源の『Gen』のことだったんですけれども、藤井風の『Prema』もそういう作品だったと思っています。星野源『Gen』が孤独と独白のアルバムだとしたら、藤井風『Preme』は信仰と宗教のアルバムですよね。どちらも個人の内面、私的状況とか感情のうごめきみたいなものを映し出している作品で、そこで共鳴するのはすごく面白かった。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/6ELurkxQnAif7u5Vv6Wly9

キムラ:さらに、RADWIMPSが今年出したアルバム(『あにゅー』)も、わりと自分の心情を吐露するというか、半自伝的な歌詞が多いんですよね。“筆舌”という曲の<あの頃バンドを始めた仲間はほぼ辞めていたり>のように、野田洋次郎が今まで辿ってきた道のりを振り返るような内容になっていたり、“MOUNTAIN VANILLA”という曲には<アジカンとエルレとバンプを爆音で流してさ>みたいな、野田洋次郎のリスナー的な体験を投影している歌詞があったり。全体的になにか巨大なテーマを持ったエンターテイメント作品を作るというより、作者の内面を出していくという、そのあたりで共鳴する部分があるように思いましたね。

松島:なるほど。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/6FPxMWiR2LQvKDuVU0ifEH

風間:藤井風が今回のアルバムでプロデューサーの250(イオゴン)とタッグを組んだのを、マイケル(・ジャクソン)とクインシー(・ジョーンズ)に見立てる人もいますよね。アジアからそういうものを作ろうとしたのかなと、シンプルに見れば思いましたし、『MUSIC AWARD JAPAN』映えしそうなアルバムと思いました。

「宗教的ではないがスピリチュアル」なロザリア

風間:あと、『Prema』のCDの帯に「至上の愛」という言葉が入っているのは、ジョン・コルトレーンの同名アルバムからきているのかなと思っていて。あれは特定の宗教ではない「神」に捧げたアルバムですけど、「宗教的ではないがスピリチュアル(Spiritual But Not Religious)」という用語があって、ロザリア(ROSALÍA)の『LUX』でも概念のひとつとして使われていました。対象がいてもいなくても、ある種の「信仰」と結びついたものが評価された年だったなというのは、ビッグリリースを見ていて思いました。

松島:はい、ある種の敬虔さみたいな感じというか。ロザリア『LUX』は、一聴してすごいことが分かるんですけど、あまりのカロリーの高さに「これはいつ聴けばいいんだろう……?」って(笑)。クラシックからスペインのルーツからポピュラー音楽まで、持てるすべてを使って作るとこうなるのか、この「軽さの時代」にこんな重たいアルバムが出るんだ、と思いましたね。

https://open.spotify.com/intl-ja/artist/7ltDVBr6mKbRvohxheJ9h1

松島:ロザリア以外でも今年は、ポストクラシカル的なものをいろいろなところで耳にしました。Djrumと書いてドラムと読むIDM系のアーティストも、まさに最近のIDMにクラシカルな要素をふんだんに盛り込んだアルバム(『Under Tangled Silence』)を出してて、あれはクラブトラック系だと今年で5本の指に入るぐらい大好きでした。

https://open.spotify.com/intl-ja/album/1bMzS9D1chZ57onK5mU8ea

キムラ:かつてRadioheadがやったこととも重なる気がします。2000年頃にRadioheadが、インターネットのムーブメント / 空気感の中で、ジョニー・グリーンウッドのクラシカルな手捌きとエレクトロニカを融合させた素晴らしい作品を何枚も出していった。僕はロザリアのアルバムを聴いたときも、若干その感じがしたんですよね。いまAIが急速に発達していって、イーロン・マスクがXをめちゃくちゃにして、あの頃と同じようにインターネットの変革期の最中にいるわけですけれども。

松島:なるほど。たしかにロザリアも、器楽的にエレクトロニカにアプローチするところがありましたね。Radioheadはライブを再開しましたし、アルバム出してほしいっすね。来年待ってます!

風間:いやー、どうなるか怖くもありますよ……。

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