2025年下半期の音楽を、若手ライター3人が振り返る座談会。シーンを取り巻くトピックを総括した前回に続き、今回は下半期のオススメ音楽作品について語ってもらった。国内インディやブラジル音楽に詳しい風間一慶、DJとしても活動しインディペンデントな音楽に精通した松島広人(NordOst)、Podcast『コンテンツ過剰接続』ホストのキムラは、それぞれどんなアルバムに注目したのか。なお、PodcastとYouTubeには、記事に入りきらなかった話題もフルサイズで収録しているので、あわせてチェックしてほしい。
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気鋭ピアニストからさよポニまで、ブラジル音楽視点の注目作
—ここからは2025年下半期にリリースされた新譜について伺いたいと思います。まずは風間さんから注目した作品を紹介していただけますか。
風間:はい。自分はブラジル音楽周辺を定点観測的に掘っているんですけど、その文脈でまず紹介したいのは梅井美咲さんです。ピアニスト / コンポーザーとして活躍されていて、今年のはじめにはジョーディー・グリープ(Geordie Greep)のジャパンツアーにメンバーとして参加もしていました。なので、ご本人も、いうまでもなくバリバリの演奏をする方なんですが、『Asleep Above Creatures』というアルバムにはアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)が参加していたのが興味深かったです。
風間:ロウレイロは「ミナス新世代」のように日本では紹介されていて、ここ10年ぐらい影響力があるブラジルのミュージシャンですね。彼から人脈をつないでいくと、南米ジャズの盛り上がりも見えてきます。いま、ミナスの影響を受けた、ラプラタ川流域、ウルグアイやアルゼンチンのジャズが面白くなっていて、マテオ・オットネッロ(Mateo Ottonello)というドラマーのアルバムも下半期に見つけて面白かったです。
風間:もうひとつブラジル音楽関係で挙げたいのが、さよならポニーテールです。
松島:えっ、さよポニですか?
風間:はい。今年『水』というアルバムを出して、このアルバムがボサノバから影響を受けている作品だったんですよ。例えばコーネリアスの『Point』にその名も“Brazil”という曲があったり、テイ・トウワが“Technova”という曲で、ジョアン・ジルベルトの娘のベベウ・ジルベルトをフィーチャリングしていて、ブラジル音楽ファンの間では神格化されているんですけど、その辺りに近いような印象を受けました。ここのところ、渋谷系とかカフェミュージックの読み直しが多い気がするんですけど、そのまた新しいひとつが出たというか。
松島:なるほど。
風間:タイトルが『水』ですけど、「水」というのはブラジル音楽で象徴的な概念なんですね。アントニオ・カルロス・ジョビンの“三月の水(Águas De Março)”とか、名曲に象徴的に使われることが多いんです。そこに、さよならポニーテールがコミットしていったのは、ブラジル音楽を定点観測している身からすると面白かったです。
松島:へえ! それはチェックしてみようという気持ちになりますね。